第1章 5.5話
第1章 3話 : 誤字修正
〇 東は行ける範囲で→北は行ける範囲で
「あの、本当にあの鎌を渡して良かったんですか? あれは……」
「仕方ないでしょ、この世界で身を守れるようなクラスの鎌なんてあれしか無いんだし」
「そうは言われますが……あれは、先代の死神の鎌ですよね?」
「相手が望んだものを出す。そもそも、選べと言ったのはこっちよ? 意地でも『ありません』なんて言えないのよ」
「真面目ですねぇ。あなたなら、ぱっと作って渡すことも出来たでしょう?」
「……それ、本気で言ってる?」
「うそうそ、そんな怖い顔しないでよ〜、冗談に決まってるじゃない!」
「……はぁ。シャレにならないわよね。私が造った武器が、手を抜こうが本気で打とうが『神を殺せる』武器になるなんて。厄介な力よね」
「別にいいんじゃない? そのおかげであなたはここにいるのだし。それに、後悔もしてないんでしょ?」
「……あんたみたいなお気楽な奴が多いから嫌いなんだよ、ココ」
「じゃあ、また下に行く?」
「それこそ冗談。あんな地獄は二度とゴメンよ。まるで生きた心地がしない」
「あら、一度死んでる貴方が言うと、説得力が違いますね?」
「……今すぐ武器を打つが、何か遺言は?」
「ちょっ、やめてやめて! そんなことしたら貴方もタダじゃすまないのよ?」
「クソっ、小憎たらしい……分かってるよ、もう暴れたりしない」
「そう、分かればいいのよ。分かれば……へぶっ!?」
「ったく、口を開けば耳障りなことばかり言いやがって。……やっぱり痛てぇな。神様でも、デコピン一つでこっちの指がイカれる」
「いったぁぁぁ!? やめなさいよ! 貴方のデコピン、私じゃないと粉微塵に吹き飛んでるわよ!?」
「だからやった」
「むきぃぃぃ! そうやってバカにしてぇ!」
「なら、その口を閉じろ。ホントに槌を手に取りそうだ」
「……ハイハイ、分かったわよ。で、そのコはどうするの? 強引に引っ張ってきたみたいだけど」
「見てられなかったんだよ。これじゃ不憫すぎるだろ。そもそも、コイツは本来死ぬはずがなかったんだしな。落ち度はこちらにある。何とかしないとダメだろう」
「貴方も難儀ねぇ。そうやって、下手に真面目だから不幸になるのよ? もっと楽に生きましょうよ、楽に」
「お前みたいな極楽トンボと一緒にするな。そうでなきゃ、私が私じゃなくなる」
「それで、貴方が面倒見るってことでいいの? まだ目を覚ましてないみたいだけど」
「死ぬべくして死んでこっちに来たアイツと違って、コイツは本当に不慮の事故だ。無理やり引っ張って来たせいで、コイツの存在すらあやふやになってる。自我を取り戻して存在が確立したら、アイツの元に送ってやるよ」
「えー? あの子に情でも湧いたの?」
「……まぁな、一応出自は同じなわけだし」
「貴方ほど酷い事にはならないといいわね」
「はぁ……そうね。その為に、私もできることをする。邪魔しないでよ」
「ハイハイ。したらどんな目にあうか分かったものじゃないものね」
「そういうこと。一から見てたんだろ? コイツの面倒見てないといけないから、報告しといて」
「はーいはい。私は私の役目を全うしますよー、っと。じゃね!」
「とっとと行け。……はぁ、どうしたもんかなぁ。他の奴らは知らないだろうけど……、あれ、そもそも武器であって武器じゃないんだよね……。グレードダウンとか、丸一年掛けても無理ね。何か手を加えようとしたら、私が消えちゃうかもだし。とんでもないことを押し付けてくれちゃって……はぁ、めんどくさ」
◇◇◇
時は一週間ほど前。
突然、人事部────死んだ魂をアレコレする神の役目────の仕事を丸投げされた。
なんでも、私と同じ日本から転生してくるかららしい。
だが、問題はそこじゃない。
この世界において、死神として人の命を刈り取る役目をしていた神が、無茶をして日本の人間を一人引っこ抜いてきたらしい。理由は知らない。
武器を選ばせるのは恒例であるが、わざわざ私がやる必要のない仕事。なのに、何故私がやることになったのか。ホントにやめて欲しいよね。
因みにその死神は今、そのコを引っこ抜いて来る時に力を使いすぎて、存在が消えかかっている。何やってるの? ホントに何やってるの?
その時に渡してきた鎌は、その死神にとって本当に命と同等の価値があるもののはず。これを渡せってことか? 下手したら、存在ごと上書きされて両方消えるぞ。
なんていう事情があったのだけれど、同郷のよしみということで……やるしかない。
はぁ、めんどくさ。