表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

人間の男は亡霊なんかよりよっぽど危険なんだ

「そうだわ! うちに来て。リュカ」

「……は?」

「うちに泊まればいいわ」

 にっこり笑った彼女の口から飛び出した、思いがけない提案に、思わず言葉を失った。

『アレット、何ばかなこと言ってるんだ!』

『そうだ。見ず知らずの男を家に泊めるなんて、ありえない』

 ロイクと伯爵もかなり驚いた様子で、口々に彼女を止めようとする。

「え? だって、リュカは見ず知らずじゃないでしょ?」

『そういうことじゃなくて……』

『見ず知らずと、ほとんど同じだろうが』

 しかし彼女は、彼らが心配する理由が分からないらしく、きょとんとしている。

「それに、見ず知らずだと、どうしてだめなの? 宿に泊まる人って、みんなそうでしょ?」

『だから……』

 黒猫が頭を抱えて盛大にため息をついた。脱力した伯爵が、空を仰ぎ見る。

 そんな中、はしゃいだミリアンが話を混ぜ返してくる。

『リュカがうちに泊まるの? ホントに? それってすごく楽しそう』

「でしょ? ミリアンは、賛成してくれるわよね」

 女の子二人が、楽しそうに盛り上がっている様子を呆然と見ていたリュカが、ぱんと自分の両頬を打った。

 この突拍子もない話は、さすがに断らなければ!

「アレット、伯爵達の言う通りだよ。気持ちは嬉しいけど、遠慮しておくよ」

「遠慮なんかいらないわ」

「君に迷惑を掛けたくないんだ。お家の方も困るだろうしね」

 気合いを入れて説得に参加したものの、これまでの亡霊たちとのやり取りを考えると、どうにも説得できる気がしなかった。

 アレットはかわいらしくて、無邪気で、世間知らずで、たより無さげで……でも、すばらしく頑固だ。

 なまじ自分好みの女の子だけに、強くつっぱねることもできず、途方に暮れながらもひたすら説得の言葉を重ねていく。

「どうして? 迷惑だなんて思っていないし、誰も困らないわ。他に誰もいないから、気にしなくてもいいわよ。だから、ね?」

 まるで男を誘うような台詞に、リュカの目が点になる。

 彼女の笑顔を見れば、そういうつもりで言っているのではないと分かるが……。

「誰もいないって……。アレットって、もしかして一人暮らしなの?」

「一人じゃないわ。ここにいるみんなと住んでるんだもの」

「いや……それ、一人暮らしと同じだし。人間はアレットだけなんだろ? だったらなおさら、ダメだよ」

「なぜ? なぜ一人暮らしだったらダメなの?」

 本当に不思議そうな顔をするアレットに、もう頭を抱えるしかなかった。どうしたらいいのか、とことん困る。

『人間の男は亡霊なんかより、よっぽど危険なんだ。この男を君の家に泊まらせる訳にはいかない』

 伯爵が、リュカとアレットの間に立ちふさがるように滑り込んできた。

 しかし、リュカにとっては壁になっても、アレットには伯爵が視えないのだから、全く効果ははない。おそらく、伯爵を透かしてじっとこっちを見ているはずだ。

「どうして危険なの? リュカは悪い人には見えないわ」

『だから……つまり……』

 伯爵が、人間の男の方が危険な理由を、アレットに説明しようと試みる。

 しかし、アレットはいいにしても、すぐ隣で六歳のミリアンも話を聞いているから、どう話したらいいのか、非常に困っているようだ。

「あああああ……もう!」

 リュカは、頭をがしがしと掻くと、足元にいた黒猫の前にしゃがみ込んだ。

「アレットって十五歳ぐらい?」

『十六だ』

「十六歳で、なんであんなに子どもなのさ」

『教えてくれる大人が、近くにいなかったんだ』

「だとしても……。ロイク、お前、見たところ彼女の保護者のようなもんだろ? なんとかしてくれ。俺、すごく困ってるんだ」

 すれ違う人たちが、変なものでも見るような視線を向ける。

 空気に向かって話す少女と、何もない地面に向かって話す奇妙な姿の青年。はたからは、そう見えるはずだから、確かに変な光景に違いなかった。

 伯爵と女の子たちの議論は白熱していた。

 アレットと本物の子どものミリアンが相手では、説得なんて到底不可能だろう。

 ロイクはその様子を横目に、さんざん迷ったあげく、ようやく答えを出した。

『今晩、一晩だけ泊まっていってくれないか』

「いいのか?」

『ああ。ただし、アレットに何かしたら、お前を呪い殺してやるから覚悟しろ』

「呪い殺すなんて……おっかない話だな。分かったよ。確かに、そうするしかなさそうだ」

 リュカは苦笑して立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ