表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

アレットって、お……さんみたい

『リュカ。リュカはアレットのこと、好き?』

 この大事な場面に、突然、ミリアンが口を挟んできた。

 普段全く空気を読まないくせに、心を読んだかのような言葉に、腰が砕けた。顔を真っ赤にして、後ろを振り返ると、情けないほどしどろもどろになってしまう。

「なっ、な……ミリアン。……それ、今……俺が、言おうと……………え?」

 茶化すような顔でいるのかと思いきや、少女は両手でスカートを握りしめ、ひどく思い詰めた表情で立っていた。

「どうした?」

 立って行って、ミリアンの前にかがみ込み、唇をぎゅっと結んだ青白い顔を覗き込む。

『アタシはアレットのことが大好き! リュカのことも好きよ。だから、二人にはずーっと仲良しでいて欲しいって思ってる。大好きな二人の邪魔はしたくないの。だから、お願い。アタシを除霊して!』

 目に涙をいっぱいためた訴えに驚いて、リュカは骨と皮だけの両腕をつかんだ。

「なに言ってるんだ! 邪魔だなんて誰も思っていないよ。除霊なんて、できる訳ないだろ」

『だって……ロイクも伯爵も行っちゃったんだよ? アタシ一人だけ、ここに残っていたくないもん。アタシも早く、天に召されたいの。でも、どうやったら行けるのか、分からないんだもん。ふえぇ……』

「そんなに焦らなくてもいいんだよ」

「そうよミリアン。行き方が分かるまで、ここにいればいいのよ。どうしても、分からなければ、ずっといたっていいわ」

 アレットがリュカの隣に屈んで、優しく声をかけた。

『うう……アレット。ふえええええ……ん』

 ミリアンがリュカの手を振りほどいて、泣きながらアレットにすがりついた。

 アレットには少女の姿が視えないし、すがりつかれても何も感じないが、リュカの視線の動きからそれを理解して、触れられない背中を抱くように手を回す。

『アレットには……いっぱい……遊んでもらった……し、リュカは、すごく、優しくしてくれた。もう……いいの。もう……充分、なの。だから、アタシを送ってよ、リュカ』

 リュカが手を伸ばし、ミリアンの頭を撫でながら、言い聞かせる。

「だめだ。俺が骸骨の亡霊を消すところを見ただろ? 無理に消されるのはすごく苦しいんだ。それに、叶えられなかった望みを、永遠に抱えたままでいなきゃならないんだよ」

『だってぇー。ふえええぇ』

「いいから、ここにいろ。みんな一度にいなくなってしまったら、アレットだって寂しいだろう? ……アレット、手をかして」

 リュカがミリアンの後ろに回り込み、アレットの手を取った。そして、自分の手を添えた彼女の手を、ミリアンの肩に乗せてやる。

 するとアレットの眼に、膝にすがりついているミリアンの姿が、浮かび上がってきた。

「ミリアン、視えるわ。それに、触れる。なんてかわいいの」

 アレットがミリアンの眼を見つめて微笑むと、やせ細った体をふわりと抱きしめた。

 ミリアンは嬉しそうに眼を閉じて、甘えるようにアレットの胸に顔を埋める。

『アレットって、お……さんみたい』

「え? なあに」

『そうだ……』

 ぽつりとつぶやかれた言葉をアレットが聞き返したが、ミリアンは言い直すかわりに、別のことを言い出した。

『いいこと考えた! アタシ、天に召されても、生まれ変わってここに戻ってくるわ。アレットとリュカの子どもになって戻ってくる! いいでしょ?』

「な、何を……」

 突拍子もない言葉に、リュカは面食らって言葉を失くした。

 アレットは腕の中にいるミリアンを見つめて、ぱあっと表情を明るくする。

「本当? 戻ってきてくれるの? ミリアンがわたしの子どもだったら、とっても嬉しいわ」

『うん。アタシもアレットがお母さんだったら、すっごく嬉しい!』

「じゃあ、戻ってきたら、あなたのドレスに刺繍してあげる。こんな真っ白なドレスに、赤や黄色やピンクのお花模様をたくさん刺してあげるわ」

『嬉しい! でも、アタシも刺繍してみたいな。大きくなったら、教えてくれる?』

「そうね、うふふ。一緒に針仕事できたら楽しいわね」

 リュカは女の子二人のはしゃいだ会話を、呆気にとられて眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ