アレットって、お……さんみたい
『リュカ。リュカはアレットのこと、好き?』
この大事な場面に、突然、ミリアンが口を挟んできた。
普段全く空気を読まないくせに、心を読んだかのような言葉に、腰が砕けた。顔を真っ赤にして、後ろを振り返ると、情けないほどしどろもどろになってしまう。
「なっ、な……ミリアン。……それ、今……俺が、言おうと……………え?」
茶化すような顔でいるのかと思いきや、少女は両手でスカートを握りしめ、ひどく思い詰めた表情で立っていた。
「どうした?」
立って行って、ミリアンの前にかがみ込み、唇をぎゅっと結んだ青白い顔を覗き込む。
『アタシはアレットのことが大好き! リュカのことも好きよ。だから、二人にはずーっと仲良しでいて欲しいって思ってる。大好きな二人の邪魔はしたくないの。だから、お願い。アタシを除霊して!』
目に涙をいっぱいためた訴えに驚いて、リュカは骨と皮だけの両腕をつかんだ。
「なに言ってるんだ! 邪魔だなんて誰も思っていないよ。除霊なんて、できる訳ないだろ」
『だって……ロイクも伯爵も行っちゃったんだよ? アタシ一人だけ、ここに残っていたくないもん。アタシも早く、天に召されたいの。でも、どうやったら行けるのか、分からないんだもん。ふえぇ……』
「そんなに焦らなくてもいいんだよ」
「そうよミリアン。行き方が分かるまで、ここにいればいいのよ。どうしても、分からなければ、ずっといたっていいわ」
アレットがリュカの隣に屈んで、優しく声をかけた。
『うう……アレット。ふえええええ……ん』
ミリアンがリュカの手を振りほどいて、泣きながらアレットにすがりついた。
アレットには少女の姿が視えないし、すがりつかれても何も感じないが、リュカの視線の動きからそれを理解して、触れられない背中を抱くように手を回す。
『アレットには……いっぱい……遊んでもらった……し、リュカは、すごく、優しくしてくれた。もう……いいの。もう……充分、なの。だから、アタシを送ってよ、リュカ』
リュカが手を伸ばし、ミリアンの頭を撫でながら、言い聞かせる。
「だめだ。俺が骸骨の亡霊を消すところを見ただろ? 無理に消されるのはすごく苦しいんだ。それに、叶えられなかった望みを、永遠に抱えたままでいなきゃならないんだよ」
『だってぇー。ふえええぇ』
「いいから、ここにいろ。みんな一度にいなくなってしまったら、アレットだって寂しいだろう? ……アレット、手をかして」
リュカがミリアンの後ろに回り込み、アレットの手を取った。そして、自分の手を添えた彼女の手を、ミリアンの肩に乗せてやる。
するとアレットの眼に、膝にすがりついているミリアンの姿が、浮かび上がってきた。
「ミリアン、視えるわ。それに、触れる。なんてかわいいの」
アレットがミリアンの眼を見つめて微笑むと、やせ細った体をふわりと抱きしめた。
ミリアンは嬉しそうに眼を閉じて、甘えるようにアレットの胸に顔を埋める。
『アレットって、お……さんみたい』
「え? なあに」
『そうだ……』
ぽつりとつぶやかれた言葉をアレットが聞き返したが、ミリアンは言い直すかわりに、別のことを言い出した。
『いいこと考えた! アタシ、天に召されても、生まれ変わってここに戻ってくるわ。アレットとリュカの子どもになって戻ってくる! いいでしょ?』
「な、何を……」
突拍子もない言葉に、リュカは面食らって言葉を失くした。
アレットは腕の中にいるミリアンを見つめて、ぱあっと表情を明るくする。
「本当? 戻ってきてくれるの? ミリアンがわたしの子どもだったら、とっても嬉しいわ」
『うん。アタシもアレットがお母さんだったら、すっごく嬉しい!』
「じゃあ、戻ってきたら、あなたのドレスに刺繍してあげる。こんな真っ白なドレスに、赤や黄色やピンクのお花模様をたくさん刺してあげるわ」
『嬉しい! でも、アタシも刺繍してみたいな。大きくなったら、教えてくれる?』
「そうね、うふふ。一緒に針仕事できたら楽しいわね」
リュカは女の子二人のはしゃいだ会話を、呆気にとられて眺めていた。




