自分で見つけるのが困難なら
見つかった!
一瞬、どきりとしたが、リュカの頭は瞬時に切り替わる。
そうだ。自力で見つけるのが困難なら、教えてもらえばいい。
ロイクが起こした騒ぎは、屋敷の裏手に移動していた。あれだけ大騒ぎになっているというのに、こんな場所に、しかも武器を携帯している男がいるなんて不自然だ。
おそらくこの男は見張り。地下への入り口を知っているはず。
「ああ、良かったぁ」
動揺を押し殺し、満面の笑顔を浮かべた。そして、自分から男に近づいていく。
男は、顔に変なメイクをした怪しい青年の予想外の行動に、怪訝な顔をしながらも短剣を握り直す。
「貴様、何者だ! 止まれ!」
短剣をぎらつかせて叫ぶ男の言葉は、全く無視だ。そのまま愛想の良い顔で話しながら、男に向かって平然と歩いていく。
「やだなぁ。そんな物騒なもの片付けてよ。俺、この屋敷に呼ばれて来たんだけど、誰もいなくて困っていたんだ。ちょうど良かった。案内してもらえないかな?」
「客なら玄関で待つものだ。どうしてこんな奥まで入り込んでいる!」
「実は、マノンお嬢様に、直接、地下室まで来るように言われたんだ」
「地下室だと?」
男の表情がさっと変わった。
間違いない。この男は知っている。
確信を深め、内心でほくそ笑みながら、軽薄な態度で話を進めていく。
「でも、俺、話をちゃんと聞いていなかったもんだから、どこから入るのか分からなくってさぁ。すぐに案内してよ。でないと、間に合わないんだ」
「そんな話は聞いていない。それに、お前のような妙な男に、お嬢様が用があるとは思えない」
「酷いなぁ。それは、俺がこんな顔をしてるからかい? 人は見かけで判断しちゃいけないよ」
赤いダイヤの模様を入れた左目を指差し、おどけた仕草と言葉で時間を稼ぎながら、頭の中では必死にこの後の展開を考える。
相手の体格を考えると、力づくでは失敗する可能性が高い。
彼に、納得の上で、地下室まで連れて行ってもらうには、どうしたら……。
「だったら、何の用があるっていうんだ」
「誰にも話しちゃいけないって、言われてるからなぁ」
「貴様! やっぱりでたらめなんだな! 何の目的でこんな場所に忍び込んだ! 白状させてやる!」
男は警戒を強めて、じりじりと間合いを詰めてくる。
リュカは相手を押しとどめるように、両の掌を向けて一歩下がる。
「ち、ちょっと待ってよ! 本当に、お嬢様に頼まれたんだよ」
「だから、何を頼まれたのかと聞いているんだ。言えっ!」
「……しょうがないなぁ」
どうする。
緊迫しすぎた展開に思考が追いつかない。背中に冷たい汗が伝っていく。
「地下室で行われるアレに必要なものを、持ってくるように言われたんだ」
「なにっ?」
苦し紛れの台詞に混ぜた「アレ」という言葉に、男の片眉が上がったのを、リュカは見逃さなかった。
この男は、地下室で何が行われるのかまで知っている?
だったら、欺くのは容易い。
「ほら、これだよ」
リュカは右手首をくるりと返して、掌を上にして男に見せた。




