*捌
東京、朝葉原。そこは電化製品と異形が集う場所。
時は春。とどのつまり日本では新学期。私立銀庭学園中等部も、新入生を迎える時期に入っていた。
「ねえ、今日から編入生来るんだってー?」
全てをエンターテイメントとして楽しむ者――
「みたいだねー…」
何も言わず、現状を黙って受け入れる者――
「どんな子だろう?無能力者かなあ?」
まだ何も知らない編入生に、期待を抱く者――
「…私を救済してくれる人だといいな」
ただただ自分の人生の終わりを待ち続ける者――
「あー、また言ってる!いくらイモータルだからってさ、自殺願望抱きすぎだっての!」
「いやさ、ずうっと死ぬことなく生き続けるって、案外苦しいよ?死にたいっていくら願っても、叶わないんだもの」
「確かに~、私クトゥグアだからよく知らないけど」
「その子と仲良くなったらさ、何が起こるんだろうね」
「知らなーい」
校内放送が入る。
『新しいクラスが発表されました。中等部の新二年生、新三年生、及び高等部の全生徒は指定された場所にお集まりください』
「…新しいクラスが発表されたって!」
***
「やあ諸君!今日から三年A組の担任になった、嶋村和穂だ!種族はクトゥルフ、担当科目は地学を中心に理科系だ!よろしく頼む!」
「よろしくお願いします!」
「この間『クトゥルフ神話』を読んだ。まあ私とてクトゥルフだから、タイトルから一定の期待はするわけだ。だがレビューを見たら、タイトルが『クトゥルフ神話』なのに他の神の方が人気だった!」
「まさか、知らずに見たんですか?」
「皆はタイトルだけで本の内容を想像しないように!そうしなければ勝手に期待して勝手に裏切られるという羽目になるぞ!」
「…」
生徒達の頭に、競うようにして三点リーダーが浮かんだ。
「あと、編入生を紹介する。…岸波!」
「普通そっちが先だろ!」
教室の扉が、がらりと開いた。
「岸波扇です。よろしくお願いします」
長い黒髪と青紫の目をして、中学三年生にしてはまだそれほど劣化を感じさせない制服と幾多の謎に包まれた、美しくも妖しげな少女はそう言った。
――そう、新しい日常への扉が開いたのだ。
ヒントを出されないままクイズの答えを模索するように、サプライズと称して中身の知らない箱を開けるように、少女達は迷路の入り口へと踏み出す。
まだ何も知らない世界での冒険が、始まる。
Cast
岸波 扇
日笠 しきみ
能前 菊里
皇 昏羽
ニア
パトリシア・ファーレンハイト
野村 紗江
メアリー・アッカーソン
川谷 花子
屋取 真那
屋取 佳那
猿夢
駿河 東香
瀬田 礼麻
菊川 真弓
湯元 千秋
和泉 鈴菜
水谷
庄司 未緒
嶋村 和穂
ハイセ
原作イラスト 倉井 夜空
原作 有栖川 優悟
皆様はじめまして。そうでない方はこんにちは。「となりの通り魔さま。」、略して「となりま」をご覧いただき、ありがとうございます。「となりま」の原作担当の有栖川優悟と申します。有栖川記念公園の有栖川に、優しさを悟ると書いて「有栖川優悟」です。以後お見知り置きを。
さて、この「となりま」ができるまでについて解説いたします。
・なぜこのタイトルになったか。以下にもありますが「秋葉原通り魔事件を意識した題名にしよう」ということで、「通り魔」というフレーズを入れるという条件の中で決めていったものです。「通り魔」が異形だらけの日常と常に隣り合わせている、ということで「となりの」。「となりの通り魔」だとちょっと響きがよくないので、題名くらいは主人公を立てるという目的で「さま」をつけて「となりの通り魔さま。」に決定しました。
・構想は、実は一〇月くらいからありました!この流れができるまでは、主人公は異形の予定でした。「普通の人間たちに囲まれる、異形の主人公」だったんです。それとは別に「学級委員が戦う話」の構想もありました。
だったのですが、舞台を決める際に東京の中から選んだ結果「秋葉原」になったところで「秋葉原通り魔事件」が出てきてしまって、どうせならこの犯人をモデルに書こう!と思い至りました。そして秋葉原通り魔事件の動機を熟読した結果、主人公を「異形たちに囲まれる、普通の人間の主人公」、いわゆる「持たざる者」として書くことになりました。
主人公が「持たざる者」なら、周りのキャラは「持てる者」ということで、何も持たない主人公を見下す人がいて、その頂点が凄くハイスペックの子で…という時点で駿河ができました。
そして何らかの経緯で主人公は力を手に入れて、これまで自分を見下してきた人達に復讐する…という流れ。の予定です。
かくいう私も自他共に認める「持たざる者」です。そして負けず嫌いです。扇ちゃんが活躍するシーンは、自分にとって憎い相手を思い浮かべて書いています。復讐ものを書いてる人にはこの方法はオススメです。
・本作のジャンルは「アキバ系サイコホラー」です。アキバ系とはいいつつも劇中では今の所「秋葉原」という名称自体は出てきませんが(これから出さないとは言ってない)、本作の舞台「朝葉原(“ともはばら”、ね。“あさはばら”じゃないよ!)」は二一〇〇年の秋葉原という設定です。なので、実際の秋葉原とは少々異なります。私もそんなに秋葉原には詳しくないです。あくまでも秋葉原がたどる未来の一つの結果、いわゆる「パラレルワールド」としてお楽しみください。
最後に。
この作品を見ている全ての方々、及び私に関わる全ての方々に、この場を借りて御礼を申し上げます。
2017年 5月 22日
自宅にて
有栖川 優悟