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×1 十二時半の魔物  作者: 有栖川優悟
4/8

*肆

▼パトリシア

 私は自他共に認める戦闘狂である。強い相手と戦うことは何よりも楽しいと思うし、“通り魔”も、映像を見ていてただ強そうだったから、戦ったら面白そうだと、戦ってみたいと思っただけである。紗江さえと違い、別に人間に恨みがあるわけでも殺戮が好きなわけでもない。私は強い人を見かけたらいつもこうなる。それが一回映像で見たっきりの人だとしても関係はない。

 それが――それこそが私だ。

 この異形社会の中でも“はぐれ者”である私達が集うレストラン『九十九堂つくもどう 朝葉原ともはばら店』。以前は現世をワゴンで転々としていたが、五十年ほど前に異形の存在がポピュラーなものになってからは、このまま朝葉原に留まり続けている。

「アイツ、本当に無能力者ブランカーなのかなあ…………」

 無能力者――要するに「何の能力も持たない普通の人間」のことだ。百年前はその方が多かったらしいが、今は普通の人間自体が珍しくなっている。

「その物言いからして、“通り魔”の事か?」

 声から察するに真那まなだろう…が、いつの間に私の後ろに居たのだろうか。

「…そうだ、アイツの事だ」

「本当に貴方は“通り魔”の事が気になるのね」

「そうだけど…って、なんで花子はなこまで居るんだよ!」

 川谷かわや花子。白いワイシャツを着て赤い吊りスカートを履いた黒いショートヘアの少女、人呼んで「トイレの花子さん」だ。誰もいないはずの学校のトイレで、ある方法で呼びかけると返事を返すらしい。

「さっきからずっと居たわよ。気づいてなかったの?」

「いや全然…さすが“トイレの花子さん”だな」

「気配を消し慣れすぎてしまっていたわ…」

「何年“トイレの花子さん”やってんだよ!」

「少なくとも私よりは後輩だな」

 花子は少女の姿をしてはいるが、こう見えて百年以上は生きているらしい。異形の成長は種族により差はあるもの大抵は人間と比べて遅く、長生きしやすいが老いることは基本的にはない。紫ババアなどは例外である。

「私か?少なくとも二千年は生きている」

「メリーは私と同じくらい、“メリーさん”をしているわ。猿夢さるゆめも、平成の時点では居たわね」

 真那達は…両面宿儺りょうめんすくな仁徳天皇にんとくてんのうの時代から生きており、その存在は日本書紀にも載っている…らしい。――となると、私が知っている異形で私と同い年なのは、八尺様はっしゃくさま末裔まつえいである礼麻れいまと、テケテケの紗江ぐらいのものだ。

「そうか…ってか、伝えなくていいのか?礼麻に」

「ああ、“通り魔”のこと?」

「伝える必要はあるまい。礼麻なら、おそらく知っているだろうし」

「…この異形社会がくつがえる日も、いつかは来そうね」



 ***



  RRRRRR…RRRRRR…

「はい、もしもし私メリー!今、『九十九堂』に居るの!要件なあに?」

 この『九十九堂 朝葉原店』はお化け屋敷をテーマとしたコンセプトカフェ・レストランチェーンだ。当然というべきか、通う客も異形が多い。

 コンセプトがお化け屋敷のためか制服に着替えることもなく、花子やテケテケは普段の私服のまま接客している。

「ねえ、アクサラさん」

 庄司未緒しょうじみお。『九十九堂』の常連客の一人で、旧鼠きゅうその血を引く少女だ。

「…ん?」

「あのー、猿夢さんは?」

「猿夢か?あいつなら倒されて、もういないぞ?」

「寂しくないのですか?」

「別に?人手が一人減って、その分の打撃は受けてるけど、それだけだ」

 私達は「友達」でもなければ「仲間」でもない。たまたま利害が一致しているから共に行動しているだけで、それ以上の感情はない。誰かがまた別の誰かに傷つけられるなんて当たり前のことで、そうでもしないと生き残ることはできない。だから仲間意識はほとんどない。失ってつらくなるのならば最初から友達など持たなければ良い、それだけなのだ。

「ああそうだ、“通り魔”って知ってるか?」

「…わかりません」

「そいつを今探しているんだけどな、知らないなら仕方ないか」

「どんな人なんですか?」

「なんかすげえ強い奴らしい。無能力者らしいんだけどな…」

 あえて猿夢を殺したのが“通り魔”であることを隠して話す。知ってしまえば、無関係な未緒を巻き込むことになりかねないからだ。

「そうなんですね。何か聞いたらまた報告しますね!」

「ああ、またな!」

 からん、とドアが開き未緒が出て行く。

 ――必ず、見つけ出してやる。見つけ出した暁には、絶対に戦ってやるんだ。

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