覚醒
頭の中に膨大な情報が高速で流れ込んでくるのが分かる。
その全てが整理され、引き出そうと思えば一瞬にして検索が終了する。
「これは一体……?」
思わず疑問を口に出してしまうが、瞬時に検索は終了。
答えが導き出され、脳内に無機質な女性の声が響く。
『これは大賢者ユニークスキル[智慧]による効果です』
何故急にこんなことが…? 先ほどまでもステータスには大賢者とあったはず。
『[性神汚染]が解除、賢者時間が発動したためです』
なるほど。とことん馬鹿にされているらしい。腹立たしいままに、ステータスを確認する。
名前:黒鉄 一重(人間)
性別:男(18歳)
職業:剣神、大賢者(+)
攻撃力:988000
魔法力:術依存(+)
魔量:∞(+)
状態:賢者時間(6時間32分17秒) 性神汚染(-) 童貞(+) 右手が恋人
ユニークスキル:神速 刀剣術 想見魔法(+) 心眼(+) 智慧(+)
固有武器:へし切長谷部(神作)
備考:アレニウス神の庇護
どこも変わってな……くはない。
前回確認したときは(-)表記であった箇所が(+)になっている。逆に[性神汚染]は(-)へ変化していた。
さらに、[賢者時間]の隣に時間が記載され、カウントダウンが進む。
[智慧]に問うまでもない、[賢者時間]終了までの時間だって事くらい馬鹿でもわかる。
ってことは、だ。
性神汚染(煩悩)→発散(情事)→大賢者→性神汚染(煩悩)→以下略
を繰り返すって事だろうか。
……ちょっと責任者出て来い。小一時間説教してやるから。
しかも、この6時間30分って短いのか長いのか分からん、どっちなんだ?
『本件の場合、比較的長め』
って、煩いわ! 短い言われるよりはマシだろうけども!
まぁ確かに今の気分はいつもより穏やかだ。なぜか知らんが。
『神のオカズ』
ああ、そうでしたね! 神様のギフトでしたね! 効果も抜群だ!
って、馬鹿か!
一人乗り突っ込みしながら、夜は更けていく。
翌朝
精神も若返った気がするが、「これ」もその影響だろうか。
起床してすぐ己のテントを片付ける必要があった。
小屋で寝てるのにって? そこは男なら分かるだろ?
「……ふぅ。」
朝一賢者[6時間30分]のお出ましである。
草原の中、思い切り吸い込む空気がおいしい。
とりあえず小川で昨日からの汚れを落とし、顔を洗ってしゃっきりする。
腹も減ったが、食料は小屋に無かった。小川に魚はいるが……。
よし、魔法を試してみよう。
ユニークスキルには[想見魔法]と書いてある。これは……
『想見魔法はイメージした通りに魔法効果が現れます』
と言うことらしい。まずは試す。
魚を浮かべ……おお! 浮かんだ! 魚がピチピチと空中で漂う光景は面白い。
今度は火で焼いて、と。15分ほどで絶妙な焼き加減の焼き魚が完成した!
「うまい!」
水が澄んでいるから川魚独特の泥臭さはまったく無く、香ばしい良い香りだけが鼻腔を支配する。
あっという間に平らげてしまったが、まだ物足りない。肉体が若返ったから余計に腹が減るのだろう。
また焼く時間が惜しい……あ、魔法で焼き魚を出せば済むんじゃないか?
『否。魔法によって物質そのものは得られません。
つまり具現化しても栄養や味は無く、あくまで焼き魚を模した魔力。結果飢え死にします』
そう都合よくはいかないらしい。仕方が無いので、2、3匹まとめて焼き上げる。
どれも美味しかったので満足だ。
そういえば、前世では寝食以外は剣術修行に明け暮れていた。
自分で魚を獲って焼いて食べるなんてことも無く、
こんな他愛も無いことすら楽しくて、美味しいなんてことを知らなかった。
今世では剣術のことは忘れ、大いに楽しもうと改めて誓う。
さて、腹も膨れたことだし、出発するには頃合いだ。
もっとも直近の街はどこだろう?
『まっすぐ行けば突き当たる道を、東へ歩いて1日ほどの距離に都市[イリノエ]があります』
良し! まずはそこをめざすか!
アイテムボックスならぬ小屋を念じて消し去る。
小屋が消えた後のなぎ倒された小さい草花を見て、使う場所は熟慮しようと決めた。
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