登場するも……
白煙からドラゴンさんが涙目で飛び出して来たので、一端攻撃をやめて様子を伺う。なんだかんだ言ってもドラゴンだからな!
姿を現したドラゴンさんの見た目は、予想していた通りかなり小さかった。いや、むしろ予想よりも小さい位だ。だってドラゴンって聞いていて人間の赤ちゃんと同じ位なんて予想しないだろう?
体の色はまさかのピンク色だ。色合い・小動物のような体の大きさ・仕草など愛嬌を全身で醸し出してるって感じだな。
しかし、このドラゴンさんは俺達と相対しても敵対心を向ける事はなかった。
『まだ私の登場シーンではないか!! それくらい待ってくれてもいいだろうに……ったく、これだから最近の人間は』
代わりに、膨れっ面でぶつぶつと文句を飛ばしてはきたが。ドラゴンなのに変に人間っぽいな。
だが、その様子がうちのちびっ子2人にはバカ受けしたようだ。
「ニャー!! これがドラゴンなのニャ!? あ、でも見た目よりは重たいニャ」
「や、やめろ!! 私は誇り高きドラゴンなのだぞ!? 気安く触るんじゃない!」
「めちゃくちゃ可愛いのです!! ミケ、ずるいのです。スミスにも抱っこさせてほしいのです」
2人に人形を取り合うように揉みくちゃにされるドラゴンさん。気丈に振る舞ってはいるが、全然怖くない。
「ま、待て! それ以上触ると火を吐くぞ!? 火傷をしても知らないぞ?」
むしろ、涙目なのに威嚇しながらも火傷を気遣う所が無理矢理悪ぶってるようにしか見えなくて余計に可愛く見える。
なんなんだこの生き物は。あれがボスとか反則だろう。ある意味倒す事ができないぜ。
倒すだけならばたぶん簡単なんだろうけど、倒してしまった瞬間こっちが悪者になるからね。
そういえば、こういう時クロはどんな反応をするのだろう。あんなに愛くるしい見た目の生き物にも容赦なく罵倒や攻撃をするのだろうか。それとも、俺がまだ見た事のない女の子らしい部分を見せてくれるのだろうか。どちらにしても面白いな、私気になります!!
好奇心満々に後ろを振り返る。
「あれ、おかしいな誰もいない……?」
振り返れば奴がいるとばかりに俺ごと攻撃をしようとしていたはずのクロは俺から少し距離を空けて後ろにいるはずだったのに、実際に振り返るとそこには誰もいなかった。
あれれ? じゃあクロはどこへ行ったんだ?
まさか、俺達がドラゴンさんへ注目している間に罠にでも掛かったのだろうか。俺は慌てて周りの様子を確認する。
しかし、俺の背後、左右を確認してもクロはやはりいなくて、部屋の状況も特に変化はなさそうだ。かといってこの部屋は無駄にだだっ広くて、隠れるような物も何もない。
むむむ、分からん。部屋には確かに一緒に入ったし、ドラゴンさん登場までは俺ごと魔法で攻撃できるように少し距離を空けて着いて来ていたはずなのにな。
やはり落とし穴など、何らかの罠に掛かったて捕まっているのだろうか。そして、あんな事やこんな事にまでされているのでは……ぐへへ。
危機感なく心配から妄想へと横道に逸れ始めて来ていた時、突然部屋に悲鳴のような声が響き渡った。
『何をしているのでおじゃ、アマンダ! コアに人が来ているのじゃ! あぁ、もう! 麿が出るしかないのか』
コアに人が来ている? いや、ドラゴンさんにある意味みんな足止め喰らっているんだけど……
コアへと目を向けてみると、確かに回収しようとしている奴がいた。
「ちっ、見つかったであります。しかし、ここまで来ればこっちのものであります」
間違いない、クロだ。
あいつボスであるドラゴンさんや、足止めされてる俺達をガン無視してダンジョンコアの回収をしようとしていたのか。
「えっ、ちょ、なんでコアの所に!? ちょっと、放してくれ! ダンジョンコアを守るのはこのダンジョンのボスである私の仕事なんだ」
「だーめ、次はスミスが抱っこする番なのです。もうちょっと我慢してほしいのです」
「ニャ、暴れちゃ駄目なのニャ! 」
手を離す気0のお二方。こういう時の女の子って怖いよね……
俺もこんな風に女の子に取り合って貰いたいもんだぜ。
いや、あれはあれでハーレム系主人公も色々大変なんだろうけどな。
まぁ、そんな事は置いておいて、お二方がドラゴンさんに逃げられてもダンジョンコアに向かう前に俺が邪魔するけどね? だってダンジョンコア回収したらそれで終わりだろうしね。倒しにくいボスも倒さなくて良いからちょうど良いしね。
だが必死に藻掻くドラゴンさんにはお気の毒な事に、ドラゴンさんが思ったよりもひ弱だからか、怪我をさせないよう気遣う優しさなのか、はたまたうちのお二方の力が強いからか、逃げ出す事はできなかった。
そしてクロはその間に確実に作業を進めているようだ。何をしているのかはよく分からないが、ぱっと見た感じ金庫を開ける泥棒のような行動をしているので、例えるならば俺がダンジョンコアだと思ってた物は宝箱のような物で、中にダンジョンコアが収納されており、今は宝箱を開ける作業をしているような感じだろうか。
「むむむ、見た目の割りに難解な構造をしているでありますな……」
クロは順調そうに作業をしているように見えたが、どうやら行き詰まってしまったらしい。イライラしてきたのか、無理矢理開けようとしだしたし。
おい、中身まで壊れそうだから魔法はやめてくれよ?
しかし、魔法を使う前に止める者が現れた。
おそらく、先程話しかけて来た奴だろう。
「そこまででおじゃる!! って、ひっ、またお主達なのでおじゃるか!? どこまで麿の邪魔をしたら気が済むのでおじゃ……」
こちらを見て項垂れる女の子。なんか聞き覚えがある声と話し方だなぁ……