ボス部屋
「ダンジョンのボス部屋でありますなぁ。本来であれば情報を基に作戦会議といきたいところでありますが、今回はおそらくクロ達が一番乗りでありますから中に入ってみるまでどんなボスが待っているのか分からないであります」
「じゃあどうするのニャ?」
「それだと作戦など立てられないのです。一度引き返すです?」
引き返すのは勘弁してほしいな……
また同じような事させられそうだし。だけど、このまま突っ込むのも危ないよなぁ……
疲れきっていた俺はボス部屋にもたれ掛かりながらクロ達の会話に耳を傾けていた。会話に参加していないのは、単純に話すのもしんどいからだ。
しかし、俺はクロの一言により口を出さずにはいられなくなった。
「危険なのは情報があろうがなかろうが変わらないのであります。ならば、迷っている間に対策をされるかもしれないのでさっさと行くであります。ほら、さっさと行くのでありますよ、マスター」
「おい、お前は鬼か? それとも悪魔か何か!? さっきまでので俺、明らかに疲れきってんでしょうが! もう立ってるのもしんどいくらいへとへとなんだよ! 確かに、早く行った方が良いのは分かるけどさ……」
これに対して、何て返事したと思う?
「クロは悪魔型のダンジョンコアでありますが、それがどうかしたでありますか? マスターなら、これくらいへっちゃらだと思っていたのでありますが、まさかこんな事もできないのでありますか?」
……忘れてたわ。
そういえば確かに悪魔型のダンジョンコアってステータスに記載されていたな。でも見た目は普通に可愛い女の子で、黒い翼は確かに生えてるけどローブを着てるから見えないので、Sっ気がある所以外そんな悪魔要素がなかったし仕方ないよね!
そして何一つ悪びれる事なく、むしろこちらを煽ってくるそのスタイル……たまにはデレてくれてもいいんだぜ?
いや、待てよ……。いつもなら無条件に罵ってきていてもおかしくないはずだ。 もしかして、これは照れ隠しだったりするのか?
だとするとさっきの一見煽っているだけのように見える台詞も内心は……
『マスターなら、これくらいへっちゃらだと思っていたのでありますが、まさかこんな事もできないのでありますか? (クロのマスターならこんな事くらいへっちゃらだよね? クロはマスターの事を信じてるからこんな事言うんだよ?)』
みたいな感じか!?
やべ、見方を変えるだけでなんかメチャメチャ可愛く感じてきたぞ?
「……仕方ない、やってやんよ!! 信頼には応えないとな。ドラゴンだろうがなんだろうが、俺が倒してやんよ!! 」
「え、信頼でありますか? 何の事を言ってるのか分からないでありますが、やってくれるのならお願いするであります」
「ご主人様、急にどうしたのニャ? さっきまでずっとしんどそうにしてたというのに」
「ミケよ、男にはやらねばならない時があるのだよ」
「そ、そうなのニャ? ミケにはよく分からないニャ」
「では、何故かマスターも元気になったでありますし、行くでありますよ!」
「「「おぉー!!」」」
こうして俺達は勢いでボス部屋へ突っ込む事にした。先程自分で言った台詞がフラグになっていようとは思わずに……
重厚な扉を開けて中へ踏み込むと、そこはだだっ広い部屋だった。観察してみると、その部屋は飾り気が無く、ただ広いだけの部屋という感じなのだが、問題が1つある。
「ふわぁー、広いお部屋なのです。でも、ボスさんはいないのです?」
そう、肝心のボスがいないのだ。代わりと言っていいのか分からないが、自分から見て一番奥にダンジョンコアらしき物が置かれている。しかし、さすがにあれがボスという事はないだろう。ダンジョンコアに擬態しているという事もないことはないことはだろうが、それをボスがするとは思えない。
では、何が考えられるだろう。
1.ダンジョンができたばかりで、ボスがまだいない。もしくは討伐された。
2.ダンジョンコアに見えるあれがやっぱりボス。
3.この部屋はまだボス部屋ではない。
4.ダンジョンコアへと向かう途中でボス登場。
今パッと考えて思い付くのはこんなもんかな。1番は正直ないと思うけどね。なぜなら、もしもボスを倒したならこのダンジョンがまだ残っているんだって話になる。ダンジョンコアを回収なり壊すなりすればダンジョンも当然壊れるからね。それに、ダンジョンのボスをまだ作ってないってのも考えにくい。ここに来るまで魔物はそこそこいたが、そんなに強いのがいた訳でもないし、罠はほとんどなかった。なら、ボスを作るポイントくらいあるはずだ。ダンジョンマスターのジョブでは自分で倒した魔物しか作る事はできないけど、それならゴブリンやコボルトを仮にでもボスにできたはずだしな。
そして、2番3番も俺は違うと思う。勿論、あくまで俺の予想であり、可能性はあると思う。しかし、今まで数多くのゲームをしてきた俺のゲーム脳は2番を押してる。あのダンジョンコアへ向かう途中くらいでイベント発生でっかいって感じかな。こんなに部屋も広いし、出てくるボスもでっかいかもな。
「ご主人様ー、そんな所で考えてないで早く来るニャー!」
「遅いのですよー!」
っておい、俺が考えている間にもう進んでる!?
ヤバイ、もうそろそろ中間の位置へと着いてしまうじゃないか。俺の予感だとそろそろ何かが……
『よくぞここまで辿り着いたな、冒険者達よ!! ここまで辿り着いたそなたらに敬意を込めて、このダンジョンのボスであり、誇り高きドラゴンであるこの私が相手をしてやろう』
あっ、やべ俺死んだかも。