ダンジョンじゃなかった!?
「おーい、姉ちゃん。こっちはビールってのを追加で頼む!」
「あいよー! ビール1丁!」
「「喜んでー」」
おい、なんだこれは?
俺って確かダンジョンに入ったんだよな?
しかし、ダンジョンの中に入った俺達の目の前には酒場が広がっていた……
あれ? おかしくね!?
ちょっと外出てもう1回確認してみるか。
……やっぱり何にも変わらないよ!!
確かにダンジョンではないって立札には書いてあったよ? でも、酒場って……
「クロ、これ本当にダンジョンではなかったのかな……?」
「い、いや……おかしいでありますなぁ。……いや、でもダンジョンの反応はちゃんとある訳でありますし。……むむむ」
クロがそんなに悩むなんて珍しいな。今ままではクロがいて分からなかった事がなかったのにな。一家に一台どうですかって位超便利だったのに。
「マスター、何か失礼な事を考えているでありますね? クロだって分からない事位あるのでありますよ」
「むしろ、その方が人間らしくて良いと思うぜ? まぁ見てるだけで分からないなら、あそこのウェイトレスさんに聞いてみようぜ」
店の入口で固まったままのクロの手を取り、先程まで客の対応をしていたウェイトレスを探しつつ店内へと進んで行く。
どうやら先にウェイトレスさんがこちらに気付いてくれたようで、声を掛けながら近付いてくる。
「いらっしゃいませー! 人数はお2人でよろしいですか?」
「え、2人? いや、4人なんだけど。ってあれ!? あの2人どこ行った!?」
いつの間にか手を繋いで入ってきたスミスとミケの2人がいなくなっていた。
あれ!?
驚きのあまり外に置いてきてしまったか!?
「あぁ、もしかしてあの子達のお連れ様ですか?」
おおぅ、マジかよ。
ウェイトレスさんの指差す先を見てみると、そこには既に席に着き食事を始めているスミスと、それを止めようとしているミケがいた。
「おーい、ご主人様達ー! そんな所にずっと立っていないで、早くこっちへ来るのですよー! ここのお酒はとっても美味しいのです!」
「だ、だめなのニャ。スミス、こんな事したらいくら優しいご主人様でも怒られてしまうのニャ」
ここがやはりダンジョンで、この酒場は油断させる罠かもしれないってのに微塵も気にしないその余裕、さらに自分のご主人様を放って置いてお酒まで呑んでしまうなんて……この子、大物になるかもしれんな。それともただの考えなしなのだろか。
「ご主人様、スミスを怒らないで欲しいのニャ。ドワーフは無類の酒好きだから、こんな酒場に入ったら我慢しろっていう方が難しいと思うのニャ」
そーいえば確かにそんな設定ドワーフにはあったな! ドワーフにとってお酒は水と同じで、お酒飲まないと死んじゃうとか見た事ある。女の子のドワーフであるスミスは見た目背が低いだけの普通の女の子に見えるから、そんな設定というかドワーフである事すら忘れてたわ!
とりあえず怒られるのを怖がっているミケには頭を撫でて安心させる。仕方ない部分があるとはいえ、勝手に行動したスミスには軽いお仕置きをしておくとするか。
「ニャ……」
「あぁ、ご主人様はまたミケの頭を撫でているのです。ほら、こっちへ座ってスミスにもしてほしいのです」
そう言って頭を差し出してくるスミスに対し、この子怒られるなんて全く思ってなさそうだなと苦笑しながら、後ろに回り込む。
そして顔を上げさせ、両手でほっぺたを掴み、引っ張る!
「ス・ミ・スなんで1人で勝手に席に着いてお酒呑んでるのかな? いつの間にか近くにいなくて心配しただろ?」
「ぶふっ!? スミス、変な顔なのニャ」
「ひ、いひゃいのふぇす。ごふぇんなふぁいなのふぇす、ふぁなしてなのふぇすー!?」
「あとな、お酒も含めてご飯はみんなで食べる事! 勝手に食べちゃだめだろ!」
「ふぁ、ふぁかったのふぇす~」
よし、少しプニプニとしたほっぺたを離すのは名残惜しいがあまりやり過ぎては嫌われてしまうのでこの辺にしとあてやろう。
ふふふ、怒られそうでびくびくしてたミケも笑顔になったし、スミスも軽くお仕置きできたし、これぞ一石二鳥というやつだな。
「お、お客様? そのご様子ですと、お連れ様でよろしいのですね? では、またご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
あ、ウェイトレスさんの事すっかり忘れてた。
「あ、すいません。注文じゃないんですけど、ちょっと聞いても良いですか?」
「はい、私で分かる事であればお応えいたします。あ、エッチな質問はダメですからね?」
ふぁ!?
おいぃぃ、なんだ今のナチュラルなウインクは。
ってかちゃんと見てなかったけど、このウェイトレスさんメチャクチャ可愛じゃん!!
身長は170位と長身で、ほっそりとしたスタイルなのに出るところはしっかり出ているというナイスバデー。さらにウェイトレスのフリフリとした制服とニーソックスが破壊力抜群!
スカートは勿論ミニで、絶対領域が堪りません!!
これ、やっぱり罠なのだろうか!?
いやもう罠でも構わないんじゃなかろうか!?
「お、お客様? 大丈夫ですか?」
「ウェイトレスさん、変態の事は放って置いて欲しいのであります。聞きたい事というのは、ここがダンジョンなのかという事なのであります」
クロが妄想モードに入った俺の変わりに質問をしてくれたみたいだが、変態とは失礼だな。
「ダンジョン? あぁ、冒険者さん達だったのですね。ダンジョンの入口ならそこにありますよ」
ウェイトレスさんの指差す先を見ると、下に降りる階段があった。
だけど、この酒場に馴染み過ぎてて言われなきゃ分からないぞ。
「あ、ここはまだダンジョンじゃなかったのでありますね?」
「実はうちの店長が偶々料理の材料を山に採りに来た時にダンジョンを発見しまして、これは儲かるぞってダンジョンの入口があるここに店を移したんですよ。あれ、でもまだ一般の人には分からないようにしてるって言ってたような……?」
「なるほど、ここのダンジョンマスターと共生関係にあるのでありますね。だからダンジョンの中と同じような感覚なのでありますか。ありがとうなのであります、ではそろそろ出ますのであの子の支払いだけこれでお願いであります」
「ありがとうございます……って、お客様!? これはお代にしては多すぎます」
クロは慌てるウェイトレスさんに対し、シッと口に指を当てウインクを返す。
ウェイトレスさんもそれで理解したのか、無言で見送ってくれる。
なんだか、クロができる子過ぎてどっちがマスターか分からないよなぁ。
そんな事を思いながらダンジョンへと向かうのだった。
「まだ呑み足りないのですー!!」
お酒をまだ呑みたいとだだっ子になったスミスを宥めながらだがな。