無限回廊? 実際は……
おかしい……歩いても歩いてもモンスター1匹すら出て来ない。
それどころか、ずっと似たような通路を歩き続けている為に全く進んでいる気がしない、
これは何かおかしくないかとみんなが思い始めた頃、ホッパーがついに焦れて話し出した。
「あぁもう、いつまで経っても同じ景色じゃねえか! これ、本当に進んでるのか!?」
「……でも、今まで一本道だったよね? 迷いようがないと思うんだけど……」
「でもこれはさすがにおかしいだろ! それとも何か、この階層はただひたすら長いだけの一本道で、モンスターも出て来ないってのか?」
おい、ホッパーよ……、イライラするのは分かるが、俺の愛するメイプルにそんな言葉を投げ付けるなんてぶっ殺すぞ?
「おい、みんなイライラすんなよ……ってちょっと待て、これを見てみろ!!」
剣呑な雰囲気になってきていた所で、リーダーのビートが何かを発見したようだ。ビートが発見した物を見ると、それは通路に武器か何かで刻んだバツ印だった。
「おいおい、こんな時に落書きか? それともこのバツ印に一体どんな意味があるってんだ?」
ホッパー、こいつは本当に生意気だな……
これにはさすがにビートもイラッとしたようだが、リーダーの立場だからか、言い返す事もせず説明を始める。
「これは俺がさっき似たような所をずっと通ってるなと思い、もしもの時の為に付けておいまマークだ。これがどういう意味か分かるか?」
おい、それってもしかして……
全員がこの事実に息を飲む。
「おい、どーいう意味だよ。俺にも分かるようにちゃんと説明してくれよな!」
ホッパー……
「一本道のはずなのに付けておいたマークの場所までいつの間にか帰って来ていた。つまり、俺達は今同じ通路をぐるぐる回っているって訳だ」
「おいおいおい、そんな事があり得るのかよ!? んで、どうやって抜け出すか分かるのか!?」
「いや、分からん。そこでみんなの意見が聞きたいんだ。何か分かる事はないか?」
いきなりそんな事言われてもな……
……
結局、誰からも意見は出なかった。
「とりあえず、一回上の階層には戻れるのか試してみようぜ」
「そうだな、それを確認するのは重要だな」
「じゃあ、みんな1度戻るぞ! 何か仕掛けがないか通路を確認しながら行くようにしよう」
こうして、俺達は来た道を再び戻る事にした。
***
今回が2回目のダンジョンの防衛戦になるのだが、クロに今回は今いるメンバーで大丈夫だからと言われたが、やっぱり気になるので、現在ホームのテレビにてお茶を飲みながらゆっくりと観戦していたのだが……
「えー、これどうなってんだよ……すっごいシュールな光景が広がってるんだけど……」
正直、俺は当惑していた。何故なら2階層に入ってきた冒険者達が相談を始めたかと思うと、その場で足踏みをし始めたからだ。それも、その場にいるパーティーのみんなが真剣な顔付きで30分程ずっと足踏みしているのだ。この人達ダンジョンに何しに来たんだろう……1階層がそんなに堪えたのか?それとも、うちのモンスターに相手を混乱させるスキルを持ったやついたっけかな? はたまた、頭がおかしい人達のパーティーなのだろうか……
「マスター、何か間違った事を考えていそうなので言うのでありますが、あれは妖精族による幻術にかかっているのでありますよ。いくら歩いても同じ通路に戻ってくるって内容みたいであります」
へぇ、あいつ達そんな事ができたのか。イタズラが得意ってのは伊達じゃないってところか。
「確かにこれなら俺がいなくても強い奴以外はなんとかなりそうだな。ちなみに勇者(笑)は何してんの?」
「あぁ、アキヒト殿ならもうやられました」
「ちょ!? これまだ2階層だよね? 1階層にいて、もうやられちゃったの!?」
「はい、アキヒト殿には勇者(笑)という事であまり知られてはいないと思いましたが、念の為顔が分からないようにした状態で魔物達やフィオーレと一緒に1階層の最後で襲いかかって貰ったのであります」
「でも、あの冒険者達アキヒトを倒せるくらいには強いのか。幻術にかかっているせいからか、そんな風には見えないんだけどなぁ……」
まぁ彼らには可哀想だが、行進の練習のようにその場で足踏みしている姿を見るとそう思うのは仕方ないよね。だって幻術にかかっていると知らなかったら頭のおかしな人達にしか見えないもんな。
「あの冒険者達の為にも言っておくでありますが、あのパーティーは冒険者としては普通レベルであります。妖精族の幻術が特殊なだけなのでああなるのは仕方ないのであります。それに、本来はフィオーレと一緒に行動していたアキヒト殿はあの冒険者達には負けない予定だったのでありますが……」
「なんか予定外の事が起こったのか?」
「これは偶々なのか、幸運スキルの影響なのかは分からないでありますが、アキヒト殿が冒険者の1人を戦闘不能寸前まで追い込んだ後に足を滑らせたのであります」
ん? 足を滑らすのは幸運関係なくないか? むしろ不幸な事じゃないか。
「転けてる間にやられちゃったのか? それとも頭打って気を失ったとか?」
「それが……足を滑らせて体勢を崩した時にあの気弱な女性の冒険者のローブに掴まって、そのまま転けてしまったのであります。しかも、転けてもローブから手を離さなかったので、それは見事に服を脱がせるような結果に……」
なるほど……それは確かに幸運だわ。それも、幸運の中でも最上級の幸運(勝手に思ってるだけ)であるラッキースケベや!! 興奮のあまり思わず関西弁にもなるってもんやで!
なんて羨ましい、いやけしからん奴なんだ勇者(尊敬)め。
「マスター、絶対羨ましいって思っているでありますね。でも、その後のアキヒト殿の姿を見ると決して羨ましいなんて思えないのでありますよ……」
「ごくっ、勇者はどうやってやられたんだ……?」
ラッキースケベなんだから、相手の女の子にぼこぼこにされたのだろうか。
「脱がした女性には勿論でありますが、パーティーにどうやらその女性を好きな者がおったらしく、その2人で回りが引く位に殴られ、更には一緒にいたフィオーレも怒ってしまい、魔法で背中側に攻撃され、前後からの攻撃で気を失ったにも関わらず倒れる事すらできないと言う……これが普通のダンジョンだったなら確実にアキヒト殿の命はなかったのであります」
うわぁ……
もうラッキーなのかアンラッキーなのか分かんないや。
普通がやっぱり一番なのかもしれないな。
「さて、見ての通りダンジョンは大丈夫そうでありますので、マスターにはこれから私と一緒に行って欲しい所があるのであります」
クロが言う事となると嫌な予感しかしないのだろうなと思いつつ、断る事ができない俺なのでした。