観戦
「……きて。……さま、おきて。ごしゅじんさま、おきて」
う、ん……
この声はシロか?
そっか、俺気絶してたんだっけ?
って、痛!?
シロ、気が動転しているのかもしらんが、首を持ちガクガク揺らすのは辞めてくれ。
「ちょっと、シロ殿。そんなに揺らしては本当に起きなくなつまてしまうでありますよ!?」
「げほっ、げほ。シロ、もう起きたから揺らすのをもう辞めてくれ……」
「ごしゅじんさま!? よかったー、ほんとによかったよー。しんじゃったかとおもったんだからね?あ、ごめんなさーい」
ようやく揺さぶるのを辞めてくれたが、ばっと勢い良く離された為後頭部を強打してしまう。
せっかく起きたばっかりだってのに、今度は永遠に眠らされちゃうよ!?
「マスター無事に起きたという事は、もう頭にログが垂れ流されているのでありますか?」
「汚いイメージになるから、垂れ流されてるって言い方やめてくれないかな? とりあえず無事切り替えは終わったよ」
そう、肉体も勿論無事なのだがログも頭に今流れて来ている。
いつの間に確認したのかって?
確認したくてした訳ではないんだけどさっきシロに揺さぶられたり、急に手を放した反動で何かに頭をぶつけた時に
首に50%のダメージ
頭部に80%のダメージ
てな感じでダメージを受けた時に表示が出てきた訳ですよ。
うん、もう大ダメージというか軽く瀕死ですよ。ついでに言うと、目覚める直前に見ていたログなんかは起きた時に表示が出たままだった。
まぁ、確認する前にダメージでログが流されちゃったけどね。
でもそのおかげで今シロに膝枕してもらいながら回復魔法かけて貰ってるけどね!!
死にかけたんだ、これくらいの役得あっても許されるよね!
「……鼻なんて伸ばしてとんだ変態でありますなぁ。それに、ホームまで連れて帰って来たのに感謝の言葉もないのでありますね。まぁ、運んで来たのはシロ殿でありますが」
許してくれてない人がすぐ近くにいるけど、無視だ。
ん? 今ホームって言ったか?
そして、ようやく自分がホームリビングに寝かされていたのが分かる。さっき後頭部をぶつけたのは机だったのかもな。ちょっと凹んでるしさ。
それはさておき、改めて部屋を見回すと俺以外にシロとクロがいるだけだ。なんか3人だけってのは久しぶりな感じがするな。
「なんかいつもと違って静かだな。村人や、他の女の子達はどうした? あとついでに仲間になったっていう妖精達も」
「今ダンジョンに冒険者達がまたやって来ているので、対応して貰っているのであります。村人達は危険なので村に帰って貰ったであります」
「え? シロもここにいるのに大丈夫なのか?」
「ええ、ダンジョンにいるモンスターが増えて、しかも死んでもまた復活できるので戦力は十分足りているのであります。それに、妖精や勇者(笑)アキヒト殿がかなり頑張ってくれているので、今の所は問題はなさそうであります。マスターの体力が戻れば、シロ殿にも向かって貰う予定でありますしね」
まぁ……シロがいればどうにかなりそうなのは分かる。けど、勇者(笑)であるアキヒトが頑張っているってのはちょっと心配だな。幸運のスキルとフィオーレの力でなんとかやれてるのか、それとも相手が弱いのか……気になるな。
「あの時みたいに戦闘がどうなってるか見れる?」
「もちろんであります。ポチっとな」
クロがテレビの電源をつけると、ちょうど冒険者のパーティーが第1層から第2層へと足を踏み入れる所だった。
**
俺達パーティー『ビギナーズラック』は最近出来たばかりというダンジョンへと入っていた。名前の通りまだまだ駆け出しの冒険者ではあるが、ランクはCに上がり、それなりに自信が出てきたので、今回まだ出来てあまり時間の経っていないダンジョンに初挑戦という訳だ。ちなみに、パーティー名はいきなりやってきた俺達の実力に嫉妬した奴らが付けた物だ。しかし、意外と俺達も気に入ってその名前で通していた。
しかし、このダンジョン第1層からモンスターが尋常じゃない程やってきて、このパーティーの盾役であるこの俺ビートは回復魔法が得意なメイプルによってギリギリ生かして貰っているようなものだった。
出てくるモンスターはそんなに強くないが、モンスターハウスの仕掛けが仕込まれている部屋が3連発とか、このダンジョン頭おかしいだろ……
「はぁ、これでやっと1層攻略かよ。何層あるのか知らないけど、かなりキツイな」
今弱音を吐いたのが、俺達『ビギナーズラック』のリーダーであるスティングだ。筋肉ムッキムキで、武器は槍を使用し、中衛から援護するように攻撃したり、自ら斬り込んだりと頼りになる奴だ。
「そうね、まさかいきなりビートがここまでボロボロにされちゃうなんてね……」
今相槌を打ったのはアンだ。彼女はうちのパーティーで1番火力のある魔法使いだ。火の魔法を得意としている。髪の毛が赤いのもそれが影響しているのかもしれない。
「どうする? この辺で戻る? なんかこのダンジョン普通じゃないよ……」
今少し怯えている女の子はうちのパーティーの癒し系担当、メイプルだ。回復魔法が得意なのは勿論だが、体が小さくていつも何かに怯えている小動物みたいでめちゃくちゃ可愛い。俺の心もいつもバッチリ癒してくれている。はっきり言って好きだ! だが、パーティーでは恋愛は禁止だから告白できずにいる。
そして最後のメンバーがホッパー、こいつだ。
「いや、こんな1層なんかで戻ったら他の冒険者達に笑われちまうぜ。それに敵は統率が取れていて厄介だが、1匹1匹はこの辺の山にいる普通の魔物と変わらないしな。だから、せめて2層まではクリアしようぜ!」
少し話しただけでも分かると思うが、負けず嫌いの熱血野郎だ。ちょっと生意気な所があるんだけど、人を惹き付ける何かを持っているらしくこいつが俺らの先導役になる事が多い。
「……仕方ないな。おい、ビートお前はさっきから話しに参加していないが、行けるのか?」
「あぁ、俺も1層だけで終わりたくないからな」
ほんとは行きたくないけど、みんなが行くというなら断れない。俺ってば、そーいう損な役回りが多いのよね。
こうして、俺達は2階層の探検を開始した。
しかし、これから俺達が全く予想をしていなかった事態に巻き込まれるなんてこの時の俺達には予想もしていなかった。