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幕間

き、切るところを見失った……

デュノアの街とイーレの村の間にある山の中腹程の草むらで、1人の少女が息を潜めて追っ手から姿を隠していた。


はぁ……はぁ……はぁ……


「おい、いたか?」


「いや、この辺にはいねぇな。あっちを探してみるか」


2人の男がデュノアの街の方へと歩いて行ったのを確認し、少女はイーレの村へと駆け出した。


後ろを振り返り追っ手がいない事を確認し、ようやく少女は一息着いた。


しかし緊張感からようやく解放されたからか、涙がどんどんと溢れて止まらなくなる。


「……えぐ……えぐ。なんで麿がこんな目に合わなければならないのでおじゃる……麿はデュノアの街の領主だというのに……何でこうなったのでおじゃ……」


その少女は、冒険者達とは別にイーレ村の村人と共にデュノアの街へと送られたデュノアの街の領主だった。


しかし、少女が領主でいられたのはデュノアの街へと帰るまでだった。






***



「領主様、そろそろ起きてけろ。デュノアの街が見えてきたっぺよ!」


村人のがさつな声で起こされる。馬車で麿の街まで送ってもらっていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていたようでおじゃる。昨日は色々と疲れたでおじゃるからなぁ。


「ふわぁぁ、ようやく着いたでおじゃるか。村人よ、ちょっと寝心地は悪かったでおじゃるが、ここまで送ってもらってすまんの」


「領主様、そんなに気にする事ねぇっぺ。でも、そう言って貰えるとこうする事にも意味があったってもんだべ。これからは持ちつ持たれつでやっていきたいもんだべな!」


……ん?


麿が自分で返事をしておいてなんでおじゃるが、なぜ麿はこんな村人なんかに礼を言ったのじゃろう?

普段の麿ならばこんなのは当たり前の事なので、礼を言うはずがないのでおじゃる。

思い当たる事と言えば、あのダンジョンでの事であろうか。思い返すのも嫌になるが、確かにあれは今までの人生観が変わる程にしんどかったでおじゃる。……そう、色々としんどかったでおじゃるな……。


……すん……すん……えっぐ……えっぐ……わーん、もうあんなの嫌なのじゃー!?


「領主様、なんで涙なんか流してるっぺ!? そんなにおらの馬車の乗り心地が悪かったのけ!?」


いかんいかん、思い返すだけで号泣してしまうでおじゃる……

しかし、こうして無事に麿の街まで帰って来る事ができたのでおじゃる。帰る時にダンジョンマスターに約束させられた通り、これからは心を入れ替えるのでおじゃる。もうあんな事はほんとに、ほんとーに懲り懲りでおじゃる。


「そこの馬車、止まれ!」


外からガチャガチャと音を立てて複数の男が馬車に近付いてくる音が聞こえてくる。

あの少し偉そうな言動と、鎧を着込んでいるせいか歩く度にガチャガチャと音がなるのはおそらく村の衛兵達であろう。という事は村の入り口にまでようやく辿り着いたようでおじゃるな。


「おい、デュノアの街に何のようだ!?」


「へぇ、オイラはイーレ村から野菜を売りに来たゴンゾウってもんだっぺ。あ、これ村長からの書状だべ」


「どれどれ……うむ。これはイーレ村の村長の印に間違いないな。念のためその馬車に載せている物を確認させて貰うが良いな?」


「勿論良いけんども、前にこの街に来た時はすぐ入れたと思うんだけども何かあったのけ?」


「……あぁ。街では今領主関係で色々とゴタゴタとしていてな……ん? この書状に書いてある領主を送るってのはどういう意味だ?」


遅いのう……何をやっているのでおじゃる。麿の家まですぐ近くだというのに何をモタモタとしているのじゃ。麿の話も何かしていろようじゃし。だがもう我慢ならん、麿が言ってさっさと入れさせるのじゃ。


「おい、衛兵! 何をモタモタやっているのおじゃる! その書状にも書いてある通り、この馬車には麿が乗っているじゃぞ? 早く街に入れんか!」


「「ラ、ラシェール様!? 」」


「だからさっきからそう言っておるのでおじゃる。もう入って良いかの?」


「申し訳ございませんが、あなたを街に入れる事はできません。おい、早くこの事を伝えてくるんだ」


「わ、分かった」


そう言って衛兵の1人が街の中へと入って行く。


「どうして領主である麿が街の中に入れないのでおじゃる!? おい、衛兵! 説明するのでおじゃる」


「分かりました、説明しましょう。おい、イーレ村のあんたは通っていいぞ。1度来た事があるなら馬車を置く場所は分かるよな? 邪魔にならない内に早く入れ」


「へ? オイラは入って良いんけ? ……なら、悪いけど領主様先に入らせて貰うべ。偉い人にはなんか色々あるんだなや」


何と、この麿を置いて行くというのでおじゃるか!?

しかし、この村人には本来関係のない事でもあるのでおじゃるし……うむむ。


「あ、こら! ハハハ、脇に触るなでおじゃる」


考えている間にさっと麿の脇を持ち、馬車から下ろされてしまったでおじゃる。


そして名前も知らない村人は馬車を動かし、さっさと街の中へと入ってしまった。


むむむ、ほんとに入って行ったでおじゃる。

よし、なら麿も入るでおじゃる。麿の街なのじゃ、入っていかん訳がないでおじゃる。


「おい、何勝手に入ろうとしているんだ! いくらあなたでも街には勝手に入れる事はできません! 止まらなければ斬るぞ!!」


「おい、たかが衛兵ごときがなぜ麿に剣を向けておるのじゃ! もう良い、ならばアダムを呼ぶのじゃ!」


「お呼びですかな? ラシェール様」


声のする方を向いてみると、冒険者達を従えたアダムがそこにいたでおじゃる。


「おお、噂をすれば何とやらでおじゃる。さすがはアダム、絶妙なタイミングで来るでおじゃる。だが、その服装はどうしたのじゃ? いつもの執事服はやめたのかの?」


いつもは真っ黒な執事服をキッチリと着込んでできる執事といったイメージその物なアダムであったが、今は派手な指輪やネックレス等の貴金属を身に付けた貴族のような服装をしていた。


「おぉ、分かりますかラシェール様。やはり、領主という立場に相応しい服装をしなければと思いましてね。どうです? 似合いますかね?」


今聞き間違えじゃなければ領主と言ったでおじゃ?


「アダム、何冗談を言っておるのでおじゃる? 領主は麿ではないか」


「ハハハ、こいつは傑作じゃねーですか。アダムの旦那、まだこいつ自分は領主だと思っていやがりますぜ?」


マルクス兄弟の弟、ピエトロがこちらを指差しながら下品に笑う。それに合わせるように回りの冒険者も麿の事を笑う。


ま、まさか……


「アダム……まさか、裏切ったのでおじゃるか!?」


「フハハハハ、馬鹿な貴様でもそれくらいの事は分かるんですね。その通りですよ、あなたがダンジョンへ向かっている間に私がこの街の全権を手に入れたのですよ。あねたは領主の仕事を私に全て行わせていたし、あなたは馬鹿な行動で民にも嫌われていましたし簡単でしたよ」


そ、そんな……アダムは麿の1番の家臣であったというのに……麿はそんなにも嫌われていたのであろうか……


「さぁ、あなたはもう用済みなのですよ。おい、お前らさっさと殺ってしまいな!」


「「へい!!」」


アダムの一言により、冒険者達がこちらへ襲いかかってくる。どうやら落ち込む暇さえ与えてくれないようでおじゃる。


あぁ、冒険者達の手に掛かれば非力な麿など一瞬で殺されてしまうであろう。だけど麿は鼻っ柱を折られながらもダンジョンから生き延びる事ができ、これからは生きている事に感謝しながら真っ当に生きていこうと決心したのでおじゃる。だからどうか神様、麿の事を守ってたも。麿はまだ死にたくないのでおじゃる!







……


……?


どうしたのじゃ? なぜ麿は殺されておらんのじゃ? もしかして神様に願いが通じたのでおじゃるか?


「おい、兄貴……そんなガキを守るなんていったいどういうつもりだ?」


恐る恐る目を開けてみると、そこには筋肉質で大きい男が麿を守るように立っていた。


「……俺は女子供の殺しはしねぇって決めてんだよ。……忘れたのか、ピエトロ?」


「キ、キース!? 麿を守ってくれるのか!? し、しかしいくらお主でもあの人数では勝てぬぞ!? それに、こんな事をすればお主は……」


「領主さんよ、俺の心配できるなんてあんたは変わったな……ここは俺が引き受けてやる。領主さん1人で逃げな!」


「しかし、麿には行く所なんてこの街以外にはないのでおじゃる……」


「おい、何やってんだてめぇら! キースがいくら強くてもこの人数だ、纏めてやっちまえ!」


アダムの一言により、狼狽えていた冒険者達は我に返り麿達を囲もうとジリジリ近付いてくる。


「良いから行け! 俺は長い事は持たないだろう、とにかく来た道をひたすら走れ!!」


「ひ、ひゃあ!?」


キースはこのままでは2人供殺される、もしくは麿がいては戦えないと思ったのであろう、麿を掴み、麿を投げ飛ばした。


「おい、何をしている。逃がすんじゃないぞ!」


「……お前ら、俺に刀を向けるとどうなるか知らねぇ訳じゃねえよな? 死にたいやつから掛かってきやがれ!!!」


「「……!?」」


***


少女は走った。


泣きながらも、ひたすら走った。


途中で転んでも、ひたすら走った。


体の大きい筋肉質の男の事はずっと気になっていたが、とにかく走った。


途中で追っ手に見つかっても、必死で逃げた。


そして、彼女は辿り着いた。

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