純粋なる者の性
満面の笑みを浮かべていたクロは、妖精族の前まで行くと顔を真面目モードに切り替えて話し出した。
「お前達、面を上げるが良いであります!私はこのダンジョンを管理するダンジョンコアのクロであります!マスターの代わりに私が質問をするので、それに答えるのであります!」
「はっ、ははぁーー!!何でもお聞きくださいれす」
頭に王冠を乗せた妖精族のクイーンと思われる妖精が代表で返事をする。
自分の思った通りの反応をしてくれたからか一瞬笑みを浮かべたクロだったが、すぐに真面目モードに切り替え続きを話し出した。
「お前達が行った事は本来なら全員死刑や奴隷にしてしまっても文句の言えない問題であります。しかし、マスターはとても優しい方であります。なんと、お前達がこのダンジョンの手伝いをするというならば全てを許し、さらにはこのままダンジョンに住み続けても良いとおっしゃっているのであります。そこで、お前達にはここで死刑になるか、それともこのままダンジョンに住み我らの手伝いをするか選ぶのであります!さぁ、どうするでありますか!?」
ク、クロさん……それ選択権ないよね!?
そこで死ぬのを選ぶやつなんかいないよ!?
「も、もちろんお手伝いさせて貰うれす。いや、させてくらさいれす!ワタシ達はフィオーレに話を聞き、あの子が止めるのを振り切りこのダンジョンに勝手に住み着こうとしていたのれす。しかし、そんな悪いワタシ達の事を許してくれ、さらにはこのまま住み続けても言いとおっしゃるなんてさすが神様の力と魔王の力を併せ持つお方なのれす。なんと器の大きい事れしょう。ワタシ達はこのご恩を一生忘れズ、ダンジョンマスター様にお仕えする事を誓うのれす!ねぇ、そうれしょうみんな?」
「おぉ!おれっちはやるれすよ!」
「ワタスも絶対に恩を返すのれす!」
「うぉおぉぉぉお!やるれすよぉぉ!」
「ダンジョンマスター様、ばんざーい!」
「「「ばんざーい、ばんざーい」」」
女王の言葉を皮切りに1人1人が思い思いに話し出し、どんどん熱が上がっていき、泣きながら叫ぶ者や興奮して力の限り叫ぶ者など出始め、今では収拾がつかなくなってきてしまった。
その状況を一歩離れた位置で眺めていた俺は、正直ドン引きしていた。
うわぁ……信じやすい種族とはいえ、煽るだけでここまでなるのかよ……
まさに効果絶大って感じだなぁ……
それにしても、クロはこれをどう収拾をつけるつもりだ?
これ、声なんかもう通らないくらいに盛り上がってしまっているぞ?
「こ、こら!静かにするであります!」
クロを見てみると、案の定回りが騒がしくて誰にも声が聞こえない。
さぁ、自業自得だけどどうするのだろうか。
それからクロは大きな声を出しても無駄だと悟ったからか、個別に制止しようとし始めた。
「ちょっと、そこのあなた!こっちを見なさい!」
真正面から両手で体全体を掴むようにして、ガクガクと揺さぶりながら声をかけるクロだったが、妖精達は声を上げる事自体が楽しくなってきたからなのか、そこまでされても女王から目を離さず手を突き上げ高らかに叫び続ける。
「ジャマしないれほしいのれす」
それでも、やはり掴まれていたのは邪魔だったからか、ドンっとクロを突飛ばしてしまう。
プチッ
クロからどす黒いオーラみたいなのが見える
あ、こいつはヤバイな……
「兄ちゃん、何してるんや!?黒い嬢ちゃんが突き飛ばされたんやぞ?俺があいつらを正気に戻すから、兄ちゃんは嬢ちゃんの所に行ったれや!」
これが両手を後ろ手に縛られてなければ、格好いいセリフだったのなぁ。
それに今まで縛られて歩いてきたのに、こんな事を言うんだからアキヒトはやっぱり良いやつだな。
しかし、分かっていない。。
確かに、普通の女の子が突き飛ばされたのなら大丈夫かって声をかけてあげるべきだろう。
だが……突き飛ばされたのはクロだぞ?
心配するのはむしろ妖精側なんだよな……
だから俺は分かっていないアキヒトに言ってやる。
「アキヒト、巻き込まれるから行かせないぞ。シロ、アキヒトを連れて来てくれ」
「はーい、ごしゅじんさまー!」
「ちょっ!なんでやねん!嬢ちゃん放っていくつもりか!?妖精達やから危ない事にはならんと思っとんのか?ってイタタタ!?シロちゃん!?そんな強い力で引っ張られたら腕抜けてまうから!やめてーーー!」
途中から助け声を上げるアキヒトを無視し、クロや妖精達から距離を取り様子を見る。
「兄ちゃん!なんで嬢ちゃんを置いて離れたんや!せめて説明してくれや!こんな無理矢理連れて来られて納得できへん!」
まだ状況が理解できてないアキヒトは、スゴい剣幕で問い詰めてくる。
アキヒトは彼女を連れ去られたって過去を持つからこんなに怒ってるのかもな。
そんな事を適当に考えながら、クロの方を指差してこういってやる。
「もうそろそろかな、まぁ見てみろよ。ただし、巻き込まれるかもしれないから警戒は怠るなよ?」
それを聞いたアキヒトは怪訝な顔をしながらクロへと視線を送る。
「……えら……すか。テメエら!そんなに死にたいのなら、この手で殺ってやるでありますー!!」
そんな事を叫んだかと思うと、呪文の詠唱に入るクロ。
「天まで轟く雷達よ、一条の光となり、あの醜い者共に正義の鉄槌を振り下ろせ。ミョルニルハンマー!!」
そして、森一帯は光に包まれた。