心の洗濯
「ぷはー、良い湯やなぁ。それにしてもこの風呂、傷を回復させる効果あるってホンマなん?まぁワイは打撲だけで傷はあんまりなかったみたいやけど」
「あぁ、このホームのお風呂にはどうやらそういう癒し効果があるらしい。肉体的にも精神的にも癒されるって事で魔力なんかも回復する事ができるらしい」
突然だが俺達は今、戦闘の疲れなどを癒す為にお風呂に入っている。
先程の戦闘はというと、まさかの引き分けだ。
どんな風になったかと言うとだな……
自慢の脚力に物を言わせこちらに全力で突っ込んで来るアキヒトに対して、一気に出せる限界の魔力を使い魔弓を放った俺の分身。
アキヒトは一直線に全力で突っ込んで来た為に魔弓の攻撃を回避することができずに、胸へ魔弓(無)が直撃した。
まさにハートブレイクショット!
アキヒトはその一撃により倒れた為に、俺の分身の勝利かと思われた。
しかし、結果は相討ちに持ち込まれて引き分けだ。
それも、アキヒトが狙って攻撃をした訳でもなくてこちらの自滅という訳でもなくだ。
信じられるか?
アキヒトが魔弓(無)の一撃をくらった衝撃で手に持っていた鎌がすっぽ抜け、俺の分身に飛んでいき、サクッと頭に刺さったって訳だ。
頭に鎌が刺さった分身はすぐに風船のように破裂してしまい、両者KOって訳だ
ラッキー○ンかってぐらいの幸運だな。
これもアキヒトの持っている幸運の効果の影響なんだろうか?
もちろん分身の耐久性にも問題はあるんだろうが、だからって納得できないよね。
でも、運も実力のうちっていうし受け入れるしかないんだよなぁ。
それはさておき、アキヒトの戦闘能力は実際に戦ってみた感じだとスピードと運以外は全くダメだな。
俺の分身が放った魔弓(無)は発動そのものは早いけど、威力はさほど強くない。それなのに一撃でやられちゃったしね。
長所であるスピードに関してもシロには負けているだろうしな。
これは比べる相手か間違っているのかもしれないけどさ。
それに、今回の戦闘だとせっかくスピードを生かすような戦い方を全くできていなかった。
こちらを弱そうと判断し、舐めてかかってきたからかもしれないが、そもそも自分が弱いと思えばそんな判断する事自体が間違っている。
真っ直ぐ突っ込んで来なければ、一直線にしか飛ばせない魔弓は回避できたかもしれなかったのにね。
では、どうやってアキヒトを強くしていけば良いのだろう?
相手は神らしいし、正直このまま普通にスキルレベルであったりジョブのレベルとか上げても勝つなんて無理そうだ。
俺自体そんなに強くはないけど、契約したからには力になってやりたいからなぁ。
さて、どうしたもんか。
「どうしたんや?そんな考え込んで。せっかくお風呂で癒されてるんやから、楽しもうや!そや、背中流したろか?」
こいつ……自分があんな形で引き分けた事に何にも感じていないのだろうか?
こいつからしたら記憶を失った時点で負けに等しいっていうのに、なんて能天気なやつなんだ……
背中を流すのは丁重に断り、気になっていたあの事を聞く。
「そういえば気になっていたんだが、なんでアキヒトの武器は鎌なんだ?腰にぶら下げている剣は使わないのか?」
そう、アキヒトが何故あんな鎌を武器にしているのかだ。
勇者というジョブにはあの腰にぶら下げてる剣の方が似合っているだろう。
「あぁ、それか。儀式の時は剣を使ってたんやから、まぁ気になるわな。ワイも勇者といえば剣ってイメージやから、ほんとは剣を使いたいんやで?だから格好だけでもと剣を腰にぶら下げてる訳やし。でもな?ワイはあの鎌しか武器として使う事ができへんねん。飾りならあの剣みたいにいるんやけどな」
「あの鎌しか武器を使えない?あの鎌が呪いの武器で、呪いを解くまで装備を外せないとか?」
「呪いとはちゃうねん……たぶん。あれは、確か俺がこの世界に来てギルドに登録したその日に受けた初めてのクエストやったなぁ。ギルドに登録したばっかりやと一番下のFランクになるんやけど、そのFランクは荷物運びや掃除とかしょぼいクエストしかなくてな、ワイが受けたクエストは草刈りやったんや。その時にギルドから貸し出されたのがあの鎌やねん」
「え?あれ元々はギルドから貸し出された本当の草刈り用の鎌なの!?」
「せやねん、ギルドから借りた鎌で草刈りのクエストを終わらしたところまでは何もなかったんや。けど、クエストが終わったら突然変な声が聴こえてきてな。その声っちゅーのが鎌からやったんや。あいつが言うには『俺は伝説の鎌でお前を持ち主として認めた。お前に力を貸してやろう、その代わり俺以外を武器として使うのは許さない』という事やねん」
「なるほど、なんで武器が他に使えないのかは分かった。でも、あれ本当に伝説の鎌なの?ただの草刈り用の鎌に見えるんだけど……」
「それはワイがまだちゃんと扱えてないから、っていう事らしいねん。ワイが強くなれば、鎌も色々な形にフォルムチェンジできるようになるみたいやねん」
「へぇ、その辺はさすがに伝説の武器っぽいな。とりあえず、練習して鎌の扱いに関するスキルは覚えないとな」
「せやな、兄ちゃん色々世話かけるなぁ」
そんな事言いっこなしですよ……ってな会話をしていると、脱衣場の方から何やらドタバタと音が聞こえてきた。
「たいへんニャー!!」