勇者
「ゆ、勇者?しかも俺と同じように異世界から来ただと?そんな奴が何故俺の事をそこまで知っているんだ!?そもそも、どうやってここまで来たんだ!?」
多くの情報が一気に来た為に軽くパニックのようになり、質問攻めしてしまう俺。
だけど、突然勇者アキヒトと名乗る男が現れ、自分もお前と同じ異世界から来たとか言われたら誰でもパニックになるよね!?
「おいおい兄ちゃん、慌てすぎや!こっちは手荒な事をする気はないから安心し!ま、いきなり知らんやつにここまでずけずけ来られて、安心しろって言われても無理あるし、1つずつ兄ちゃんの質問に答えたるわ」
一方、勇者アキヒトと名乗る男はやはりこちらに友好的なのか、1つ1つ質問に答えてくれるらしい。
「えっと、まずなんやったっけ?そやそや、まずはワイが異世界から来た勇者ってところからやな。兄ちゃんはこの世界来てからあんまし時間経ってないのと、ダンジョンマスターって特殊なジョブについてるから知らんやろうけど、この異世界にはこんなギルドプレートっちゅうアイテムがあってな?名前・ジョブ・称号なんかを見れる便利な証明書みたいもんやな。ギルドで発行する事ができてな、冒険者のランクなんかもこれで確認するんや。んで、これがワイの証明書っちゅー訳なんやけど、見てみ?勇者になっとるやろ?あと、異世界から来たやつしか持ってない『異世界からの召喚者』が称号になっとるんが異世界から来たっていう証明にもなる訳や!そんでな……」
怒濤のように話し出す男。今はその証明書のウンチクを話しているのだが、軽く聞き流しておこう。とりあえず、この世界にはギルドで証明書を発行できるらしく、それがあのギルドプレートというアイテムって事らしい。
そのプレートを覗きこむと、確かに男の名前・ジョブ・称号が載っている。さらに、おそらく今その事について話しているだろう冒険者ランクが記載されており、Aランクと記載があるからこの男はAランクという事が分かる。
このアイテムを見る限り、男が言う通りにこの男が俺と同じように異世界からやってきて、勇者というジョブである事が分かる。
だが、このアイテムが偽造されてないという証拠がない。俺がそのアイテムを知らないのを良いことに適当に合わせているのかもしれん。
「……なんやで?すごいやろ!ん?兄ちゃん話ちゃんと聞いとったか?その顔、さては疑っとるな?兄ちゃんも疑り深いやっちゃなぁ。ま、この世界ではそれくらいじゃないと生きていけへんけどな!じゃあとりあえず、次の質問である何で兄ちゃんの事を知っているのかってのに、答えたるわ」
勇者アキヒトはウンチクについて語り終わったかと思うと、こちらが怪しんでいるのをすぐさま見抜き何で俺の事を知っているのかについて語りだした。
「ワイがなんで兄ちゃんのジョブや最近異世界から来たとかそーゆー事を知っているかっちゅーとやな、実はそんな難しい事やなくて、人に聞いただけっちゅう簡単な話やねん」
「はぁ!?人に聞いただと?俺の個人情報はこの世界に出回っちゃってるのか?そんなんだと、次々と俺を倒しにやってくるじゃないか!?」
「まぁまぁ落ち着きいな、兄ちゃん。人の話は最後までちゃんと聞くもんやで?」
この世界の個人情報の取り扱いはどうなっているんだと興奮する俺を勇者アキヒトは宥めつつ、話の続きを話し出す。
「まず、兄ちゃんの情報が手に入ったのは偶々なんや。だから誰でも兄ちゃんの情報をゲットできるって訳とはちゃうからそこは安心してええで!んでな、兄ちゃんがダンジョンマスターってジョブがあるように、この世界に住んでる奴はそれぞれいろんなジョブを持ってるんやけど、ワイに兄ちゃんの情報を教えてくれた奴は占い師ってジョブでな、そいつのスキルで兄ちゃんの情報を得たって訳や」
なるほど、占い師というジョブによるスキルで俺の情報を得たという事なら話の筋は通るか。
だけど、気になる事はまだあるな。
「偶々俺の情報を得たってのはどーいう事だ?占いをするって事は何かを探してたって事だろうけど、そこから何故俺に行き着いたんだ?」
「そこは兄ちゃんのジョブが関係しとる訳や!ワイな、ダンジョンマスターのジョブ持ちを探しとったんや。それもこの世界に来てからあんまし時間が経ってないのをな!」
キラっと漫画やアニメなら星が出そうなぐらいにパチッとウィンクをして、話はこれで全て繋がっただろ、どうだ?と言わんばかりに決め顔をしてくる。
だが、男にウィンクされても何にも嬉しくないんですけど……
むしろ気持ち悪い。
決め顔やウィンクの事は放っておくとして、今のアキヒトの話にはおかしな点は見られないように思える。
まだ重要な事は聞いてないけどな。
「問題は何故その様な条件で勇者がダンジョンマスターを探していたのか、でありますな。あと、ここまでどうやって気付かれずに来たのでありますか?」
うぉ、いつの間に後ろにいたんだよクロ。
気配消して背後に立つのやめてもらっていいですかね?
でも、俺が聞こうと思ってた重要な事を先に聞いてくれたから手間は省けたけどな。
「お、嬢ちゃんかわええだけでなく、頭も良さそうやな。なぁ兄ちゃん、この悪魔っ子とあの天使っ子は色以外見た目がそっくりやけど、まさか最初のガチャで出たりしたんか?」
ん、ガチャの事を知っているって事はみんなこの世界に来た時にできるって事なのか?
「いや、シ」
ズバン
痛!?
シロはガチャだが、クロはそうじゃないと言おうとした所でクロに強烈なローキックを決められ話を遮られる。
「そうであります、シロとクロは天使と悪魔だけど双子なのであります」
何故か嘘をつくクロ。
さっき蹴られた事に対する抗議と何故嘘をついたのか確認する為に小声でクロに話し掛けてみる。
「いってぇな、何で突然蹴られたんだよ俺。あと、何で嘘をついたんだ?」
「マスターの事だから、バカ正直にクロの事をダンジョンコアって説明するつもりだったでありますよね?クロが人の型をしているのはマスターとコミュニケーションしてダンジョンを作る為だけじゃなく、もしダンジョンを攻略されてもダンジョンコアとバレないようにという意味もあるのでありますよ。あんなに軽く教えてしまってクロが壊されたら全てが終わりなのでありますよ。マスターはその辺ももう少し考えてほしいのであります」
うっ、確かにそこまでは考えてなかったな。
でも蹴る事はないだろうに……
「そっかぁ……双子キャラとか相当レアなんやろなぁ。でもな、ワイのアシスタント君も負けてへんで?おいで、フィオーレ!」
アキヒトの呼びかけと共に、アキヒトの胸ポケットから何かが飛び出てきた。
「じゃじゃーん!!私は花の妖精のフィオーレだよ!アキヒトのパートナーをしているんだ!よろしくね」
な……なんなんだこの可愛い生き物!!!!
ピーターパンに出てくるティンカーベルのような妖精と言えば分かりやすいだろうか。人形のような小さな体で背中から虫のような透明の羽が4枚ついており、その4枚の羽を使い器用に飛び回っている。
「もう、アキヒト!もっと早く紹介してよね!ポケットにずっといて、苦しかったんだからね?」
コロコロ変わる表情に思わず笑みがこぼれそうになる。
「すまんすまん、つい話に夢中になってもうてな。どや、兄ちゃんうちの子もかわええやろ?」
「あぁ、うちのシロも素晴らしいがそっちの妖精ちゃんも実に素晴らしい」
意気投合し、思わず握手してしまう。
可愛いってやっぱり正義だよね。
「アキヒト、仲良くなるのは良い事だけどお姉さんの質問にも忘れずに答えてあげてよ?」
そうだ、この子が出てきたから忘れてたけどまださっきのクロの質問に答えてないな。
「あいよ、嬢ちゃん忘れてしもて悪かったな。で、さっき言った条件で探していた理由なんやけど、ワイには倒さなあかん敵がおるんや。だから兄ちゃん、ワイと契約を結ばへんか?」