脳筋天使?
「ぶっ殺してやらぁぁ!!」
冒険者の男が叫びながら、シロへと襲い掛かる。
冒険者の武器は剣、いやあの長さなら短刀って言った方が良いのか?とにかく、短めの剣を両手に持つ二刀流スタイルのようだ。
切れている男によく似合うスタイルだな。今の様子を見てると切り裂き魔って感じがするよね。
その冒険者に対するシロは、この世界にガチャで来た時から装備していた剣だ。この剣は、長さだけでいうと一般的な長さなのだがシロが自分の背丈と同じ長さの物を軽々と持っているので、異様な雰囲気を醸し出している。
ちなみにこの剣、小さい女の子用に軽いって訳ではなかった。
剣って格好いいから、1度貸してもらった事があるんだけど、正直俺では重くて片手ではとてもじゃないが振る事なんかできなかった。
どうして幼女であるシロが俺よりも力が強いかっていうと、称号による恩恵が関係しているらしい。シロには肉体派という称号が着いており、その称号の恩恵により普通の人より力が強くなっているらしい。俺の称号の場合は、神で魔王と異世界召喚者になるのだがこの2つはどういう影響を与えるのか分からないらしい。
あっ、これ全部クロさんから聞いただけですけどね。
そうそうこれもクロさんから聞いた話なんだけど、称号も成長するらしい。スキルやジョブのように称号その物のレベルが上がる訳ではないのだが、一定の条件をクリアすると新しい称号へ成長するという事だ。
力持ち➡強力
例に出すとこんな感じ。
称号が成長すると、自分の能力も大きく成長するらしい。
また話が逸れて来ているので戻すが、そんな訳で幼女であるシロが自分の背丈と同じくらいもの長さの剣を軽々と持つ事ができているのだ。
さて両者の装備が分かったところで、戦闘へ戻ろうか。
冒険者の男が次々と二刀流を活かした手数の多さでシロへ襲い掛かるのだが、シロは身軽な動きでそれを避け続けている。その動きはまるで、闘っているというより遊んでいるかのようだ。
いや、むしろ絶対遊んでいるよねこれ!?
二刀流で手数を武器に攻撃してくる冒険者を、シロは流れるような動きの中で、回避していく。いや、回避というより躍りのような動きをする事で相手の攻撃を誘導しているかのようだ。
これだけだと遊んでいるとは思えないのだが、顔に満面の笑みを浮かべながら、歌を歌ってるんだよ……
戦闘中にこれをやっているんだから、遊んでいるようにしか見えないよね。
「ガキが……舐めてんのかてめぇぇ!!!」
あっ、ますます怒っちゃったよ。あんなに顔を真っ赤にしてずっと切れてたらそのうち倒れそうだな。
「へっ、へーんだ。くやしかったらあててみなよー」
シロちゃん、それ以上挑発しないでー!
心配だからぁー!!
しかし、その心配は杞憂だったようだ。
ムキになってさらに手数を増やして攻撃する冒険者だが、その攻撃は一撃もかする事すらなかった。
しかも、驚異的なのは攻撃を武器で受け流す事すらないのだ。
いくら手数を増やしても、全て紙一重で攻撃を躱していくのだ。
「くそっ、俺様はデュノアの街で2人しかいない、Cランク冒険者のマルクス・ピエトロ様だぞ!?どうして、こんなガキに1発すら当てる事ができないんだ……」
攻撃をどれだけ行っても余裕の笑みを浮かべながら回避され、さらには歌を歌う事すらやめる様子がない。そんな相手に怒りを感じながらも冒険者はついに、焦りを感じ始める。
「天使様あんなに可愛いのに、スゴイお強いのです!」
「天使様、頑張れクマー!!」
みんなシロの闘う様子を見て大興奮している。
「マスター、少しは分かったでありますか?」
その2人の闘う様子を見ながら、クロが俺にそう言ってくる。
「あぁ、心配なのは変わらんがあの相手ならシロが負けそうにない事は分かったよ。でさ、教えてほしいんだけど、何でシロはあんなに強いんだ?称号のおかげで自分と同じ背丈ほどの武器を扱えるってのは分かったけど」
「仕方がないでありますなぁ。クロがダメダメなマスターに説明してあげるでありますよ。マスター、シロ殿の種族が何かは勿論分かっているでありますな?」
「あぁ、天使だろ?それくらいは分かるさ」
「そうであります。天使というのは基本的に神に使え、光魔法を得意としている種族なのでありますが、その身体能力は人間よりも上だと言われているであります。まぁ勿論固体差はあるでありますがね?」
「つまり、この2人の闘いは種族間の能力差によるものだと?」
「いや、普通の天使ならばここまでの差はでないであります。むしろ、シロ殿と同じように生まれて間もない状態で普通の天使が闘っていたのであれば、負けていてもおかしくないでありますよ」
クロの答えに疑問を感じ、さらに質問してみる。
「じゃあなんでこんな事になっているんだ?シロは普通の天使じゃないのか?ジョブで天使の卵ってステータスには出ていたぞ?」
「天使という種族は元々、身体能力は人間より少し秀でてはいるものの、そのほとんどが治癒等の光魔法を得意としており、剣等を使い闘うタイプはあまりいないのでありますよ。」
「じゃあ天使であるシロが、肉体派の称号持っているってのはレアなケースなのか?」
「そうでありますね。天使の一部に魔法があまり上手く使えない代わりに、身体能力に特化したタイプがいるのであります。ヴァルキリーというのでありますが、シロ殿も恐らくはこれかと。ヴァルキリーも天使には違いないので、天使の卵というジョブでもおかしくはないと思うのであります」
「あれ、でもシロ光魔法使えるんじゃないの?」
「クマ!天使様にキズを治してもらったクマ!」
「……私も……治療して、貰った……」
みんなが手を挙げ、口々にそう答える。
「確かに、シロ殿は光魔法を使う事はできるであります。しかし普通の天使の力の半分程の効果しかないのであります。つまり、使う事はできても苦手という事でありますな」
「そうなのか。一般的な天使とヴァルキリーってそんなに強さが違うのか?」
「はいであります。得て不得手や個体差があるのでどちらが強いとは言えないですが、ヴァルキリーの身体能力はドラゴンすら素手で倒すと言われているであります」
「え……そんなになの?」
ドラゴンって普通異世界とかじゃ、最強に近い種族だよね!?
え?それを素手で倒しちゃうの?
マジぱねぇっす、シロさん。
でもそれだけ強いなら違和感ってのもある。
「なぁ、なんでシロはそんなに強いのに自分から攻撃せずに回避に専念しているんだ?歌って踊ってって感じだから回避に専念って訳じゃないかもだけど」
そう、よく分からないのが、映像に映るシロは未だに相手の猛攻に対し、回避のみで一向にシロから攻撃をしようとしないのだ。
相手の攻撃を誘導して華麗に回避し、反撃の隙などいくらでもあるというのにだ。
「さぁ?クロにはシロ殿の考えは分からないでありますから」
相手の冒険者は焦りと苛立ちで攻撃が大振りになってきた。さらには、ずっと攻撃をし続けているという事で攻め疲れすら見せ始めている。
なのに、シロからは一向に攻撃を行わない。
このまま自分から攻撃を全くせずに、相手を戦闘不能にするつもりなのか?
それとも、何か考えがあっての事なのか?
ただ、シロの事だからあんまり考えて行動してなさそうなんだよなぁ……
これシロに言ったら絶対怒られるから言わないけど……
脳筋っぽいんだよなぁ……
魔法が上手く使えないってのも、頭が残念だからって感じがするじゃない?
まぁ、シロの場合バカっぽいのが逆に可愛いけどね?
とにかく、何を考えているか分からないけど、我が家の無邪気な天使様よ、無事に帰って来ておくれよ?