17 冒険者視点
「よし、そろそろ進むでおじゃる!あの様な罠で麿を侮辱した、このダンジョンのダンジョンマスターを引っ捕らえるのじゃ!」
「「おぉ!!」」
領主様のその言葉と共に、俺達はダンジョンの奥地を再び目指す事になった。出口への道が塞がれてもう戻る事ができなくなり、前に進むしか他にないからだ。
泥水があるだけの部屋からは、玉によって塞がれた出口以外に扉の付いた出口があるだけだ。この部屋に来るまでと同じく、2人ずつ冒険者が並び、最後尾に領主様を肩車したキースさんという隊列を再び組み出口へと向かう。
「ギャー!!」
この部屋から出る為に、扉を開けようと扉の取っ手に手をかけた冒険者が突然悲鳴をあげる。
「ど、どうした?何があった?」
手を抑えて泣き叫ぶ冒険者へと声をかける。
「手……手をやられた……火傷だ。ヒ……ヒールをかけてくれ……」
「しゃーないのう、今度は気ーつけや?」
俺の横で鼻歌を歌っていた冒険者が泣き叫ぶ冒険者の手へとヒールの魔法をかける。アイツ、治癒魔法が使えるのか。
その間、俺は扉を調べる事にした。
見たところ、扉自体は何の変哲もない扉のようだ。
「ん?取っ手が赤く変色している?」
どうやら熱された取っ手を握った為に、冒険者は手に火傷を負ったのだろう。
「こんなもん触ったら、火傷もするわなぁ」
いつの間に治癒魔法をかけ終わっていた鼻歌野郎が、俺の横に並んで取っ手を見ながら話しかけてくる。
「あぁ、これを素手で握ったら火傷もするだろうな」
「しゃあないなぁ、また引っ掛かるやつもおるやろし冷やしといたろ」
そう言って、鼻歌野郎は取っ手を丸ごと凍らせる。
「お前、さっき治癒魔法使ってたけど、氷魔法まで使う事ができるのか?」
「たいしたことあらへんよ。どれもちょっと使えるだけやから」
誉められたのが照れ臭いからか、そう言ってピエトロさんの方へ報告しに行く。
鼻歌を歌い出すとか空気を読めない奴だと思っていたが、ちょっと見直したぜ。
「よし、改めて進むぞ!」
そうピエトロさんがみんなに声をかけ、再び奥地へと向かう。
先頭が凍らした取っ手を使い扉を開けると、この部屋に来るまでと同じく細い1本道になっていた。少し上り坂になっているところが少し違うところだろう。
「またさっきみたいにでっかい玉が転がってこないだろうなぁ?あんなスリルはもうこりごりだぜ……」
「だよなぁ、あれほど死ぬ気で走ったのなんか久しぶりだったぜ。……ってお前頭!頭が!?」
「俺の頭がどうした?……なんか熱い?ギャー!!俺の燃えてやがる!?」
部屋から通路へと踏み出した先頭の冒険者の頭が燃え盛る!先頭の2人のうち、扉に近い方の冒険者の頭が燃えている。
「さっきの泥水へと頭から突っ込め!泥水で火を鎮火しろ!」
火を消そうとしていたのか、それとも熱さに苦しんでか地面に転がっていた冒険者は俺の声を聞きようやく我に返り、泥水へと頭から飛び込み火を鎮火する事に成功する。
「おい、大丈夫か?」
冒険者の無事を確認すると、冒険者はちょっとした火傷ですんだらしく、鼻歌の野郎に回復魔法を使ってもらって元通りになっていた。
髪の毛以外はな。
「ぷぷぷ……や、やめるのじゃ。麿にその頭を見せるな。麿を笑い死にさせるつもりでおじゃるか!?」
「領主様、それはあんまりじゃねーですかい!?」
「なんでおじゃる?麿に文句でもあるのでおじゃるか!?」
領主が冒険者の痛々しい跡地を見て、空気を読まずに笑い、剣呑な空気になる。
「も、もう止めてくれよ。笑ってくれるならまだ良いよ」
しかし、その一言によって衝突は避けられたようだ。
「領主様、罠が増えてきやしたのでそろそろあれを試してみてはどうでしょうか?」
「そうじゃのう。ピエトロが言うのであれば、そろそろあれを試してみようかのう。おい!そこの奴隷共!前線に麿達に変わって立つのじゃ!お主らが罠避けになるのじゃ!避ける事ができないのなら、お主らが盾となるのじゃ!!」
どうやら奴隷なんかを連れて来た理由は、罠避けの為だったらしい。
性格の悪い領主が考えそうな事だ。
奴隷達は型を抱き寄せ震えていたが、奴隷達の中でも年が1番上の奴隷少女が勇気を出し話し出した。
「わ、わたしが1人でやりますので、どうかこの子達は勘弁してあげてください……」
「ダメでおじゃる!何のために、わざわざ麿がこの人数奴隷を買ったと思っておるのでおじゃ!」
領主様が奴隷の意見を一蹴し怒っていると、ピエトロさんが間に入り領主と話し始めた。
「領主様、ここはあっしにお任せください」
「むっ、ピエトロか。よかろう、お主に任せるでおじゃる」
「ありがとうごぜいやす、領主様」
そう言うと、奴隷の方に向き直り先程の領主との会話より威圧的に話し出した。
「おい、奴隷共!お前ら領主様に買われたんだから領主様がお前らのご主人様ってー事は理解してんのか?」
今回も先程代表で話していた奴隷少女が返事をする。
「は、はい……それは分かっています」
「なら、奴隷にとってご主人様の言う事が絶対ってー事を理解できてないのかよ?命令に逆らうとその首輪が締まって、全員おっ死んじまうんだぜ?」
「そ、そんな……」
「ま、罠避けになれっていきなり言われてもそうなるだろうな。じょあよ、無事罠避けをやり遂げ、このダンジョンを出られた暁には奴隷から解放してやるって言ったらどうだ?」
奴隷解放という言葉に奴隷達全員が反応する。
しかし、この言葉には領主様も初めて聞いたらしくすぐさま口を挟む。
「ピエトロよ!麿はそんな事聞いてないでおじゃる!麿に内緒で勝手にそんな事決めるなでおじゃる!」
その言葉を聞いたピエトロさんはめんどくさそうに顔をしかめて領主様に内緒話をし始める。
「領主様、任せてくださいって言ったじゃないっすか。奴隷共なんてあぁ言ってやれば喜んで働くんすよ。それにね?全て終わった後で何かしらケチつけて解放はヤメだって言ってやれば全て済む事なんすよ。どーせ逆らえないんすから」
内緒話がこっちまで丸聞こえなんですけど!?さすがに奴隷達には聞こえてはいないけど……
そして、ピエトロさん性格悪!!
だけど、そこに痺れる憧れるぅ!!!
その話を聞いた領主様はというと、捲し立てるように話すピエトロさんが少し怖かったのか、さっきまでの怒りの表情から一転し焦るような表情に変化していた。
「わ、分かったのじゃ……ピエトロに全て任せるのじゃ……」
そう言って領主様はすごすごと後列へと戻り、しょぼーんとしているところを無口で筋肉男ことキースさんが慰められている。
「麿は何にも悪くないのじゃ……」
「……領主様、元気だせ」
キースさん普段話さないけど、こーいう時は話すんだな。
見直したぜ!ただの大食らいかと思っててごめんなさい!
そして、領主様との内緒話を終えたピエトロさんが奴隷達へと再び語り掛ける。
「な?解放を領主様に認めて貰えたし、これならやる気出るだろ?あのまま反抗してたんじゃ首が締まって死んだり、解放なんてなかったんだから感謝してほしいくらいだぜ」
「ほ、本当にここを出たら解放して貰えるのですね?」
「おいおい、俺が嘘ついてると思ってんの?傷付くなー!」
「し、信じます。やらせて下さい」
「よし、そうこなくっちゃな!なぁに、罠が発動する前に発見してぶっ壊せば問題ねぇよ!」
「は、はい!頑張ります!」
こうして奴隷達が先頭と最後尾へ俺達冒険者を挟むように配置され、再びダンジョンの奥地を目指し進む事になった。
これが罠を回避するには成功するのだが、違う事を招く結果となるとはこの時誰も予想などしていなかった。