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幕間

山々に囲まれたイーレ村から少し離れた平地に、デュノアという大きな街がある。


デュノアは村人しかいないイーレ村とは違って、交通の便が良い為に多くの商人が街に訪れており、屋台や露店で物を売る者や街の商人と交易に来る者、その様々な商品を買い求めに来る客達によって毎日がお祭り騒ぎといった具合に賑やかだ。


そんな賑やかな街の中で、天気が良く、時間も正午にそろそろなろうかという時間なのにお通夜のように静かな一帯があった。


そこは、この街の領主の豪邸であり、デュノアの街のおよそ3割を占めるほどの広さである。この豪邸も本来、この時間帯は領主に挨拶に来る商人や、ここで働く従者達で賑やかなものだった。しかし、領主が代替わりしてからは今の通りになっている。


その理由は簡単だ。今の領主が従者達に自分が起きるまでは静かにしろという命令をだしたからである。もちろん、その命令に対して反対をする従者はいた。


しかし、反対する従者は解雇しこの村から追い出すという事を繰り返す事により反対する従者の数も減り、今では元々働いていた従者はほとんど辞めてしまっていた。そして、その者達の代わりに金に物を言わせてならず者達を数多く雇う事によって、より一層従者達は領主に逆らえなくなっていた。街の住人達も近寄らなくなってしまい、領主が寝ている間は奇妙なくらい静かになっているのだ。


そんな奇妙な静けさも、領主が起きる事によって一変する。


「ふわぁ、よく寝たでおじゃる。誰か、誰かおらぬかぁ!?」


「はい、ラシェール様。ここにアダムがおります」


領主が叫んでから、まるでずっとそこにいたかのように間髪入れずに執事の装いをした男が返事をする。


「おぉアダム、そこにおったでおじゃるか!イーレ村の件はどうなっておる?あいつら年貢を支払えないとかふざけた事を言っておったが、あれから何か変化はあったでおじゃるか?」


「はい、報告いたします。ラシェール様が眠られている間に、イーレ村では英雄召喚の儀が執り行われたようです」


「何!?イーレ村の奴らめ、恩を忘れて麿に逆らうつもりでおじゃるか?」


「いえ、商人として潜入させた者の報告によると、どうやらこちらに逆らうつもりはなさそうです」


「何故分かるのでおじゃるか?英雄召喚なのであろ?」


「それが、召喚されたのはダンジョンマスターであるらしいのです」


「ダンジョンマスター?それは一体何なのでおじゃる?アダム、マロに説明してほしいでおじゃる」


「ラシェール様、ダンジョンマスターというのは簡単に説明いたしますと、ダンジョンを作り、それを管理するというなかなかレアなジョブを持った者でございます。ダンジョン1つ1つに違いが出るのはダンジョンマスターの個性が色濃く出るからではないかとも言われています」


「ふむ、ダンジョンマスターがどんなものかは分かったでおじゃる。しかし、それがどうして麿に逆らうつもりはないと言い切れるのじゃ?」


「それはですね、神からの助言として碑石にこのダンジョンマスターの力を使って冒険者を呼び込み解決しろと書かれていたようなのです。やり方次第では一攫千金も狙えるとかなんとか」


「なんじゃと!?一攫千金を企んでおるのか奴らは!そんな儲け話を麿がおらぬところでしていようとは……よしアダムよ、冒険者を集めてそのダンジョンを攻略しに行くでおじゃる!!」


「ラシェール様、ご本人でダンジョンに出向かれるつもりですか!?」


「もちろんでおじゃる。そんな面白い事をイーレ村の奴らだけでさせてたまるかでおじゃる」


「ラシェール様、いくら冒険者達を集めたとしましても、どのようなダンジョンかも分からない以上、危険でございます」


「アダムは心配性でおじゃるなぁ。そんなに心配しなくても、ダンジョンが出来てからそんなに時間は経ってないのであろ?ならば腕の良い冒険者を呼べばあっという間に攻略できるはずでおじゃる」


アダムは迷った。危険な事には変わりはないが、ラシェールが言ってる事にも一理あるからだ。


アダムは迷った末、ラシェールの言う通りにする事にした。ラシェールは一度言い出したらこちらの言うことを一切聞かなくなるからだ。

先代の領主が甘やかしすぎたせいでラシェールは何かを言い出したら、自分の思い通りにならない限り駄々をこねる。領主という立場と、財産によりだいたいのことは行えてしまう。

 だからアダムは止めるのを諦め、誘導をすることにした。

幸い、ラシェールは頭のできが良くない。いや、悪いと言っても良いだろう。欲に目が眩みやすいので誘導も容易いだろう。


「畏まりました。では、できるだけ早くに冒険者を手配いたします」


「任せるでおじゃる。ダンジョンを攻略となると、夜までにはイーレ村に着いておきたいから至急頼むぞ、アダム」


「はっ?今夜までにという事ですか?万全の準備をして明日出立というのにされてはいかがですか?冒険者も今からとなるとどれくらい集められるか分かりませんし……」


アダムはラシェールのあまりに身勝手な言葉につい否定的な事を言ってしまう。


「ならぬぞ!!ダンジョンができたばかりだからこそ、至急向かうのでおじゃる!冒険者なぞ、報酬として金を多目に出してやれば集まるでおじゃる。それともアダムよ、麿に逆らうのというのでおじゃるか?」


「申し訳ございません、すぐに準備いたします」


アダムは機嫌を損ねそうになるのに気付き、すぐに謝罪し行動に移そうと部屋を出ようとする。


「それから、麿が出かけている間はアダムにこの街を任せるでおじゃる。面倒くさい事を残しておくなよ?あと、冒険者じゃがあいつらに声を掛けるのを忘れるなでおじゃるよ?」


「はい、街の事はお任せください。あいつらとは、マルクス兄弟ですか?さすがに危険なのでは……」


「そうそうマルクス兄弟でおじゃる。気性が荒いのは聞いておるが、この街唯一のBランクのパーティーなんじゃから、声を掛けるのは当然でおじゃる。それに、そんなに心配しなくても知らぬ仲じゃないから大丈夫でおじゃる」


「畏まりました。それでは諸々の準備に取り掛かります」


「できるだけ早くするでおじゃる!あ、お弁当の準備忘れるなでおじゃるよ?もちろんバナナもでおじゃ!」


はいはいっと、おざなりに相槌を打ちながら部屋を出る。


後ろからギャアギャアとまだ何か聞こえているが、聞き流しても問題ないだろう。


冒険者集めにお弁当作りと、他の従者にテキパキと指示を出しながらアダムはマルクス兄弟の元へと向かう。


「それにしても……今回も何回殺しそうになったか……あんなのに仕えてる自分が恥ずかしく感じるな……だが、もう少しの我慢だ。ラシェールがダンジョンに向かうまでのな……」


アダムがニヤリと悪い笑みを浮かべていると、何処からともなく声を掛けられる。


「おっと、凄い殺気を感じたと思ったらアダムの旦那じゃねーですかい。アダムの旦那、オイラ達になんか用かい?」


「弟の方か?ちょうどお前らを探していたところだ、ちょうどいい。うちの馬鹿領主からの依頼で、イーレ村にできたというダンジョン攻略に向かってくれ。核を壊す前にダンジョンマスターを確保できるならしてくれ。無理なら殺してもいい」


「そんな依頼なら旦那が行けば十分なんじゃねーですかい?まぁ、オイラ達にとっては報酬の良い依頼を断る理由なんてないですけどね」


「俺は馬鹿領主からこの街を任せられた。あの領主が金蔓を引っ張って来れたらそのままだが、失敗でもしよう物なら……例の依頼を実行してくれ」


「ついにやるつもりですか旦那!まぁ、オイラ達マルクス兄弟にかかればダンジョンなんてすぐ攻略してしまうので、その依頼を実行できるかは分かりやせんがね」


「あぁ、万が一の時だけでいいさ」


マオ達の知らない所で、色々な人の思惑が交差するのだった。





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