6話
「よし、団長には何処まで習った?」
「……基本動作となる10個の型と、闘気技を3つ習いました。
でも、闘気技は完全には使えません」
「何! 剣術は何時から習ってだ?」
「2ヶ月ほど前から……」
「むぅ……」
(型も完全には使いこなせていないだろうが、それでも信じられない早さだ。
あの団長が基本を疎かにするとは思えんし、それほどの才能があるということか?)
「なら、この木剣を使って試合をしよう。
それで、お前の実力がどれほどかを見てやる」
「……断わっても駄目ですよね?
なら、行きます!」
場所は城内の中庭。
アルスとシルフィリア以外に誰も居らず、障害となる物も何もない。
戦うのにはもってこいな場所だ。
最初に仕掛けたのはアルス。シルフィリアの方も最初から打たせるつもりだったが、それ以上にアルスの踏み込みは速かった。
シルフィリアはその攻撃を体捌きだけで躱したが、すぐに二撃目が襲い掛かってくる。
今度はそれを剣で受け流し、隙が生じたアルスへ反撃の一撃を繰り出す。
それを知ったアルスは、木剣の刀身を斜めに傾けて盾とし、自らの頭上でシルフィリアの攻撃を受けた。
重い一撃。木剣の握り手を持つアルスの両手が、その衝撃に悲鳴を上げる。
だが、それを気にして動きを止める訳にはいかない。
既にシルフィリアは、刀身を滑らせアルスとの間合いを詰めようとしいる。
それを察知したアルスは、後ろへ飛ぶ。間合いを取ろうとしたのだ。
「さぁさぁ、続けていくぞ!」
しかし、その間合いは、シルフィリアの歩法によって一瞬の内に詰められてしまった。
更に下がろうとするアルスと、それを追い、連続攻撃を繰り出すシルフィリア。
アルスは防戦一方になり、回避も受けも間に合わなくなっていく。
(このままじゃ駄目だ。
どうにか攻撃の初動を見極め、そこに打ち込んで隙を作らなくては)
この試合は、アルスの実力を図るためのもの。
なのでシルフィリアも、このまま勝負を決めようとは思っていない。、
現に、彼女は攻撃の手を緩め始めている。
もう少し持ちこたえれば、攻撃を見切るタイミングは絶対にくる。
「ここだッ!」
次の攻撃が僅かに大振りになるのを見極め、アルスは自身の攻撃を叩き込む。
狙いは、シルフィリアの持つ木剣の根本だ。
二人の木剣がぶつかり合う。
力と力のせめぎ合い。
その勝負は、アルスの方に軍配が上がった。
アルスの木剣は完全に振り切られ、勢いと力が乗っている。
対してシルフィリアの木剣は、完全に振り切ることが出来なかったため、剣先が加速していない。
アルスが競り勝ったのは当然の結果だ。
攻撃の出鼻を挫かれ、競り負けてしまったシルフィリアは、上半身の体勢を崩しかけている。
それを確かな物とするため、アルスは続けて攻撃を行う。
一撃、二撃、三撃。
その跳ね上げるような連撃を受け、シルフィリアの腕は持っている木刀ごと浮き上がり、彼女の胴体は無防備となった。
これを最後のチャンスだと捉えたアルスは、自身の体をぶつけるようにして、全力の突きを放つ。
正に捨て身の攻撃だったが、シルフィリアの体捌きを考えると、こうでもしない限り避けられる恐れがあった。
アルスの突きが、シルフィリアの身体を捉える。
そう思われた時、シルフィリアはアルスの予想を上回る形で、それを回避してみせた。
「ッ――今のは惜しかったぞ!
だが、まだまだお前にやられる訳にはいかん!!」
なんとシルフィリアは、アルスの突きを後ろや横へ回避するのではなく、自分からそこへ飛び込んでいった。
そうすることでアルスの腕を掻い潜り、彼の懐へ入り込んだのだ。
懐に入り込んだシルフィリアは、アルスの身体を自分の身体で跳ね上げるようにして、彼を投げ飛ばす。
自分の勢いを利用されたアルスは、背中から受け身も取れずに落下して、気を失ってしまった。
「す、済まない。
騎士達を相手にしている時と、同じようにやってしまった。
大丈夫か?
……アルス? アルス!?」
シルフィリアの顔から血の気が引く。
彼女はアルスの元に駆け寄ると、その体を必死に揺らした。
だが、反応がない。
シルフィリアは泣きそうにながら、更にアルスの身体を揺らし続ける。
すると、アルスのまぶたが僅かに動き、小さな呻き声も聞こえてきた。
その事で喜んだシルフィリアは、とうとう泣き出しまい、アルスの顔に多くの涙がこぼれ落ちる。
「うう、ん……姉上?」
「! よ、良かった。
気がついてよかった」
「あ、姉上は僕の頃が嫌いなんですか……?
貴方は一体、どうしたいんです……?」
「!!」
目覚めたすぐに放った、アルスの質問。
それに対する答えを、シルフィリアはすぐに答えることは出来なかった。