表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/22

4話

「おお……! おお……!

 よくぞ! よくぞ目覚めてくれた!

 これで我が王国も安泰だッ!」


「ご、ご心配を掛けてすみません。

 でも、僕はもう大丈夫です」


国王は感極まって、目覚めたばかりのアルスに抱きつき、涙を流す。


アルスは戸惑いつつも、黙ってそれを受け入れる。


周囲の人達は、そんな二人の様子を暖かく見守りながら、自分達自身も歓喜に震えていた。


「父上、アルスは病み上がり。

 あまり騒がせては……」


「おお、そうだな。

 体を休めさせねば。

 それでは、ワシはそろそろ行くとしよう」


シルフィリアの忠言に、国王は潔く従う。

以前とは違い、気持ちが和らいでいる為だ。


しかし……


「……そうだ、奴らの処分を決めんとな。

 お前を守れもしなかった、役立たずの屑達を」


それは、アルスの護衛を任されていた騎士3人のこと。


国王の心のなかには、どうやらまだ、怒りの火が燻っているらしい。


この3人を処分しないことには、国王の怒りは収まらないだろう。


周囲の空気は、一変して暗いものへ。

それを打ち消そうと、シルフィリアは再び言葉を呈す。


「お待ちください!

 処分は今決めずとも、後に協議しまして……」


「いいや、これだけは今決める!

 奴らが何の処分も受けずにいることを、わしはもう我慢出来ん!!」


「……申し訳ありません!!

 我ら、我らはこの上、生きようなどとは思っておりません!

 何卒、何卒、死罪をお命じに……!!」


どこに控えていたのか、それは、護衛を任されていた騎士3人だった。


彼らは身を清め、死装束を纏って参上している。


「……そうか。

 お前達もその気なら、喜んで死罪を命じよう!」


「お、お待ちを!

 この者達はいずれも……!」


「黙れ! もう決めた――」


「お待ちください!!」


国王とシルフィリアの会話を、何者かが、その叫びによって中断させた。


叫び声がした方に、皆の視線が集中していく。


「僕はこうして無事ですし、気にもしていないので、どうか、寛大なご判断を」


「……アルス? 何故止める!?

 この者達のせいでお前は……!」


「……実は、僕が目を覚まさなかった間、僕自身はずっと夢を見てたんです」


「!?」


「その夢の中、薄暗い空間の中で、事故が起こった前後の事を考えていました。

 何が悪かったのか。自分が言う事を聞かなかったからなのか。何故僕は、そんな事をしてしまったのか。

 その疑問は、僕自身の全ての事に及んで、胸がどんどん苦しくなって……」


誰もが聞き入ってる。

彼の独白は、誰もが一度は考える事。

彼の問いが、自分自身の問いでもある。


「そして、その苦しみに我慢できなくなって、僕は、自分の夢の中からも消えてしまう。

 そう思った時に、僕は目を覚ましたんです。

 ……僕は、あんな思いを二度としたくありません。

 ですから、僕が過ちを犯しそうな時は、皆で止めて下さい。

 その止めてくれる人達の中には、そこの3人も入っている。

 父上が僕のためを思ってくれるなら、どうか、その3人を許して下さい!」


「ア、アルス殿下……!

 その思い、その思いこそ重要ですぞ!」


「うむ!

 死に触れた事で、お前の中の何かが変わったのだな?

 ならば、その者達に数日の謹慎を命じ、此度の仕置は終了とする。

 アルスによく例を言うがいい」


「アルス殿下ッ……!

 ありがとう、ありがとうございますッ……!!」


「……」


皆が狂喜に踊る中、一人だけ顔を青ざめている者が。


(胸が苦しかったというのは、息苦しかったという事?

 夢の中から消えてしまうというのは、死ぬ一歩手前だった……?)


アルスの言動と、数十分前の自分の行動。

シルフィリアはこの2つを照らしあわせ、それがあまりにも合致している事から、自分が原因なのだと確信する。


そのため彼女は、誰にも気付かれていないと分かっていても、指摘される恐怖に震えていた。


「しかし、アルスよ。

 お前の話し方が以前とは違うぞ?

 大人しくなったというか……」


「はい。実は、今の僕、所々記憶が無いんです。

 覚えていたり覚えていなかったり、その基準もどこか曖昧で。

 そのせいなのか、自分の事も上から見つめているような……」


「何だと!?

 やはり、体を休めさせねば!

 私は今度こそ行く。

 アルスは、己の体を癒す事に専念せよ!」


国王が供の者に支えられ、この部屋を後にする。

大臣達もそれに続き、最後に残っているのは、顔の青いシルフィリアだけだ。

「あ、姉上、どうなされたのですか?」


「あ、ああ、少し考え事をな。

 それよりも、体は本当に大丈夫か?

 痛かったり、違和感なんかは……」


そう言ってシルフィリアは、アルスに向かって腕を伸ばしていく。


すると、アルスの体が突然跳ね上がり、後退りするような形で、ベッド横の壁へもたれ掛かっていった。


「な……!?」


ベッドの上で行われたその行動は、明らかに自分を避けるもの。


それでシルフィリアが考えたのは、自分が絞め殺そうとした事実にアルスが気付いている可能性。


(しかし、それに気付いていたなら、皆の前で話さなかったのは可怪しい。

 まさか、体が記憶している?

 無意識にそれを感じ取っているのか?)


「あ、あの~、姉上?」


「! す、済まない。

 また考え事をしていた。

 で、では、私もそろそろ行く」


シルフィリアは、途中で止めていた自身の腕をまた動かし、アルスの頭に軽く置いた。


この時、アルスの体はまた小さく跳ねるが、彼女はそれを無視して軽く撫でる。

アルスの髪の毛が左右に揺れ、同時に彼の目には、驚愕の色が浮かんでいた。


「よく眠って体を癒やすのだぞ」


そう言い残すと、シルフィアは部屋の外に歩いて行く。


それを見送るアルスは、先ほど撫でられていた頭を左手で触り、残る右手で喉元を触っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ