表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

2話

「お前達は一体何をしていたのだ!?」


広い室内に酷くしわがれた声と、何かがぶつかる鈍い音が響いた。

それは、三人の騎士に年老いた男が激高し、手に持っていた杖を投げつけた音だ。


この年老いた男は、ノーストリア王国のガイスト王。


彼の怒りの原因は、アルス王子の警護に対する不始末だ。


あの後、王子は城まで搬送され、法術士達の懸命な治療を受けた。

しかし、彼の意識は未だ戻らず、何時戻るかも分からない。

それどころか、眠ったまま死んでしまう可能性だってある。


やっとの思いで授かった跡継ぎがこんなことになってしまい、国王が怒り狂うのも無理はない。


「もし、このままアルスの意識が戻らず、命を落とすような事にでもなれば、貴様達の命も無きものと思え!」


国王の怒気は更に膨らむ。

その様子は、噴火中の活火山のようでもあり、近寄る者全てに害をなすだろう。


それ故に、周囲の家臣達は国王を諌められずにいた。

老齢の国王がその怒りによって、自身の体すら傷つけるとしても。


「お待ちください父上!

 確かに、この三人は大きな過ちを犯しました。

 相応の罰は受けるべきでしょう。

 しかし、処刑は幾ら何でもやり過ぎです。

 そのような事をすれば、民心が王国から離れてしまいましょう!」


だが、このような状況でも、自ら進んで国王を諌めようとする者がいた。

そんなことが出来るのは、この国でたった一人の女性だけだ。


彼女の名は、シルフィリア・ノーストリア。

ノーストリア王国第一王女であり、アルス王子の異母姉弟でもある。


「……シルフィリアか。

 お前の出る幕ではない」


「いいえ、言わせて頂きます。

 そもそも今回は、アルスが護衛の忠告を聞かず、一人になってしまったことが原因。

 この者達だけに責任を負わせるのはどうかと」


「それ考慮するのも、護衛の役目ではないのかッ!?

 そもそも、未熟なアルスに振り切られようでは、我が国の騎士とは言えぬ!

 責任を負わせるなと言うのなら、小奴らを指導していたお前にこそ責任者があのではないか!?

 うぐッ……!?」


国王の体が突然揺らぐ。

シルフィリアは慌てて走り寄り、国王の体が地面に倒れ込む前に受け止める。


どうやら、案じていたことが現実となってしまった。


「陛下、これ以上はお体に触ります。

 ここは一度お下がりになり、我らにお任せ下さい」


「く、よいか!

 お主達はアルスが目覚めるよう、全力を尽くせ!

 ……シルフィリアめ。

 あやつさえ男であれば……!」


「……!」


王は控えていた兵士二人に支えられ、自室へと戻っていく。

その場に残されたのは、シルフィリアと数人の重臣達。


彼女達は、王が去り際に言ったあの言葉を聞いていた。


シルフィリアはそのショックからか、俯いた状態で一歩も動かない。


重臣達は、そんな彼女の身を案じており、ある一人が意を決したように彼女へ近づき、気遣いの言葉を掛けた。


「あの、シリフィリア様。

 王も動揺しているのです。

 どうか、お気になさらずに……」


「……私は気にしてなどいない。

 皆もアルスの事はショックだったろうに、気を使わせてしまってすまない。

 私はアルスの様子を見てくる。

 皆は、それぞれの仕事に戻ってくれ」


「そ、そうですか。

 では、私達は手分けして王子の治療法を探しつつ、通常の政務に戻らせていただきます。

 シルフィリア様も、余り根を詰めずご自愛を」


「ああ。分かっているさ」


シリフィリアの回答に一応の安心を得たのか、重臣達はそれ以上踏み込まず、自身の役目に戻っていった。


だが、シルフィリアの心中は自身の発した言葉とは裏腹に、どす黒いものが蔓延り続けている。


「……アルスさえいなければ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ