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静かな雨は図書室で  作者: greed green/見鳥望
一章 図書室の幽霊
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(4)

奇妙な心境だ。


こんなにそわそわした気持ちのまま、学校で過ごした事が今まであっただろうか。

しかもその理由が、放課後に幽霊と待ち合わせをしているからだなんて。


普段ならあっという間の時間が、やけに長く感じられる。

そしてようやく放課後の時間が訪れた。


足早に教室を抜け出し、彼女の元へと向かう。


いつもならばまずはお決まりの本を手にする所だが、その前に彼女の姿を確認する。

しかし、周りを見渡していても彼女の姿は確認出来ない。

まだ現れる時間ではないという事か。

仕方なく本を片手に席に座り、その時を待つことにする。


1時間程経過したが、彼女はいまだに現れない。

窓の外がオレンジ色に染まりだす。

やはりあれは夢で、全てが幻だったのだろうか。


帰ろう。


途端に馬鹿らしくなり、本棚へと向かう。


「よっ。」


「うわっ!」


直そうとした本棚の傍に、昨日の少女が佇んでいた。


「あ…君、昨日の。」


「ちゃんと来たのね。待った?」


くりくりとした瞳で少女は小首をかしげる。

待ったよ、むちゃくちゃ待ったよ。そう口に出そうとした時、少女が人差し指を鏡夜の唇にあてがう。

彼女の指は、一切の温度を持っていなかった。


「私との会話は口でする必要はないわ。頭で思ってくれれば通じるから。」


少女の言葉は確かに耳に聞こえるが、口元は一切動いていない。

試しに鏡夜は頭に言葉を連想してみる。


「あ、ごめん。なんせ幽霊なもので。」


そう言って、彼女は両手でごめんねのポーズを作った。

指が冷たかったのでどけてくれと頼んでみた所しっかり伝わったようだ。


「難しいな、これ。」


「慣れればなんともないわよ。」


はっと気付く。

何普通に会話してるんだ。相手は幽霊だぞ。


「さて、とりあえず自己紹介しておかなくちゃね。」


少女はぴしっと気を付けをする。

どうやら頭で思っただけの事は伝わらないようだ。

慣れるのに時間がかかりそうだ。


「私は涼音。年齢は18歳。あっ、これは私の死んだときの年齢ね。実年齢で行くと30歳くらいはいってるけど。よろしくね。」


「あ、よろしく。」


「はい、じゃあ次、君の番。」


すっかり涼音とかいう幽霊少女のペースになっている。

もうなすがままにいくしかないだろう。


「僕は、相沢鏡夜。今は17歳。よろしく。」


「見た目通り元気のないヤツだね。暗い男子はあの世でももてないぞ。」


「はあ。」


「何よ笑いなさいよ。ちょっとしたゴーストジョークよ。」


「いや、そんないきなり全てに適応出来ないよ。」


「そっか。これは失敬。ところで君17って事は高2?だとしたら後輩君になるのか。」


「そうなるかな。敬語の方がいいですか?」


「いやいや、いいよいいよ。フランクにいきましょう。」


「あの、根本的な事聞いていい?」


「いいわよ。」


「…本当に幽霊なの?」


そう言うと大きな目元さらに開け、涼音は驚きを表した。


「今更ねー。じゃあ今自分に起きてる事、現実的に説明出来る?ってか顔見たら分かるでしょ、死んでる事くらい。」


確かにとても生きている人間の肌色ではないし、説明のつけようがない。

にしても、こんなに幽霊が気さくなものとは知らなかったのでもはや一切の恐怖心はなかった。


「そうだね。それはもう飲み込むしかないね。それで何で僕に話しかけたの?」


すると涼音がもじもじと体をよじりだす。


「それは、君の事が、気になったから、かな。」


そしてとどめと言わんばかりに上目遣い。


「なっ…!!」


「うーわー顔真っ赤じゃん。君やっぱり単純だね。」


「おい、からかうなよ。」


そうだ。いくら幽霊といえ、超絶美少女なのだから。

しかもこの幽霊、どうやら自分がかわいい事をよく分かっているらしい。


「ごめんごめん。でも気になったっていうのは本当だよ。ずっと同じページ開いてなんだか物思いにふけってるし。勘だけど、君なら私の事気付いてくれそうだなって。」


「君、いつからここに?」


「結構長いよ。四六時中ここにいるわけじゃないけど、やっぱりここが一番落ち着くからね。」


それから涼音の事についていくつか分かった事がある。

彼女はもともとこの学校の昔の生徒で、本好きだった事もありよくこの図書室を利用していたらしい。

長くこの世に留まっているようだが、現世の人間達に気付かれる事はほとんどなく、気付いたとしても怖がられ逃げられたりとこうやって鏡夜のように近づく事は出来なかったらしい。


「ところで、この世に留まっているって事は、成仏出来ていないって事なのかな?」


鏡夜がそう口にすると、途端に涼音の顔が曇った。


「そうなんだよね…。出来たら私もそうしたいんだけど、自分の力じゃどうにもならないみたいでね。正直困ってるのよね。」


先程の明るさから一転した涼音の表情に深刻さが窺える。

鏡夜は思い切って尋ねてみた。


「何があったの?」


涼音は下を向いたまま答えない。

答えあぐねているのか。口にするのも辛い事なのか。


「ごめん、こんな暗い雰囲気じゃ本当にただの怖い幽霊だね。まあその事についてはおいおい話すね。今度は鏡夜の事いろいろ聞かしてよ。」


涼音の顔が満面の笑みに変わる。しかしそれは急にこしらえた仮面をかぶったようで鏡夜にはどこか痛々しく感じられた。

これ以上踏み込むのは良くないだろう。幽霊に気を遣うなんて思いもよらなかったが、それからは自分の事について涼音に話して聞かせた。


久しぶりの生きている人間との会話に満足しているようで鏡夜はほっとした。


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