(1)
「まいったなあ。」
休日の夕方。
鏡夜は公園のベンチに腰かけていた。
せっかくヒントを見つけたと思った途端にまさかの手詰まりだ。
ただ仮に布施が生きていたとして、どうするべきなのかというのも難しい話なのだが。
「横いいか?」
そう言いながらもその人物は返答が返ってくる前に鏡夜の右側に既に腰を下ろしていた。
「君は、この前のエクソシスト!」
「どうせなら名前で呼べよ。」
相変わらずじゃらじゃらとした装飾品が多く、明るいのに顔を覆う長い前髪のせいでやはり顔ははっきりと確認出来ない。
ただ隠れた目元から下の顔のつくりを見る限りはハーフのような顔立ちをしている事が確認出来た。
「あ、この前はありがとう。なんだかよく分からなかったけど、下手したら僕死んでたみたいだし。」
「そうだよ。あれ結構危なかったぜ。」
そうは言いながらも、岬はどこか愉快そうだった。
「何してるの?悪霊退治の休憩中?」
「ま、そんな所だな。お前こそ、こんな休日に難しい顔してどうしたんだよ。」
「いろいろあるんだよ。」
「いろいろあるのか。お互い様だな。」
「ところで、岬君って何歳なの?」
「すまないが、年齢は不詳って事にしてる。」
「なんだよそれ。アイドルの体重じゃないんだから。」
「そういうのと一緒にすんな。顧客の信頼にも響く部分だからあえて伏せてんだよ。」
それを言い出すなら、その見た目は顧客の信頼に影響はないのだろうか。
「一個確認しときたいんだけど。」
岬が初めてちゃんと鏡夜の方に顔を向けた。
「何?」
「この前、お前あのガキ殴ったか?」
「え?」
「あの三本足のガキだよ。」
「ああ。」
殴ったというか、苦し紛れの反撃みたいなものだったか。
すると急に岬は左腕を伸ばし、鏡夜の肩を掴んだ。
「いっ!?」
凄まじい握力に鏡夜の肩が悲鳴をあげる。
「ちょっ、やめてよ!!」
左手で岬の腕を払う。右肩がじんじんと痛むのを感じる。
岬の方はというと、振り払われた左手をじっと眺めていた。
「なんだよいきなり!」
それでもまだ自分の手を見つめていたが、ゆっくりと岬は顔を上げ鏡夜の顔に視線を移す。
「お前、やっぱ素質あるわ。」
「は?」
突然の理解不能な言葉に疑問がそのまま口からこぼれ出る。
「すまん、さっきのは確認。前見たときにもしかしたらって思ったが、やっぱりか。」
「だから、何が?」
「自分で気づかなかったか?お前も俺と同じ力持ってるって事だよ。」
「それはつまり…エクソシストの力?」
「そ。」
何の冗談だろうかと思った。
しかし思い出してみれば、確かに鏡夜の攻撃が手応えを感じさせた記憶もあった。
「お前の場合俺と違って、近距離タイプみたいだけどな。」
そういえば、初めて岬に会った時もそういうタイプがどうとか言っていたな。
「でも、なんで僕に。」
「それは知らねえけど。しかも結構な力あんぞ。普通殴っただけであんなダメージ与えらんねえもん。」
「そんな事言われてもな…。」
「心配すんな。だからって俺の仕事手伝えなんて言うつもりねえし。」
幽霊が見えるだけでなく、払う事も出来る力が自分にはある。
にわかには信じられない話だが身を持って体験してるだけに何も言えない。
涼音に出会ってからというものの、どんどん不可思議な事に巻き込まれていく。
もしやこの力も涼音の影響か。
「んじゃ、俺そろそろ行くわ。」
「あ、うん。それじゃあ。」
「一個だけ覚えとけ。」
「何?」
「俺には生まれ持ってこの力があった。お前はそうじゃなさそうだが、力を持つって事は、そこには絶対意味がある。俺とお前も、その点では一緒だ。」
そう言い残し、岬は去って行った。