(2)
「古都宮涼音。それが彼女の名前です。後最初に会った時に彼女が言ってたんですけど、彼女は18歳の頃に亡くなっていて、それから幽霊になって、現在は数えて30を超えているぐらいって言ってたんで、およそ10年程前に亡くなっているみたいですね。」
早速自分が得た情報を神門に説明する。
神門は少し驚いた顔をしていた。
「なんだ結構最近じゃないか。それに古都宮…どこかで聞いたことあるな。何だっけな。」
しばらく神門は頭を悩ませていたが、その答えには行きつかなかったようだ。
「駄目だ、分からない。とりあえず資料は漁っておくよ。でもそんなに最近の事ならネットでも何か見つけられるかもしれないな。」
「そうですね。ちょっと調べてみます。」
自宅に帰り、早速パソコンで涼音の名前、高校名を入れて検索してみる。
彼女の過去を勝手に調べている事に多少の罪悪感を感じながらも、検索結果を待つ。
表示された結果に目を通していく。
すると一つの記事が鏡夜の目にとまった。
しかし、それは不穏なものを感じさせる内容だった。
『**高校の女子生徒に非情な魔の手。』
なんだこれは。
不吉な予感がするが、鏡夜はそのページを開いた。
「…嘘だろ。」
そこに書かれていた内容に、鏡夜は絶句した。
『連続通り魔殺人にようやく終止符が打たれた。連日通りすがりの人間を刺し殺すという凶悪極まりない事件によって先日**高校の生徒である古都宮涼音さんが殺害された事で、合わせて5名もの民間人が尊い命を失う事になった。非常に少ない手がかかりの中、警察は遂に犯人を捕らえた。犯人の名前は、布施引也。市内の大学に通う21歳の若者だった。彼は警察の調べに対して、人を殺してみたかったと供述している。卑劣な犯人に極刑の鉄槌が下る事を心から望んで止まない。』
なんて惨い事を。
彼女が自分の口から離さなかった理由もうなづける。
これが、彼女が成仏出来ない理由か。
そして、あの時涼音の様子がおかしくなった理由が分かった気がした。
あの時、神門が現れた直後涼音の様子はおかしくなった。
最初ひょっとすると神門の事が苦手なのだろうかとも思ったがその理由は当てはまらない。
じゃあ何に?
あの時神門は本とカッターナイフを手に持っていた。
涼音は、カッターナイフに怯えていたのだ。
自分を殺した刃物を連想して。
「そういう事だったのか…。」
あんなに無邪気に笑う涼音。
きっと友達も多かっただろう。
両親は優しかっただろう。
彼女に恋していた男子も多かっただろう。
それなのに。
その笑顔が、こんな身勝手な理由で奪われたのか。
鏡夜は今まで感じた事のない程の怒りに飲み込まれそうになっていた。
布施引也。
こいつのせいで涼音は死に、死してなおこの世に縛り付けられている。
この男が鍵だ。
しかし、どうすればいい。
どうすれば涼音は納得するのだろうか。
殺す?
いや、さすがにそんな事までは出来ない。
とにかくこいつは重要な人物だ。
鏡夜は布施引也についても検索をかけた。
ずらっと出てくる記事は、どれも連続通り魔としての記事ばかりだ。
その中から適当な記事を開き、中身を確認していく。
そして鏡夜は事実を知った。
「えっ?」
これは。
じゃあ、一体どうしろってんだ。
僕に何が出来る。
『多くの死者を出した連続通り魔、布施引也だが、彼は逮捕され牢屋に入れられたその日に獄中自殺した。遺書が残されており、そこには、”まだ終わらない。”といった謎の記載が残されていた。これに関して警察は…。』
布施引也は、既にこの世から消えていた。
鏡夜は茫然と画面を眺めたまま、しばらくの間動けなかった。