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第一話

この作品はフィクションであり、登場する人物・団体・その他諸々すべて架空のものです。

さらに設定も二番煎じのチープで陳腐なものですのでパクリとか言わないで。

ただ、ところどころに配置したユルい冗談に苦笑いしていただければ幸いです。

それでは、よろしく。


まくらSNS     〜 第一話 〜


 「あなたと同じ夢が見たい」

 

 そんなチープな宣伝文句のSNSに僕が登録したのには訳がある。

同じクラスの女子、七山ななやま 菜知香なちかさんとお近づきになりたかったんだ。

 今日の昼休み屋上のベンチで、彼女はスマホを手にイヤフォンをしたままうたた寝をしていた。

そのそば通り過ぎるとき、偶然スマホの画面に表示されているSNSの名前が目に付いた。

 もしかしたら彼女と友達になれるチャンスかも。そんな不純な動機オンリーで家に帰ってから早速ググってみた。ところがどうやらそのサイトはスマホ専用らしく、パソコンからはアクセスできない。

 仕方なくスマホでアクセスし直し説明を読むと、「かならずヘッドフォンを使用してください」という注意書きがやたらと強調されていた。

(そういえば七山さんもイヤフォンをしてたな)

たぶん雰囲気作りのためのBGMでも流しているんだろうと思って、言われたとおりにする。


「※注意 本SNSは睡眠を誘発します。絶対に作業中や運転中、眠ってはいけない状態で利用しないでください」

登録を進めると、さらに不可解な注意書きが出てくる。

 これはSNSというより、怪しげな集団催眠の類いじゃないか、とも思ったが七山さんとお友達になりたいという欲求に負けて登録を進めることにする。

注意書きの通り、いつ眠ってもよいようベッドに横になって入力を続けた。


「それでは入室します」

そうメッセージが出た後、画面は昼間に七山さんのスマホに表示されていたのと同じになり、何か心地良い音楽が流れてきたと思ったら、すぅーっと意識が遠のいてしまった。


※※


 目を覚ますと見知らぬ部屋に居た。

古い日本家屋? いや、どちらかというと西洋の農村っぽい作りの部屋だ。

たぶん、麦か何かのワラで作ったベッド。木の壁、よく分からない天井、手作り感あふれるテーブルと椅子。

 窓から差し込む陽の光は柔らかく、外がよい天気であることが分かる。

ゆっくりとベッドから降り、自分の格好をつま先から順に指先まで見た途端、思わず噴き出しそうになる。

 ……ファンタジーだ、これ。なにこれ、僕は夢を見てるの? うん、きっとそうだ。

ブーツに革のすね当て、腰と胸には簡単な彫刻が施された革のアーマー、腕と頭にもなにやらそれらしい装備があった。どうやらRPGの剣士の役らしい。ゲームにはあまり興味は無いがこのくらいは知っている。

 うわぁ、なんだろう。すごく楽しい気分になってきた。

まわりを見回して、テーブルの上にメモがあることに気がつく。そこには

「makura・SNSにようこそ」という見出しに続いて、いくつかの注意書きや説明が書かれていた。

え、これってあのSNSの何かなの、どういう仕掛けなんだ? ちょっとマズくね、ほんとに催眠術かなんかだよ。

と、一瞬ビビったものの、注意書きを読んでも別に課金制度が有るわけじゃ無いし、退室するにはもう一度眠ればよいらしい。

 

「とりあえず、外に出てみることにしよう」

テーブルのメモを一通り読んだ後、僕は部屋の外に出てみることにした。

僕の家は小高い丘の上にあり、マンガのような一本道が山の向こうまで続いている。

近所には数件の家があり、そのまわりには人の姿もちらほら見える。彼らのところに行って話しかけると

「どこで眠って退出しても、次に入室したときはあの部屋から始まるよ」とか

「あっちの丘の向こうには大きな街があって、お城や市場もあるよ」など聞いてもいないことを次々と教えてくれる。なるほどこれがノンプレーヤーキャラってヤツか、さっきのメモに書いてあったな。

 僕は教えられたとおり丘を越えて街に向かった。普通ならこんなゴテゴテした装備をしていたら歩きにくくて仕方ないのだろうが、そこはさすがに夢の中、普段着とまったく変わらない。それに遠くに見えた風景も、少し歩くだけで向こうからビュンビュン近づいてきて、あっという間に街に到着した。


 たしか初めは情報収集のために何か店に入るんだったな。辺りを見回すと、一見西洋風の看板にしっかりと日本語で読み仮名が書いてある。なんて親切設計。

えーっと、武器屋、雑貨屋、薬屋、あとはレストランか。ちょうどおなかが空いてきた。そういえば晩ご飯まだだったな。というわけでレストランに入ってみた。

 これまた、どこかで見たような石畳のフロアーに木製のテーブルと椅子を並べて、壁際にはワイン樽を並べたやたらと広いレストランだった。カウンターでは店長らしきスキンヘッドの大男が客と笑いながら話をしている。フロアーではエプロンドレスを着た可愛い女の子たちが木のジョッキになみなみと注がれたビールやワイン、それに食べ物の載った大皿を運んでいる。

 大勢の客たちは、それぞれ思い思いの食事をテーブルに並べて大声でしゃべったり、笑ったりしながら食べている。

 あ、マンガ肉だ。そうか、そういうのもあるのか。と孤独のグルメっぽく心の中で独り言を言いながら、カウンター席に座り、スキンヘッドの大男に

「何か安くて腹のふくれるものをくれ」と通っぽく言ってみた。


「やあ、初めまして剣士さん。お名前は?」

スキンヘッドは大皿に山ほど麩菓子ふがし載せて、それを僕の前に置くと同時に問いかけてきた。

(これ、嫌いじゃないけど後でお腹でふくらんで晩ご飯が食べられなくなるんだよな)

そういえば、本名は入力したけどニックネームはまだだったな。大量の麩菓子を前に牛乳を追加注文しながら、どうせ夢の中だしかっこいいニックネームを付けようと

「そうだな、ホワイトシャドーとでも呼んでくれ」

「わかりました。あゆむさんですね」

……お願い、本名オンリーならわざわざ聞かないで。

顔を真っ赤にしながら僕はこのSNSのシステム開発者に説教したい気持ちが抑えきれなかった。その気持ちを察してか、近づいてきたウエイトレスの女の子が表情を変えずに

「makura・SNSは生まれたばかりのSNSです。大概の不具合は大目に見てね」と愛嬌たっぷりに言った。

「ちなみにいつごろからあるんです?」

どうせNPCのウエイトレスさんに聞いても答えてはくれないだろうから、スキンヘッドに聞いてみる。

「もうかれこれ十年以上になりますかね」

 説教決定だ。


 三本目の麩菓子を牛乳で流し込んだところで、隣の席に修道服を着た小柄な可愛い女の子が近づいてきた。シスターさんだろうか、いや、この世界だと白魔法使いと言ったところか。

「もしかして、歩さん?」

座り際に気がついた様子で、僕に話しかけてきた彼女の顔をみてドキッと心臓が大きく跳ねる。こんなに早く出会えるとは思っていなかった。

「は、はい。そうです。僕、あゆむです。菜知香なちかさん」

「えっ、よく分かったね。正解、菜知香だよ」

七山さんはクスッと笑って僕の隣の席に座った。

「歩さん、お菓子好きなんだ。ねっ、一本ちょうだい」

「どうぞ」

僕の前の大皿から麩菓子をつまむと、七山さんは可愛い口でカリカリとかじった。

(ああ、七山さんが僕の麩菓子を食べてくれてる)

「歩さんは今日初めてこのSNSに入室したの?」

ボーッと七山さんを見ていた僕は、突然の質問にハッと我に返って

「うん、そうなんだ。それもついさっき」

「それじゃ、最初はびっくりしたでしょ」

「そりゃあもう、なんか怪しげな催眠商法か何かに引っかかったと思ったよ」

「だよねー、私も最初はびっくりしたけど、今じゃ学校でも昼休みに遊びに来ちゃうんだよ」

 あれ? そういえばこれって僕の夢の中だよな。それにしては七山さんの話はずいぶんリアルじゃないか。

「ねえ、七山さん。あのSNSってなんかの方法でこういう夢を見るようになってるんだよね」

「そうみたいね」

「それじゃ、これは僕の夢の中だよね」

「ところが私の夢の中でもあるんだよ」

 どういうことだろう。これは僕の夢というか妄想じゃないのだろうか。

「あのSNSはね、入室した人全員に同じ夢を見せて、それぞれを繋いでいるらしいの。だから、ここに入室した人は夢の記憶の共有ができるのよ。試しに明日私に今日ここであったことを話してみて」

それはすごい、でもそんなことして脳に影響は出ないんだろうか。


 それから僕は彼女からいくつかのアドバイスをもらうことができた。この世界では僕と彼女のように元々知っている同士でない限り、リアルの名字や住所を聞き出すことはできないらしい。例えば言葉で話そうとしても、その途端になにを言っているのか分からなくなってそのまま退出させられたり、紙に書いてもらっても、まるで砂浜に書いた文字のように形が変わって見えなくなったりするから、「そういう目的」で参加したヤツは早々に二度と来なくなって安心して過ごせるらしい。

 ますます意味の分からないSNSではあるが、七山さんと友達になれただけで充分感謝できる。よし、説教は無しにしてやろう。


 ひとしきり話をした後に、彼女はレストランの壁に掛かった時計を見て、

「あ、そろそろ夕食の時間だから帰るね」と言って、いきなり僕の肩にもたれ掛かったかと思うと、すぐにすうすうと寝息を立て始めそのままスッと消えてしまった。

 肩に残った彼女の温かさを名残惜しく感じていたが、改めて時計を見ると入室してからそれほど時間は経っていない。なんたるご都合主義、と思いながら僕もそのままレストランの椅子で腕組みをし眠りについた。


     〜 まくらSNS 第二話につづく 〜







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