僕は逝きた。
あまり巧く書けませんでした。
初めてですので何卒、お手柔らかに…
───序章───
道を断つ細い足
逃走する必要性は?
怖いもの見つけた?
誰か伝えてよ
狂いそうに咳込んで
『今』から逃げるように
叫んで走るよ
君に伝わった日ならば
逝キタイ…
嗟、逝キタイ…
嗟、詰らない記憶
君は此処に居るんだ?
叫んで走るよ
君に伝わる日までは
生キタイ…
嗟、生キタイ…
狂っても走るよ
君に伝わる日までは
生キタ…
嗟、生キタ…
───夢───
「──────」
ブツブツ聞こえる先生や生徒たちの声が
心地良い。
───記憶の奥底で僕は夢を見た。
夢を見ているということに於いて見てい
ると自覚出来るのかは知らない。
「───────」
チョビハゲの塾長が言った。
此処は塾なのだ。
僕は塾生。受験生。
塾長は自分が未来を予想出来ると言った
らしい。
僕は、それを聞いた──認識した。夢なので僕が認識したと思った方が正し
いのかも知れない。
実際に言っているところは見たんじゃな
くて伝わっただけなのだ。
それから僕がいつ死ぬかってことが話題
になった。
自分の意識だけだから多分そうなったん
だ。
願望、希望、欲望。
眠る頭の中で自分の欲求が巡っている。
しかし、求めたのはこんなことだろうか
。
まるで夢のような夢。
憧れてたコメディドラマのような展開。
「─────」
塾長は2週間、と言った──認識させた
。
多分その後にもなんか言ってたけど、夢
だから覚えていない。
──朝起きてスケジュールに自分が死ぬ
日を登録。
唯、何かの話題にでもなれば良いだけだ
った。
誰かに他愛もない話の合間に、こんなこ
とがあったよ、って聞いて欲しいと思っ
ただけだった。
この時はまだ。
───生活───
学校にいるのは楽しい。
──1人の男子中学生が教室の机に頬杖
を付いている。
彼以外に生徒は居ない。
成績もよくない橋木 千春(ハシキ チハ
ル)でも学校という義務教育をある程度
楽しめている。
いつもと同じく朝早く起きて教室の鍵を
開けてジッと待つ。
暫くすればクラスメイトたちが来るので
、一人一人に挨拶が出来る。
こうすることに意味があるのかは千春も
知らない。
でも今日からはこの挨拶することに意味
を持つのだ。意味を持たなければならな
いのだ。
千春は昨日の夢を反芻していた。
面白い話題になるのだ。
自分が2週間後に死ぬのを前提に生きて
みる。
2週間後には皆にこういうことをやって
たんだっとか言って。
たまには莫迦なことも良いかも知れない
。
中学生3年で今は11月。
受験生には大切な時期に千春はそんなこ
とを考えていた。
そんなことを。
───日記───
11月7日(月)
夢を見た。
なかなかインパクトのあるようでない夢
だった。あと2週間で僕は死ぬらしい。
風邪をひいている。
これが原因で死ぬんじゃないだろうな。
11月9日(水)
母親と喧嘩をした。僕が文句ばかり言うので母は
今は一緒に住んでいない父を呼んだ。
昔、離婚してから遊びに行くこともある
けど最近は会うことはない。
喧嘩は少しおおごとになった。
───遠くへ行きたい───
11月10日(木)
千春は今日の遠足の為に最後の準備を整
えていた。
学校に着いたらクラスメイトに挨拶した
。今日の遠足は中学校生活では最後になる
。
山登りに行くらしい。
バスで現地に付き早速山を登り始めた。
友人の成海 照と行動し
ていると二人組の女子が足を道から外し
て落ちそうな状態だったので千春は成海
とともに助けに回る。
何も落ちてそこまで怪我をするような危
険な状況ではなかったがすぐに引き上げ
た。
人を助けるということに何の意味がある
のだろう。千春は急いで駆け付けた意味が判らなか
った。
人を助けて得る優越感、陶酔感、生殺与
奪の権利を持っているという感覚。
こんなものを感じなかったのなら人間は
意味がない。
というより意味を持てない。
人間とは私利私欲に生きていかなければ
ならないのだ。
しかし、何も感じずに死に逝くのも良い
かも知れない。
死ぬ時は誰にも会わずに死にたい。
世界が千春に生きる意味をあると認知し
ても千春自身でそれを肯定してしまうの
は少し難しい。
───イメージ───
11月11日(金)
「今日はポッキーの日やね。」
2限目の休み時間、千春は成海に言った
。とくに良い日ではない。
「なんで?」
成海は千春の隣の席に腰掛けながら聞く
。
「ほら、1がいっぱい並んでて棒がいっ
ぱいやからさ。っでもってさ、11月11日
11時11分11秒は傑作だよね。」
千春は他愛のない話を淡々と話す。
自分が死ぬという夢などきっかけがなけ
れば思い出しもしない。
実際そう信じて生活していけば大切なこ
とが判るかもしれないと思ったりしてい
る訳で期待もしていない。
「はぁ…それはメデタイね」
成海は少し呆れ気味に言った。
「でもさポッキー売ってる会社ってその
時の売り上げって上がるのかな…。
でさぁ話変わるけど、
一昨日の席替えでお前の好きな子と隣に
なったんだけど?」
成海の顔が少々歪む。
そういうフリなのかも知れない。
成海は冗談がきくので馬が合う。
「…ふ…ふーん。…だから?」
「どうしてくれようか」
千春は手をクネクネした。
何ともやらしい動きである。
成海の顔が更に歪む。今回はそういうフリではないと思う
。
「いやいや、冗談だって。」
案外焦っているように見えたので笑って
しまった。
いったいこの僕に何が出来るというのだ?
3限目の始まるチャイムが鳴ると成海は
自分の席に戻っていった。
実際、千春のお隣の佐多口は俗にいう隠
キャラである。
あまりスポットライトを
浴びない。
こんなのが成海の趣味だとは、と否定で
きるほど醜女ではない。どこからか上品な雰囲気が漂う気がする
。
でも成績はこの学校で一番で、誰もが知っている有名高校に行くべく猛
勉強しているのだ。彼女は。
と、少なくとも千春はそう思っていた。
周り人間だってそう思っているだろう。
猛勉強ということに於いて彼女は授業中
の態度から見て違うような気がする。
先生の授業にあくびをしているのだ。彼女は中学校の勉強をもう終えているら
しい。
昼休みになると運動上でバレーをする。
運動は良いものだ。今日は女子を相手にすることになった。佐多口や棹木もいる。
棹木は千春が好意を抱く女子生徒である
。
やはり男子と女子では力の差があり、
なかなか女子に点が入らない。
しかしお互いが文句をいうことなく楽し
めた。
昼休みも終わり席に付こうとした時、棹
木が千春の前に立ち言った。
「なあ千春、メルアド教えて」
女子との接点がない千春にとってこの申
し出は嬉しいものだった。例え彼女に千春以外の誰かに友人以上の
好意を向けていたとしても。
実際、彼女にとってそういう風な感情を
向けている異性はいる。
それは千春も知っていたし、応援もして
いた。
ただ、彼女と友達になりたいだけだ。
千春の気持ちはこの時はまだそれだけだ
った。
このときは…
───逃げる、もっと遠く───
金曜日なので塾がある。
今日もキチンと勉強をせずに千春はボー
と先生の話を聞いていなかった。
千春には受験というものが待っていると
いうのに勉強しない。
自分でも焦っているけどなかなか勉強す
る気になれないのだ。
死ぬことを前提に生きているので勉強す
る意味がない。
でも、冗談を言っている場合ではなく焦
らなくてはならない。
この選択は自身にとって本当に面白い疑
問であり千春自身は自分のことでありな
がらも笑ってしまった。
雨が降っている。
塾が終わってビルの階段で千春がたむろ
していると、千春の父、長居 史博から電話
があった。今日は迎えに来ているらしい
。
千春自身は史博のことが嫌いでそんなこ
とは望んでいなかった。
しかし、これは自分の父に向けた一種の
社交辞令である、と思い千春は我慢して
いた。
千春は印象や人柄などで簡単に人の好き
嫌いを分ける少年ではない。
史博に対しての嫌悪の意は他にあるのだ。
銀行の近くにいるらしいので近付くと史
博が手を振った。父の姿はこんなにも情けなかっただろう
か?
「お前雨降ってんのに何で傘さしてへん
ねん?」
史博が詰らなさそうに言う。
そんなことを言いにここまで来たんかい
、と思いながらも千春は言った。
「忘れてしもうてん。」
チッと舌打ちする音が聞こえる。
千春に千円札を渡して表通りを顎で酌る
。
「これで傘買え。近くにコンビニあるや
ろ。」
史博はスクーターで来ていた。千春は携帯のメロディプレイヤーで音楽
を聞きながら自身の父親と肩を並べ歩い
た。
『道を断つ細い足
逃走する必要性は?』
イヤホンから音が聞こえる。
千春が好きなアーティストの新曲である
。
「おい、先行け。」
しばらく歩くと史博は言った。
意図は判らなかったがスクーターと二人
分の体積が歩道の邪魔になっているのだ
ろうと考えたのだろうと、千春は解釈し
た。面倒臭いと思いながら千春は足を速めた
。
『怖いもの見つけた?
過去になった弱い僕
誰か伝えてよ』
早歩きでスクーターとその持ち主から
グングン離れる。
『狂いそうに咳込んで
「今」
から逃げるように駆けて』
唄がうるさい。
今、千春は錯覚の中で戸惑っていた。
自分が自分の父親から逃げる?
僕は逃げているのか?
妙な焦燥感が漂う。
昔から父親似だと言われたものだ。
ヤツみたいにはなりたくない。だから逃げるのだ。
怖いんじゃない。
邪魔だから逃げるんだ。
必要ないから逃げるんだ。
千春はコンビニから出てくると後を追っ
てスクーターを押して歩いてきた父親に
言った。
「コンビニのは高い。百円均一で買って
くる。」
そういって千春はまた逃走した。
『叫んで走るよ
君に伝わった日ならば
逝キタイ…
嗟、逝キタイ…』
この唄だけが自分の複雑な気持ちを反映
してくれているようだ。
他にもあるとしたら、
雨が頬を伝うこと。ズボンの丈が長いので水溜まりを踏む度
に湿っぽく足が重くなる。
千春はまさに逃走者宛らであった。
ただ、譯もなく続く焦燥。
千春は傘を買うと父の史博とともに近く
のファミリーレストランへ向かった。
席に付くと荷物を置き注文をする。
ここまでは普通かも知れない。
しかし、ここから父親の説教が始まるの
だ。
自分は高校も行っていないくせに親面を
する史博を千春は嫌いだった。
「お前は本当に高校へ行く気があるのか?
」
「勉強はきっちりしてんのか?」
「そんな成績で高校行けると思ってんのか?」
どんな質問も千春にはうざったかった。
「お前の母親見てみろ。ああ言うのが傍
若無人って言うんや。よう覚えとけ。」
(…アンタがだろ?)
父はここまで説教好きだったろうか?
千春はそう思いつつ父が今、跨っている
スクーターの後ろに乗った。
交通法を侵害しているが父も気にならな
いらしい。
家の下まで付くと早く帰りたい千春に史
博は5千円を渡した。
「えっ…ありがとう」
驚いた顔して手を伸ばせばほら。
社交辞令が報われた。
人生とは、こんなものだっただろうか?
僕とはこんなものだっただろうか?
千春は複雑な気持ちでいっぱいだった。
何がこんなものなんだ?
へいこらして相手のいいようにするだけ
で人生が簡単に渡れるんだと認識したこ
とか?
史博が汗水垂らして稼いだ金をそんな風
に思っていつもポケットに収めてしまっていたと自覚してしまったことだろうか?
───嫉妬心───
11月12日(土)
今日、千春は友人である木橋と北野田高
校の見学会に行く予定だった。
あまり綺麗な学校ではないと言われてい
るらしいが実際はそうではなかった。
高校なんて合格出来れば何処でも同じだ
、と思っている千春だからこそそう思っ
たのかも知れない。
帰りにラーメンを食べ、行きの交通手段
で使ったのと同じ地下鉄で帰った。
今日はどこかの学校の市内模試前日なの
で誰も暇なヤツはいない。
なので木橋と千春はカラオケボックスに
行くことにした。
しばらく唄っていると木橋の携帯にメー
ルが来た。
千春が好意を抱くあの棹木からである。
あまり面白いことも言えない自分にメー
ルが来ないで人気者である木橋にメール
が来ることに関しては千春自身、ちゃん
と自覚していた。
でも他に棹木が好意を抱く相手を知って
いるので木橋と自分は棹木にとって同じ
位友達であると言える。
なのに木橋だけにメールがいく。
自分と木橋の差はこんなにもあるのだろ
うか。
これを嫉妬心だと知っている千春は木橋
に出来るだけ変わらず接しようと思うが
なかなか出来るはずもなく友人である木
橋を突き放すような態度になってしまう。
「お前、棹木のこと好きなんか?」
友達…か、自分のことを知ってくれてい
る友達になぜこんな態度をとっていたん
だろう?
「いやぁ、ゴメン。つい…」
いやまぁ仕方ないからな、と木橋は言っ
てくれる
。「でも棹木が池内のこと好きやって知っ
てるんやろ?」
うん、と千春は言った。
「なら…」
「わかってる。
でもさ、な?
ここから先は…さ」
池内とは棹木が好意を抱いている男子生
徒である。
「やっぱ、お前無器用やな」
木橋が笑いながら茶化す。
友達とはこんなに大切なモノだったろう
か?
人とは何の為に他の誰かに支えられたい
のだろう?
コイツは僕の道具だろうか?僕はコイツの道具だろうか?
持ちつ持たれつ。
友達というギブ&テイクの精神はそんな
人間の道具だ、という理念を大きく覆す
ものなのではないかと千春は久しく思う
。
───自問自答───
最近、他の誰かに頼り過ぎだ。
千春は最近の自分の生活に隔たりがあるのではないかと自問した。
当然の如く自答する。
Q.死ぬのが怖いから誰かに頼る?
A.NO。
Q.死にたい?
A.どちらとも言えない。
───休日───
11月13日(日)
たまに家でボーっと何もせずにいたいの
は現実からの逃避だろうか?
千春は今まさに部屋に座りこんで身体を
ピクリとも動かさずに静止していた。
まだ風邪が治らない。
息がしにくくて苦しい。
咳が出る。
案外ジッとしていられる時間は限られて
いるようだ、と千春は残念がった。
前に誰かから聞いたことがある。
人間心理学の実験で被験体が四方一面コ
ンクリートで固められた壁と天井のある
部屋に担架の上を仰向けで寝転がるだけ
というもの。
但し被験体は動くことも出来ずジッと固
まっていなければならない。
音楽も聞けない、一人で話すのもダメ、唄ってもいけない。
被験体は立ち処にリタイアするらしい。
もって一日と半日。
千春は少し焦っていた。
死ぬかも知れないのに何かしなくていい
のだろうか?
こんなにボーっと何もせず、静寂に音な
き音に耳を傾けることは土に還れば沢山
出来るのだから。
──────
ふ、と 空を仰いだ。
一気に膝が崩れた。
今日は11月21日だけど何か大切な事があ
ったかも知れない。
苦しい。
ケホケホ、と咳が止まらない。
吐血した。
ドロドロ、と血が止まらない。
校長の声が止まった。
朝礼の挨拶をしてたけど“崩れ堕ちる”
僕に気付いたかな?
──成海が来た。
──木橋が来た。
友達になれてよかった。
って言ってやりたいけど口から血が出て
息も絶え絶えに。
ゆっくり話す場面ではないのか…
──棹木が来た。
好きだった。
この単語は言える。
血もクソも関係ないほど叫べる。
でも言っちゃ言えない気がする。
「千春!千春ー!」
校長が
「大丈夫ですか!?」
と叫んでい
る。
棹木は僕の名前を絶叫している。
柔らかな空気に包まれているけど辺り一
面に拡がる血で生臭い。
僕の名前を呼ぶこの人が可愛らしい。
今からこの人は僕のモノだ。
誰にも渡さない。
「千春ー!ちはるー!」
──いつまでも止まない。
この声は僕の、
この人は僕のモノだ。
最後になったモノは何だろう?
他人への見栄や偽善?
自分の止まない欲望、欲情?
自我?利己心?
ホラ、そうすれば…
今を見せかけの仮面だけで生きてゆけれ
ば社交辞令が報われる。
この限りなく残酷な世界へ、の。
「──だって、そうだろ?」
秋の紅葉が落ちる。
僕の中でも何かが堕ちた。
────────END
結局主人公の中に何が残ったのか解りませんでしたね…
「そうだろ?」みたいなw
結局我が儘に自分は生きたみたいなんじゃないでしょうか…(作者談