#8 初秋(1)
さて、ここからが本番ですよ~
始業式から数日経ち、夏休みの甘い呪縛から解き放たれた学生たちはいつもの生活に戻った。しかしただ一人、尚也だけは授業中に終始窓の虚ろに見ているか、或いは寝ているかのどちらかで何れにしてもノートは真っ白なままだった。
良介達からは「まだ夏休みボケかよ」などとからかわれたが、尚也は「まぁそんなとこだ」と言ったきり後は何も喋らず一日が終わる時もあった。
そのうち元戻るだろうと小春も亜季もさほど気にしてはいなかった。
始業式から二週間が経ったある日、小春は昼休みに教室内をうろうろしていた。
「亜季、柴田君知らない?」
「田口先生に用があるって、職員室に行ったみたい」
「何の用だろう」
「さぁ・・・」
二人の後ろから良介が話しかけた。
「おい、尚也知どこ行った?」
「職員室だって」
「は?なんで」
「知らないわよ」
「くそ、大事な用があるっていうのに」
「どうせろくな用じゃないんでしょ」
小春が意地悪そうに言った。
「ばかやろう。生きているうちでこんなに大事な用なんて二度とないね」
「どんなよ、それ」
「お前らに言えるか」
「けど、どうしたんだろう柴田君。ここ最近なんか・・・」
亜季が心配げに呟いたとき小春が教壇の机に忘れ物があるのに気づいた。
「ちょっと私様子見てくるわ」
小春が教材を職員室に届けに中に入って早速尚也を見つけた。
担任の田口は腕組みをして何やら悩んでいる様子だった。そのうち尚也の肩を抱えて職員室を出て行った。
小春がもう一つのドアから出て二人の行く先を見届けると急いで教室に戻った。
「生徒指導室?」
亜季が不思議そうに声をあげる。
「あいつ何かやらかしたか」
小春は良介の言葉を否定したが何か引っかかるものがあった。
「まぁ、とにかく昼休みももう直ぐ終わるしそのうち尚也も帰ってくるだろ」
そう言った良介の思惑ははずれ、午後の授業に尚也は出席しなかった。
放課後。
小春と亜季と良介は職員室に向かった。
田口は「柴田?身体の具合がちょっとな・・・」などと言い訳したがその表情に真実味は無かった。
「しゃぁねぇな。見舞いに行こうか」
良介の言葉に小春と亜季は同意して帰ろうとしたとき田口が三人を呼び止めた。
「ああ、あのな、お前たちに頼みがあるんだが・・・」
田口は少し迷った後にこれまでの過程を全て話した。