#4 夏(4)
陽が傾き日暮が鳴き始めた頃、重い足取りの5人は尚也の家に戻って帰た。
尚也の母は待ち侘びたように西瓜を切って各々に配った。
「海に行くんだったら海水浴場まで送って行ったのに」
尚也は無表情に、他の面々はうつむきながら無言で西瓜を食べた。
「藤村さん、大丈夫?顔色悪いわよ。何かあったの?」
亜季は努めて笑顔を振る舞い、小春が事情を話した。
「日光浴ぐらいで止めておけばよかったのに」
「もう平気です。こういうこと慣れてますので」
「慣れてるってあんた・・・あ、そういえば時々突然脂汗流したり、何も無いところをじっと見てたりすることあるけどそれってまさか・・・」
小春の問いかけに亜季は戸惑いながら告白した。
「うん・・・。でもそんなこと誰かに言って変な人だと思われたら嫌だし」
「いや、少なくても私はそう思わないよ」
「本当か?」
良介は西瓜を食べ散らかしながら亜季の言葉を否定しようとした。
「さっきの事があったからそう思うんだろ?普段さ、霊感が強いだの幽霊が見えるだの言われたら面白がりはするけど、やっぱ変な奴だと思うぜ」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・」
「でもさ、お兄ちゃんが助けに行かなかったら亜季さん、どうなってたんだろ」
小春は鋭い視線で美緒をたしなめた。
「美緒ちゃん、なんでそんな事想像するの!」
「ご、ごめん」
二人の会話の後に亜季は冷静に話し始めた。
「どうなってただろうね。でもきっとあの人、助けて欲しかったんだと思う」
「助けてって、死んでるんでしょ?その人」
「そうね・・・」
尚也の母が感慨深げに言葉を挟む。
「去年溺れた人はまだ遺体が見つかってないそうだから」
「ああー止めて、もうそう言う話は止めて下さぁーい」
「お前、普段偉そうにしているけど、案外怖がりなんだな」
小春はからかう良介を睨みつけた。
「あんた、今からあの浜に泳ぎに行きたいの?」
「お断りします」
一連のやり取りが場の雰囲気を和ませ先程の重苦しさが何処かへ消えたとき、尚也の母が何かを思い出したように口を開いた。
「あ、そうそう。晩御飯早めに済まして皆で宵宮に行ってきたら?」
小春が嬉しそうに反応した。
「お祭りやってるんですか?」
「毎年この時期になると神社で神楽が催されるのよ」
皆一様に目を輝かせる。
「でもちゃんと神社にお参りしてから出店に行くのよ」
「何かご利益でもあるの?」
「ご利益って言っても、漁師の町だからねぇ、安全祈願、大漁祈願・・・・、でも真剣にお願いしたら何でも叶うわよ。例えば、縁結びとか」
「そんなの当てにならないよな。だって皆願いが叶ったら町中カップルだらけでさ、嫁不足も解消されるぜ」
良介がそう茶化しても尚也の母はいたって真面目に答えた。
「どれだけ真剣にお願いするかだと思うけどねぇ。だけど、神社にまつわるとってもロマンチックな話があるんだけど、聞きたい?」
そのとき美緒がテーブルに手を着いて立ち上がった。
「あら、美緒、どうしたの」
「ちょっと・・・、支度してくる」
と言いながら部屋を出て行き、尚也はテレビをつけてテーブルから離れた。小春達はそれを気にせず話の続きを聴きたがった。
「それはねぇ、私がまだ小学生だった頃だからもう30年くらい前の話になるんだけど・・・」