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#33 独白(2)

病気は人をあんなにも変えてしまうものなのですね。

私に対して遠慮などしたことのない兄が悲しい瞳で申し訳なさそうに頭を下げる。

いつも陽気に笑って陰気なことが大嫌いだった優美さんがため息ばかりつく。

明日が見えず、絶望の淵に立たされた人は何をするか分からない。

心中?まさか。そう思ってはいても私と夫は兄夫婦の言動に神経を尖らせるようになっていました。

それから丁度一ヶ月たったある夜中。階段の軋む音で私は目を覚ましました。

その音は一人のものではありませんでした。

私は隣に寝ている夫を揺り起こし、寝巻きのまま廊下にでると急いで玄関の灯りをつけました。優美さんは兄の肩を抱え、優妃子は上がりかまちに座って靴を履いていました。

私は眠いふりをし「どうしたのこんな夜中に」と欠伸をする演技を見せながら言いました。

優美さんは予想してないこの状況になんと言い訳しようか考えたあとこう言いました。

「あのう、仕事が見つかったのでそちらに行かないと・・・急だったもので」

「でも今の時間じゃタクシーも捕まらないわよ。明日じゃだめなの?」

「ええ、でも・・・」

「ほら、ユキちゃん、寝てるわよ」

優妃子は座って船を漕いでいて、私は咄嗟に彼女を引き世ました。

「ユキちゃんが可哀そうよ。明日にしましょう。ね」

そう言うと優美さんと兄は諦めて二階に戻って行きました。

私は優妃子を抱きかかえ自分の布団に寝かし、その寝顔を見ていたら自然に涙が零れ、それと同時に言いようのない怒りが込み上げてきました。

何故自分の子供を道連れにしようとするのだろう。いくら親でも子供の命を自由にする権利はない。この子はこの先何十年も生きて、いろんな人に会い、いろんなことを学び、楽しいこと、悲しいことを経験して、苦しいほどの恋をしなければいけない。

それなのに・・・・。

私はどうしても腹の虫が納まらなくて二階の兄の部屋へ行きました。

電燈の小さなオレンジ色の明かりの下で私は兄夫婦に思いのたけを一方的に話しました。

兄も、優美さんも俯いて涙を流していました。

「死んで何になるの!いいえ、あなた達は好きにすればいい。でもユキちゃんだけは巻き込まないで!」そう言っている私も涙を流し声が震えていました。

一瞬静まった時、兄が振り絞るように呟きました。

「俺の病気は・・・1割の確立で、遺伝するんだよ」

私はそのとき興奮していて思わず声を荒げてしまいました。

「それがどうしたのよ!あなた達は明日が見えないような暗い気持ちになっているからたった1割にこだわるのよ!」

少なくても、あんなに可愛く、優しい優妃子がその1割の中に入るはずがない。

私はそのときそう信じてやみませんでした。そして兄や優美さんの気持ちなど無視して決心したのです。

「あなた達がユキちゃんの先行きを心配する必要はないわ。私がユキちゃんを育てるから。私がユキちゃんを絶対幸せにしてあげるから!」

その後私が部屋に戻りうつらうつらしながら優妃子の寝顔を見ていたとき玄関のドアが閉まる音が聞こえました。

私はもう兄と優美さんを止める術を持ち合わせてはいませんでしたから、ただ優妃子を起こさないように、ゆっくり眠れるように優しく抱きしめる他はありませんでした。


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