#29 晩秋(1)
良介は弁当を食い終わり紙パックのジュースを飲みながら尚也に声を掛けた。
「なにキョロキョロしてんだ?」
「亜季、どこ行ったんだ」
「ふーん、お前・・・」
「なんだよ」
「てっきり俺は、小春かと思ってたんだが、そうか、そうだったのか」
良介は納得したように頷いた。
「そんなんじゃねぇよ」
「じゃぁなんだよ」
尚也はパンの袋を開け口元まで持っていったがそのまま喋り始めた。
「あいつなんだか変なんだよな。妙によそよそしいって言うか、何時もだったらあいつから昼飯誘うのにどっか行っちゃうし」
「まだ風邪治ってないんじゃないの」
良介の言い様に納得していないまま尚也はパンにかぶりついた。
「柴田さん、お客様よ」
同級生の女子の声に振り向くとそこには奈津美が立っていた。
「柴田君、安住さんどうだった?」
尚也は気まずそうにはっきりしない口調で答えた。
「ああ、あのう、道に迷って、病院に着いたときには面会時間が過ぎていて・・・」
「そう。じゃぁ今日はちゃんと行ってあげてね」
尚也ははいともいいえともつかない曖昧な返事をした。
「安住の病気って一体・・・」
「私、気になって調べたんだけど凄い珍しい病気みたい」
運動神経細胞が死んで行き手足や喉などの筋肉が痩せて力がなくなって行き、やがては自身で呼吸さえできなくなるという。
「治らないんですか」
「進行を遅らせることは出来ても・・・、駄目みたい」
そういえば昨日、洗濯機の横に座っていた優妃子は何を言っていたんだろう。
尚也はふとそう思った。
一日の授業が終わって背伸びをしている尚也の元に亜季がやって来た。
「どうしたんだよ。今日、なんか変だぜ」
亜季は下を向き目を合わさなかった。
「安住さんの所に、行ってあげて」
「え?」
「安住さん、会いたがってるの。柴田君に。だから、行ってあげて」
突然の亜季の願いに尚也は戸惑い返す言葉も見つからなかった。