#28 亜季(4)
朝。朝がまた来た。
昨日までの事が全部夢だったらいいのに。
わざとらしいほど澄んだ空と淀みなく流れる雲。
かえって私を陰鬱な気持ちにさせる。
学校に行きたくない。
でも、安住さんの願いを、純粋な彼女の気持ちを彼に伝えなきゃいけない。
でも、なぜそんなこと私がしなきゃいけないの?
(もう死ぬんだからいいんじゃない?)
私の中の黒い私が呟く。死ぬ・・・安住さんが・・・。
(彼が知らないままの方がいいかもね)
そうしたら、彼、私の事を・・・。だめ、やっぱり伝えなきゃ。
(偽善者!)
彼が彼女を認めたら、彼の中に彼女が一生住み続ける。
(それでもいいの?)
私は・・・
教室の私の席に座る。なんだろう、心にあるざらめいたもの。
まるで中学生だった頃の私。
「亜季、大丈夫?風邪」
クラスメイトの一人が私を気遣ってくれる。
「うん、大丈夫」と言った私の顔はきっと歪んでいる。
「亜季」
彼の声。痛い。痛い・・。私は胸の奥を鷲づかみされたように身体が硬直した。
「いいのか、もう」
彼の目を見られない。なんだか、怖い。
「柴田君・・・ありがとう。もう、平気」
「そうか、じゃぁ、またあとで・・・」
彼はもっと何か言いたそうだったけど始業のチャイムが鳴って自分の席に戻った。
どうしたらいいんだろう。ただ何時もみたいに自然にお話して、何気なく彼に触れたいだけなのに。
小春だったら多分こんな重く暗い気持ちを押し込めて、彼の為だったら知っている事をみんな打ち明けるんだろうな。
でもそんな事したら私の事なんてどうでもよくなるに違いない。
そう。きっとそう。
こんなじめじめした私なんて嫌いに決まってる。
私はお昼休みになると逃げるように教室をでて中庭の隅で、一人でお弁当を食べた。
風が吹いて樹から弱々しい葉っぱが落ちた。
私の脳裏から安住さんの悲しげな顔が離れない。