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#21 小春(4)

良介は後頭部で両手を組んで「んん~」と唸った。

翌日の昼休み。良介は尚也の提案に素っ気なく答えた。

「俺、行かない」

尚也は意表をつかれ、その訳を問うた。

「小春が自分で決めた事だろ。俺達が横からなんだかんだ言ったって、仕方ないだろ」

「お前、そんな冷たい奴だったのかよ」

「じゃぁ、お前は小春の学費払えるのか」

尚也は口を噤んだ。現実的には正しい。しかし、そういう問題じゃない。

「だったら俺の時何で止めたんだよ。俺にはなんだかんだ言っといて小春だったら見過ごすのか」

昼休みの中庭で亜季と3人で昼食をとりながら話し合っていた。

風は冬の気配を漂わせているが太陽は悄然と最後の熱を放射していた。

「俺はお前に辞めるなとは言ってないぜ。それにお前の場合は何で辞めたかったのか訳わからなかったからな」

尚也は少し苛つきながら焼きソバパンを一気に口に入れお茶を流し込んだ。

「亜季はどうなんだよ」

亜季は物憂げに口先から箸を離した。

「小春が居なくなったら淋しいよ。だけど・・・」

半分も食べていない弁当を膝に乗せそれをじっと見た。

「小春のお父さんが大変な時に・・・。小春の気持ちも分かるんだ。私たち・・・、うん、私たち親友だから。学校辞めたって、親友だから。だから・・・」

「だから辞めても平気なのか」

尚也の言葉に亜季は慌てた。

「違うよ。でも・・・分からない、どうしたらいいんだろぅ」

生徒たちの喧騒が中庭にこだまする。大声で笑う者。奇声を発しながら走るもの。

三階の窓から紙飛行機が投げ出された。それはゆっくり空中で漂い、傾きながら反対側の校舎の陰に飛んで行った。

「俺は良介みたいな大人じゃないからさ」

良助にもその言葉は皮肉だと分かった。

「会って話ししてみないと分からないだろ。本当にそう思っているのかどうかなんて」

「でも柴田君、日曜日部活なんでしょ」

尚也は残りのお茶を飲み干した。

「亜季も俺を水泳部員にしたいのか?得するのは良助だけだぜ」

良助は米粒を口から飛ばし、むせながら慌てて言った。

「得ってなんだよ!」

「お前の目論見は見当ついてるよ。ま、お前の誠意しだいじゃ、考えなくもないけどな」

良助は腕を組んで眉間に皺を寄せながら唸った。


日曜日の校舎は閑散としていたがグラウンドや体育館は部活に励む生徒達の活気で溢れていた。水泳部も例外ではなく水の跳ねる音が室内プールにこだまする。

優妃子の身体は日を追うごとに痩せ細っている。

今では廊下との段差を越えるのもままならず部員全員が優妃子を労わっていた。

なんとか秋季大会が終わるまで頑張ると言い続けている彼女に何とか報いたいと部員達は練習に励んでいた。

優妃子は椅子に練習風景を眺めていた。

膝にイニシアルを縫い込んだタオルを置きながら。


尚也と亜季を乗せた電車は片二時間の道のりを郊外へ走った。

駅を過ぎる毎に風景がのどかになって行く。

二人はあまり会話をすることなく向かい合って座っていた。

亜季は横に置いていたバックから包みを取り出した。

「はいこれ」

尚也は「ああ、ありがとう」と言いながら差し出されたサンドイッチを摘んだ。

「どうせ朝ごはん食べて来てないんでしょ」

「そんな時間ねぇよ」

「ぎりぎりまで寝てるからよ」

「眠いんだからしょうがないだろ」

「じゃぁ夜更かししなきゃいいのよ」

「な、なんだよ、お前は俺の母親か」

亜季はくすりと笑って尚也に缶ジュース渡した。

「俺のしている事って小春にとっては迷惑なのかな」

尚也は窓に肘をかけながら呟いた。

「なによ、今更」

「昨日色々考えたけど、良介の言ったことも正しいって思ったし、小春が決めた事ならそれを応援するのが友達なんじゃないのかな」

「じゃぁ今から帰る?」

「お前も案外、性格悪いよな」

「だって小春の本当の気持ちを確かめたくて行くんでしょ?それから考えたっていいじゃない」

「そうだよな・・・」

尚也は夏休み直後に学校を辞めると言ったときに寮に押しかけ自分を諭してくれた小春の泣き顔を思い出した。


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