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#19 小春(2)

放課後。尚也は部室に寄って奈津美に練習を休む旨を早口で告げて直ぐに踵を返した。

廊下を小走りに去ってゆく尚也の背中を見届けた優妃子は首を傾げながら部室に入った。

「柴田さん、どうしたんですか」

「今日部活休むって」

優妃子は顔を曇らせた。

「秋季大会まで二ヶ月も無いのに・・・」

「彼はまだ仮入部だからね、大会に出てくれるだけでもありがたいわ」

「でも、身体具合が悪そうでもなかったし、この時期に休むなんて他の部員達にしめしがつきません」

奈津美は椅子を差し出した。

優妃子はタオルを入れている籠を抱え直し「いえ、大丈夫です」と言って断ったが奈津美は強引に座らせた。

「友達がいま大変らしいわ」

「友達、ですか」

「そう。いつもほら、観覧席で見学している二人組み」

奈津美は尚也から聞いたあらましを話した。

優妃子も亜季と小春の事は分かっていたがどういう関係なのか知りたかった。

「柴田君が学校を辞める辞めないでもめたときもあの二人が必死で止めたみたいだし、大切な友人なのよ」

「え?柴田さんが学校を・・・」

「あら、知らなかった?」

奈津美は優妃子の反応を楽しむかのように続けて言う。

「もしかしたら柴田君、寺島さんの事好きなんじゃないの?いや、もう付き合ってたりして」

優妃子は動揺を隠せず、抱えていた籠を床に落としそうになった。

奈津美はそんな優妃子を愛おしいく思いながらも笑いが込み上げた。

「冗談よ。そんなに気にしないで」

優妃子は少しむくれて壁に手を着きながら立ち上がると部室を出て行ったその後姿は、夏休み前より更に痩せていた。


尚也は玄関先で待っていた亜季に声をかけ、二人で校門を出た。

「良介は?」

「なんか用事があるって、帰えちゃった」

「そうか」

丁度来たバスに二十分ほど乗り、郊外のとあるバス停で降りた。

そこは商店街と住宅街が並列した新しい街で道路で脇に銀杏並木が続いていた。

(そういえば柴田君と二人きりで歩くの、初めてだな・・・)

そう思うと自然に心が弾んでスキップでもしたくなるような衝動に駆られた。

「でも小春、家にいるかな」

「さぁな」

あれだけ電話をしてもメールをしても音沙汰が無い所を見れば何処かに非難している可能性もある。しかし尚也はそれでも家に行って確かめたかった。

「あのね、私、小春だったら大丈夫だと思うんだ」

「なんでさ」

「私みたいに優柔不断じゃないし、自分の事自分ではちゃんと決められる人だもの」

「心配じゃないのか」

「心配だよ、心配だけど・・・私たちがどうのこうの出来る問題じゃないし」

「じゃぁお前は何で来たんだよ」

尚也の厳しい視線に先ほどの浮かれた気持ちが何処かへ消えてしまった。

(私は柴田君と・・・)心でそう呟きなが頭を振った。

「今日のノート、貸してあげたいなって。コピーしてきたんだ」

二人は無言で暫く歩き亜季の案内で目的地に着いた。


<寺島小児科内科医院>


正面にはマスコミ関係者と思われる人たちが数名いた。

玄関にはカーテンが引かれている。

尚也と亜季は病院の裏手に回った。そこには同じ敷地内に住居がある。

そこにも三名ほど記者が待ち構えていたが尚也は気に止めず呼び鈴を押した。

「君たちここの娘さんの友達かい?」

記者の一人が話しかけてきた。

「ここには病院の関係者と医院長しかいないはずだよ」

「じゃぁ、あんた達はここで何してんだよ」

「もう直ぐ医院長の会見があるんだけど、もし家族の誰かが帰ってきたらコメント貰いたくてね」

尚也は徐に持っていた鞄の底を手で探った。

「どうしたの」

「あ、いや・・・」

漸く取り出したのは携帯電話だった。

「柴田君も携帯持ってたんだ」

「ああ。あまり使わないけど。かかってくるのはお袋と美緒だけだけどな」

尚也は不器用に携帯電話を操って耳につけた。

(小雪の番号は知ってるんだ・・)

「やっぱり出ない。なにやってんだあいつ。段々腹立ってきた」

亜季は小雪が出なかった事に少し安心した。

「小雪は知っていたんだね。柴田君が携帯持っていること」

「知ってるっていうか、あいつ無理やり自分の番号とアドレス入れやがってさ」

尚也は亜季の顔色を伺い、携帯電話を亜季に渡した。

「俺、使い方知らないんだ」

亜季が慣れた手つきで番号を打ち込み終わったとき、家の前に居た記者達が一斉に移動を始めた。

二人もその後を追って病院の正面玄関に行くと医院長が記者達に取り囲まれていた。

初めてみる小春の父親はやつれてはいたが凛としていた。

遺族や被害者に対するお詫びの言葉を告げた後、後深々と頭を下げた。

記者等の厳しい質問にも誠心誠意答え、誰も責めず、誰に責任転嫁せず全責任を負う覚悟があるということはその言葉つきや態度から伝わり、尚也は小春の父親に清々しい気風を感じた。


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