#15 亜季(2)
私は小さい頃から人には見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたりした。
でもそれは私にとってあたり前の事だったし、みんなも私と同じだとずっと思っていた。
小学校三年生のとき公園で近所のおばあちゃんとお話していた。
でもそのおばあちゃんは既に亡くなっていた。
私はそのおばあちゃんが大好きだった。
おばあちゃんも私のことを本当の孫のように可愛がってくれていたから亡くなったときは本当に悲しかった。
だからそのとき会えて凄く嬉しかったのだけれど丁度居合わせたクラスメイトの男子に気持ち悪がられて、次の日から私は変なあだ名で呼ばれるようになった。
私はそれが嫌で仕方なかった。でも反抗すればするほどからかわれ、疎まれ、そのうち私は人の目を気にしてなるべく抵抗しないようにして一日を過ごすようになった。
みんなは私と違う、いいえ、私がみんなと違う。
けれど私の目に見えるもの、私の耳に聞こえるものは全部本当。
だけどそれを口にはしない。だって私はみんなと違うんだもの。
中学校の三年間は自分を押し殺して過ごした。
最初の頃は苦しかったけれど段々慣れてきた。
みんなに合わせて、みんなと同じに。時々それが嫌になる時があったけれど我慢した。
だって一人は嫌だし、お友達が欲しかったから。
唯一私にとって親友と呼べるお友達がいた。小学校のときから一緒だったよーこちゃん。
いつも二人で遊んで、いつも一緒だった。
私はよーこちゃんの事は大好きだったけれどよーこちゃんは時々私の事をあの忌まわしい変なあだ名で呼ぶときがあった。
彼女は冗談んのつもりなのだろうけど私は凄く嫌だった。
そのおかげで段々私の中でよーこちゃんとの間に薄い、本当に薄い膜みないな物が出来てしまった。
何かの話題で夢中でお話していても、一緒にお弁当を食べているときも、お互いの家に遊びに行ってもその膜は絶対破れることは無かった。
私が清明学園を受験しようと思ったのは小春みたいに夢があるからじゃなく、ただ私の事を誰も知らない所へ行きたかったから。
清明学園を希望したのは私一人。
先生は渋い顔をしたけれど私は私の事を知っている人達と決別して新しい自分に成りたかった。
卒業式の日。私はよーこちゃんと抱き合いながら泣いて別れを惜しんだ。
「亜季ちゃん、私たち友達だよね。ずっと友達だよね。高校生になっても時々遊びに行こうね」
私は体中の水分が無くなるくらいに泣いてよーこちゃんと親友の約束を交わした。
でもそんなよーこちゃんとの約束もその時の私の感情も上辺だけの奇麗事だった。
高校に入学してクラスのみんなとも打ち解け始めた頃、私は家のに用事で遠出しとき偶然バス停に立っていたよーこちゃんを見つけた。
私は彼女に声を掛けようとしたけど何故だか足が止まって無意識のうちに路地に隠れて、そのまま気づかれないように遠回りして家に帰ってしまった。
別に彼女に対して何か後ろめたいことがあるわけではないし、多分彼女も私だと分かると普通に声を掛けて来たに違いない。
いいえ、そうじゃない。私には後ろめたかった。
卒業して少しの間は彼女に会いたくて何度も電話をしようと思ったけれどそのときは何だかよーこちゃんに逃げているような気がして我慢した。
せっかく新しい自分になろうとしているのに彼女に電話したり会ったりしたら昔の自分に戻ってしまうような気がしたから。
それから小春と出会って、保村君、そして彼に会って、学校が楽しくなった途端、よーこちゃんのことなんて忘れてしまって全然思い出さなないでいた。
あんなに離れ離れになるのが悲しかったのに、あんなに固く約束したのに、今の生活が楽しくなった途端もうよーこちゃんは過去の人になってしまっていたんだ。
私が未だに友達も出来ず一人でいたらきっと毎日よーこちゃんに電話していたかも知れない。
だけど彼女には彼女の生活があって、新しい友達も出来ていてそんな事したら迷惑に決まっているし、そう、もしかしたらあの時だって私に話しかけられたらかえって迷惑だったかも知れない・・・、そうなのかな、そんなものなのかな、私の思う親友なんてその場の気持ちの昂ぶりだけなのかな。私の独りよがりだったのかな。
じゃあ、今の私にとっての小春の存在ってなんだろう。ただのクラスメイト?