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#13 初秋(6)

翌朝。尚也は目を擦って目覚まし時計を見た。

もうそろそろ寮を出ないと明らかに遅刻する。

頭と首筋に軽い痛みが走り、しかめっ面をしながら暫く考え、またベッドに潜った。

どのくらい時間が経ったのか分からない。窓からの日差しの加減から察すると昼はとっくに過ぎ、もしかすると夕方近くかも知れない。

目を閉じたままうつらうつらしていたとき部屋の扉が開いて誰かが入って来た。

また良介かと思い、そのままでいると肩を揺り動かされた。

掴まれた感触が違う。細い指ではあるが力強い。

「柴田君、起きなさい」

女性の声。小春?亜季?いや、違う・・・

尚也はゆっくり目を開けた。

「石田さん」

「何時まで寝てるの、さぁ行きましょう」

奈津美は尚也を無理やり起こして着替えるように催促した。

「行くって、どこへ」

「プールに決まっているでしょ」

「俺は入部すると決めた分けじゃないし」

「じゃぁ何故昨日泳いだの」

「あれは良介が無理やり・・・」

奈津美はベッドの縁に座り尚也の方を向いた。

「そうかもしれないけれど、泳いだのはあなたでしょ」

尚也は枕元の時計を見ると午後四時を過ぎていた。

「学校さぼった奴が何で部活に出れるんだよ」

「気にしなくていいんじゃない?あなた次第よ」

「けど、飛び込みも、ターンも出来ない人間が競泳なんて無理でしょ」

「だから練習するんでしょ」

「まぁ、そうだけど・・・」

ぐずぐずしている尚也の手を掴んで奈津美は立ち上がった。

「さぁ、時間がないわよ」

「石田さん、そんなに水泳部が大事なんですか」

奈津美は手を離して大きく息をついた。

「そうね、今の私には一番大切なものだわ。そのために清明に入ったのだから」

「でも俺は違いますよ。競泳なんて興味ない」

「競泳じゃなくて学校自体が、でしょ」

尚也はたじろぎ、目を伏せた。

「あなたが何故学校を辞めたいのかは知らないし、興味はないわ」

「だったらほっとけよ」

「できたらそうしたいわよ。でもね、今の私たちにはあなたが必要なの」

奈津美は一息ついて更に喋り続けた。

「あなたが競泳に興味があるか無いかなんて関係ない。あなたを必要な人がいて、あなたを待っている場所がある。その事をよく考えてみて。だって普通はそれが欲しくてみんな必死でがんばっているのよ」

他人のその気持ち。それを無視して何もかも投げだしてしまう事。それは・・・。

「それに、彼女、何故だかあなたの事凄い気にしてたわよ」

「彼女?」

「マネージャーの安住さん」

「なんでさ」

「さぁね。柴田君、水泳部に来ないのかなって」

「あの、安住さんって下の名前はなんて・・・」

「安住優紀子。あなたと同じ、一年生よ」

奈津美はそう言ったあと何かに思いついたようにクスクス笑った。

「もしかして」

尚也は顔を赤くして慌てた。

「いや、違いますよ。ただ、見かけない子だなって思って・・・」

「クラスも離れてるし、病気で休み勝ちだからね」

「病気?何の」

「さぁ。でも、真面目でいい子よ」

その後尚也は昨日の激突で首がまだ痛いからと訳をしてなんとかその場をやり過ごした。

奈津美は明日部活に来なかったらまた寮に押しかけると念を押してとりあえず帰った。

尚也はベッドにまた仰向けになり天井を見詰めた。

「安住じゃなかった。たしか、里中。でも・・・」


次回からは少し趣きが変わります。

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