#10 初秋(3)
「さてと、ものは相談なんだが・・・」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないだろ!」
「お前の相談なんてろくな事がないからな」
「うっせぇ」
良介は尚也からペットボトルを奪って一気に飲んだ。
「俺はさ、お前が真剣に辞めたいと思っているなら止める気はないぜ」
「あっそ」
「けどさ、最後に俺のお願い、聞いてくんない?」
「そんな可愛い言い方しても無理だ。気持ち悪いよお前」
良介は取り直して改めて言い直した。
「実はな困っている人がいてさ、俺どうしても助けてあげたいんだ」
尚也は無関心を装って返事もしない。
「二年の石田奈津美って知ってるか?」
「知らん」
「今度水泳部の部長になったんだよ」
「それがどうしたんだ」
「三年生は総体で引退したからさ、今部員が男女合わせて五人しかいないんだよ。そのうち男子は1人しかいない。だからさ・・・」
「だから俺に入れって?」
「そう。話、早いね」
尚也はあまりの馬鹿馬鹿しさに呆れてベッドに横たわった。
「お前やっぱりアホだろ。退学しようとしてる俺が何で部活やんなきゃいけないんだよ」
「秋季大会だけでいいんだ。石田さん、伝統ある水泳部がこのまましりつぼみになっていくのが耐えられないんだよ。先輩たちに申し訳ないって。な、頼むよ」
「頼むも何も部員が五人いるんだから廃部なんかにならないだろう」
「あのな、温水プールがる学校なんて他にあるか?凄い金掛かるらしいぜ。過去の栄光なんかで許されるほど世間は甘くないんだよ。要は実績。でもねぇ、今の部員の実力じゃぁねぇ」
「お前詳しいな」
「なんたったって石田さんが・・」
「その、石田奈津美ってよほどいい女なんだな」
「そりゃ、お前、一度練習してるとこ見てみろよ。あの身体つきにゃぁ、うひひひ・・・」
「そんな事だと思ったよ。俺をだしに使うな」
「ば、ばか言うな、俺は真面目にだな」
「いや、もういい」
尚也は良介に背中を向けた。
「そんな事言うなよ、頼むよ」
懇願する良介に向かって手だけで帰れと言った。
「ああそうかい。分かった。お前がそういうつもりなら俺は鬼になるしかないな」
「はいはい。赤鬼でも青鬼でもかってにな」
「おい!尚也!」
「あん?」
「この間貸した金返せ。耳そろえて五千円。今直ぐにだ!」
「ねぇよ。それにいつでもいいって言っただろ」
「うるせぇぇ!早くしろ。それにだな」
良介は押入れを開けて何かを探した。
「おい。あれはどうした」
「なんだよ、あれって」
「あれだよ、あれ!俺のコレクション。エロコレ!」
「ああ、あれは篠原先輩が持って行った」
「なに!篠原って柔道部のか!」
「そうだ」
「ううっ・・・」
良介は五千円より怒りを露わにし尚也に飛び掛った。
「あのむっつり篠原に!どんな使い方されてるか・・・俺の一番のお気に入りが・・・尚也!」
「ど、どうしたんだよ」
「責任とれ!」
「ちょ、ちょっとまて、落ち着け、良介!」
追い出された小春と亜季は廊下に座っていると部屋の中から奇声と転げまわるような騒音が寮内に響いた。
「何やってんのよ、まったく」
小春が立膝をついて顔を埋めた。
「本当に辞めちゃうのかな、柴田君」
「さぁね」
亜季の脳裏に神社で見たあの映像が過ぎった。
(あれはなんだったんだろう。それにあの女の子・・・)
漸く部屋の中が静かになっり、暫くすると良介は満面の笑みを浮かべてドアを開けて出てきた。
「交渉成立」
「え?」
「いやいや、こっちの話」
「で、どうなの?何か分かった?」
「分かったってなにを?」
「あんた馬鹿じゃないの?今まで何してたのよ!」
小春が呆れながら良介に食って掛かった。
「あのな辞める理由なんてどうでもいいだろ」
「どうでも良くない!」
「いやいや、つまりだな、肝心なのは辞めさせなきゃいいんだろ?」
「だからその為に理由を聞きにきたんじゃないんじゃないの!」
その会話を聞いていた亜季も流石に苛々してきた。
「俺ってさ天才かもな。まさに一石二鳥とはこの事だね」
「だから、なんなのよいったい」
良介は思わせぶりに答えを言わなかった。
「明日の放課後、プールに来なよ。面白いものが見れるぜ」