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探し物は何?  作者:
9/22

ピアス発見ですか?

 ある日、セフィリアから返してもらった通信機に一通のメールが届いた。ハリー兄様からだ。何々?


『異界について分かったことがある。セフィリアの今日の仕事は休みにしておいたから、昼になったら城へ来てくれ』


 そのメールを見た私は、すぐにセフィリアの元へ向かう。セフィリアにも同じメールが来ているはずだから、予定とかも聞きたいしね。

 そう思いながら部屋を出ると、ちょうどよくセフィリアがこちらへ歩んで来ているのが見えた。同じことを考えたようだ。

 さて、セフィリアが来てるなら、話は私の部屋のほうがいいよね。そう思い、扉を開いたままで部屋へ戻る。セフィリアは私の考えどおり、部屋へと足を踏み入れた。


「ハリー兄様からメールは来ていた?」

「うん。異界についてでしょ?」


 そう問いかけると、セフィリアは静かに頷く。その後、私は勉強机の椅子に、セフィリアはベッドのそばに置いてある椅子へ腰掛けた。だって、立ちっぱなしで話って疲れるじゃない? ………私が。

 そして、椅子に座って目線を合わせるとすぐに、セフィリアが口を開いた。登城についてだ。


「昼食を摂ってから少ししたら出るからね。メイドたちには言ってあるから、メイドの言うことに従って準備をしてて。いい?」

「うん、分かった」



 そして昼食を摂ると、セフィリアの言っていたとおりメイドさんたちが何をすればいいのか指示を出してくれた。………というか、有無を言わせずにまずは浴室に押し込まれました。

 その後は登城用の服を着て、それからまたちょこちょこと用意をしてもらい、準備は完了した。後はセフィリアを待つだけだね。


「遅くなってゴメンね、行こうか」


 それからさほど経たずにセフィリアも準備が出来たらしく、リビングでユーリさんとお茶をしていた私の元へとやって来る。それから無理やり手を繋がされ、門のところにいた馬車に乗ることになった。


「わざわざ手、繋がなくてよかったんじゃない?」


 私は小さい子供ですか? 幼児ですか? 小学校低学年のお子様ですか? そんな意味を込めてセフィリアをジッと見る。途中で居たたまれなくなったのかセフィリアが目線を外したが、それでもお構い無しにジッと(睨み)続けた。

 ちなみに、セフィリアは馬車が城に着き、下りるまではとにかく目線を外し、沈黙を保ち続けていた。何か言うことはないわけ?

 だが、セフィリアの口から私の望みの言葉が紡がれることはなく、馬車は城に着き、私たちは馬車を下りて城の中に入った。ちなみに、今度は手を繋ぐことはありませんでした。


 そして、しばらく歩いてついた先は執務室だった。今日は王様も交えてお話をする模様。


「セルド兄様、セフィリアです。アサヒも連れて来ました。入ってもよろしいですか?」

「どうぞ」


 開いた扉の隙間から部屋の中を眺める。王様、ハリー兄様、トリス兄様。うん、全員揃ってる。


「やぁ、セフィー、アサヒ、久しぶりだね」

「お久しぶりです、セルド兄様」

「王様、お久しぶりです」



 そして私たちが空いているソファーの席に座ると、ハリー兄様が口を開いた。こうして説明は開始された。


「以前、嘗てのアリステルに人を遣って異界のことを調べていると言っただろう? それで、異界のことを知っている人間が見つかった。その人を今、シルヴァニオンへ呼び寄せている。もうすぐ着くだろう」

「じゃあ、ピアスの場所が分かるんですか!?」

「そうかもしれないね」


 私がハリー兄様の言葉にテンションハイの状態で言うと、ハリー兄様はにっこりと微笑んで私の頭を撫でた。

 これで見つかれば、初代国王のクソボケ幻覚野郎の頼みごとをしっかり果たすことが出来る。そうなれば、私は自由だ。純粋にこの世界を楽しむことが出来るんだ。それはとても幸せだよ。


 それから執務室でみんなでお茶を飲みながら待っていると、部屋の扉がノックされた。開かれた扉の前に立っていたのは兵士さんだった。曰く、異界のことを知っている人がシルヴァニオンに着いたとのこと。


「今は宿で休んでいただいております。あぁ、行くのでしたらハリーロンド閣下、トリス閣下、セフィリア閣下、アサヒ様のみでお願いいたします」

「む? 私が行ってはいけないのか?」

「陛下が行かれるとなると、警護がより必要となり、相手が怯える可能性もあります。ですので、申し訳ありませんが陛下はご遠慮いただきますよう」


 知らせに来た兵士さんの言葉に王様が目に見えてがっかりする。そういうとこ見ると、王様もまだ子供っぽい感じ? まぁ、私よりもよっぽど年上だけどさ。

 でも、兵士さんの言うことも分かるよね。大人数で行くだけでも十分にびっくりするのに、目の前にこの国の王とかいたら、緊張しすぎるよね。

 だから王様、土産話は用意しておくから待っててね。

 私はそう思いつつ、兵士さんの後を追い、その宿へと向かう。ちなみに、トリス兄様も残りました。曰く。


「セルドを一人で残すと、あとからいろいろと言われそうだからな」


 とのこと。それを聞くと、王様が余計子供っぽく見えるんだけど。ま、いっか。

 ………って、それを考えてる間にセフィリアたちがかなり進んでる!! このままじゃ置いていかれる!!

 そう考えながら急いで後を追うのだが、ちょっと、早いよあなたたち。

 セフィリアたちは、城を出る少し前にようやく、私がついてきていないことに気がつき、歩をとめてくれました、頑張って追いつきました。


「………大丈夫? アサヒ」

「疲れた、だけっ、だから……へい、き……」

「無理はしなくていいんだぞ? グラディウス家によって、そのまま休むか?」

「だいじょ、ぶです……からっ!」


 少し休めば体力も回復するだろうから平気です、問題ありません。だから、私だけ置いていこうとしないでください。

 と言うわけで馬車に乗った私は、セフィリアの命令で再び、セフィリアの膝を枕に横にされています。せめて宿に着くまでの間くらいこうやって休んでおけとのこと。疲れただけなのに。

 だが、この二人に反論を返しても無駄なことは分かっているため、大人しくセフィリアの膝を枕に横になっておく。……ねむねむ。



「アサヒ? 寝てる、みたいね。ほら、着いたから起きて」

「んみゃ?」

「宿に着いたから起きて。話を聞きに行こうね」


 んむー、いつの間にか寝ていたようだ。セフィリアの膝、温かくて気持ちよかったしねー、だからかな?

 そう思いつつも、既に馬車を下り始めている兄様たちの後を追い、続いて馬車を降りる。宿の入り口のところには兵士さんが一人立っていた。その兵士さんに、馬に乗った兵士さんはすぐに馬から下りて敬礼した。


「閣下等をお連れいたしました!」

「ご苦労、通常勤務に戻っていい」

「了解しましたっ!」


 兵士さんたちは互いに敬礼しながら言葉を交わす。……敬礼って、かっこいい。

 そして通常勤務に戻っていいといわれた兵士さんは私たちに「失礼します」と一言告げて去っていく。……案内人が宿の前に立っていた兵士さんに代わりましたね。


「あなた、名前と階級は?」


 そんな兵士さんにセフィリアは静かに問う。問われた兵士さんは焦ってセフィリアのほうを向き、敬礼した。そして質問に答える。


「自分は、カール・マクベス中尉ですっ!」

「そう。じゃあ、案内をお願いね、マクベス中尉」


 へー、この兵士さんは中尉なのか。中尉って、確か士官だよね? 士官が確か少尉から始まって、そのすぐ上の階級、だったかな? で、セフィリアの階級が確か大佐だから、結構階級に差があるのかぁ。

 そう思いつつも私は歩を進め、マクベス中尉の案内の下で私たちは位階のことを知っていると言う人のいる部屋の前へとたどり着いた。そして、マクベス中尉は扉をノックする。


「どうぞ」


 中から聞こえたのは結構若い声だった。男の人? いや、女の人……かな? 声だけだと、中性的な感じがしてよく分からない。

 そしてマクベス中尉は、その言葉を聞いて静かに扉を開く。その扉の先にいたのは、セフィリアと同じくらいか、セフィリアよりも少し年上くらいに見える女性だった。


「こんにちは、ハリーロンド閣下にセフィリア閣下?」


 部屋に入るとすぐに、中にいた女性がセフィリアとハリー兄様に挨拶をする、が、私にはない。まぁ、それも当然だ。だって、セフィリアに隠れてるし、その人からは見えない位置にいるし。

 だが、ずっとそのままというわけにはいかなかった。無理やりセフィリアに引きずり出され、横へと移動させられる。

 そんな私を見て、その人は目を見張らせる。いると思わなかったんだよね、気にしないで。だが、その目もすぐに元に戻り、にっこりと微笑みながら私にも挨拶をくれた。


「こんにちは、お嬢ちゃん」

「こ、コンニチハ……」


 私は挨拶を返してすぐに、またセフィリアに隠れる。だって怖いもん。知らない人怖いもん、慣れないと怖いもん。ちなみに、同じような理由でマクベス中尉にも近寄れない。

 そして挨拶をされたセフィリアとハリー兄様も挨拶を返し、部屋の中へと歩を進める。それを見たマクベス中尉は、一礼して去っていった。これでこの部屋は私たちだけか。


 …………うぅ、沈黙が痛い。誰か、何か話してよ。

 そう思っていると、その人がその重苦しい沈黙を破ってくれた。感謝!


「とりあえず、自己紹介をさせていただきます。私の名は、カロライナ・ディ・アリストテレス。あなた方が殺した最後のアリステル王、レイヴンウッド・ド・アリストテレスの姪にあたります」


 彼女の自己紹介で、セフィリアとハリー兄様の表情が一気に複雑なものになった。まぁ、それもそうだよね。彼女の目の前にいるのが、自分たちが彼女の伯父を殺したシルヴァーナの王家の血を引くものなんだから。

 だが、そんな複雑な表情を浮かべている兄様たちに気がついた女性、カロライナさんは、焦って続けた。


「そんな顔をなさらないでください、恨んだりなんてしていません。寧ろ、シルヴァーナの方には感謝しているんです。……私たちじゃ、伯父上を止められませんでしたから」


 彼女は続ける。曰く、彼女の父親は前アリステル王の実弟で、王が即位したばかりの頃は王も弟を疎ましがることなく、偶に助言を頼んだりと仲のいい兄弟だったらしい。

 だが、ある日彼女の父に謀反の疑いがかかった。それから兄弟の関係は一変したらしい。王は弟を殺すことはしなかったものの、一切の助言を聞き入れることをしなくなった。

 そして後、彼女に弟が生まれると王はまた変わった。弟にいわれのない罪を、謀反の疑いをかけて罵声を浴びせ、話を一切聞かずに処刑したのだ。恐らく甥に、彼女の弟に王位を取られることを恐れたが故の行動だろうとほかの臣下たちは言っていたらしい。

 そして後、王はその幼い甥にもいわれのない罪を着せて処刑している。


「幸い、私は女で王位を継ぐことは出来ませんでしたので、殺されることはありませんでした」


 そういう彼女の表情はとても悲しそうだった。でも、それもそうだと思う。だって、無実の罪で父を殺され、幼かった弟まで殺されているのだから。

 父を殺されて、そのときに母も殺されて、後に弟も殺されて自分だけが生き延びた。王への恨みはなかったのだろうか。自分の家族を奪った王、自分から幸せをもぎ取った王。私なら、―――恨む。


「ですから、感謝しているんです。あのまま伯父上が王として玉座に君臨していれば、恐らくアリステルは近いうちに滅びていたでしょう。シルヴァーナには、きれいに国を滅ぼし、民を苦しめないよう尽力していただいたことに、深く、深くお礼申し上げます」


 そういう彼女の目から涙が一筋、流れ落ちた。それはとてもきれいで、宝石のようだった。


 うん、まぁそれはいいとしても、疲れたな。日本にいるときと比べると体力はついてはいるが、まだまだ脆弱。……うん、膝から力が抜ける。


「……あぁ! 席を勧めずに申し訳ありません。こちらのソファーへどうぞ」

「ありがとうございます。アサヒ、大丈夫?」

「ちょっと疲れた、かなぁ。悪いけど、手、貸して?」


 そしてセフィリアに手を借りてソファーへ移動すると、反対隣にハリー兄様が腰掛ける。そして、それと同時に口を開いた。


「自己紹介を頂いたので、こちらもさせていただきます。私はハリーロンド・フォン・シルヴァンテス。前王が弟、レイモンドの子です」

「私はセフィリア・フォン・グラディウス。前王の妹、ユヴェールとグラディウス家当主、フリードリヒの子です」


 ……二人とも、結構細かく自己紹介してるね。私はどうすればいいんだろ。ま、とりあえず。


「アサヒ・ウェルズ・グラディウスです」


 名前だけは言っておく。だって、親の名前とか言っても、この世界じゃ意味ないし?


 そして、それを聞いたカロライナさんはにっこりと微笑み、そして一冊の本を取り出す。うん? 何コレ。


「これは、私が国が滅びる前に城を出る際に、伯父上に持たされた本です」


 彼女はタイトルの書いてあるほうを上にして置いているのだが、私には全然読めない。アリステルの言語なのか、その滅んだ国の言語なのか。分からないが、コレだけは分かる、私には理解できない。


「拝見しても、かまいませんか?」

「どうぞ」


 が、ハリー兄様は読めるのか、カロライナさんから許可をもらい、パラパラと捲り始めた。時折あるページで手が止まり、目がキョロキョロと動き出す。……呼んでるんだ、読めてるんだ、すげぇ。


 そうやってしばらく読み進めていると、目的の内容が見つかったのか、手が完全に止まった。そして、口を開く。


「異界とは魔力を以って作り上げる異世(トコヨ)。現世に於いて魔力を以って作り上げ、魔力を以って異界へと入る。そして壊すときも全て魔力を以って行われる。異界は仮に術者が死んだとしても、別の術者が魔力を以って異界を消さなければ未来永劫その異界は存在し続ける」


 つまり、初代国王のピアスは誰かが作った、且つ、未だ誰も消していない異界にある、ということか。そう思っていると、兄様は続けた。


「尚、異界はそう簡単に見つけることは出来ない。見つけることが出来るのは魔力を持つ者のみ。同様に、異界に入ることが出来るのも魔力を持つ者のみ。魔力無き者は、異界に入ることはおろか、感じることも出来ない。それ故に嘗て我が国は大切なものを他国から守るために異界へと封じた。異界の地は………、これ以上は掠れていて読めないな。だが、大方のことは分かった」


 兄様そう言って本を閉じる。そしてカロライナさんに礼を言い、そして立ち上がって頭を下げた。突然頭を下げられたカロライナさんは焦り、頭を上げるよう言うのだが兄様は頭を上げない。そして、セフィリアもそれに続いて頭を下げた。カロライナさんの焦りが頂点だ。

 さて、私も頭を下げるべきだよね。おかげで、初代国王の探し物が見つかりそうなんだから。そう思い立ち上がるのだが、ふらついた。ので、セフィリアに少し寄りかかり、そして頭を下げた。


「みなさん、頭を上げてください。誇り高きシルヴァーナの王族の方がアリステルの民に軽々しく(こうべ)を垂れないでください」


 カロライナさんは言うが、でもね、私は王族でも何でもないからそれを聞く必要はないよね? あのね、私はね、情報をくれたことに本当に感謝してるんだよ? だから、これだけじゃ足りないんだ。


 そうしていると、いつの間にかセフィリアと兄様は頭を上げたらしく、カロライナさんのターゲットが完全に私になった。ので、そこでやっと頭を上げるのだが、すっごいフラフラする。


「ちょっと、大丈夫?」

「んー、多分、へいきー」


 セフィリアに寄りかかったまま、セフィリアの問いに答える。そんな私の状態を危険だと感じたのか、兄様が口を開く。


「この本をしばらくお借りしてもよろしいでしょうか? できるだけ早めにお返しいたしますので」

「もちろんです。必要でしたら、差し上げますが?」

「いえ、貸していただけるだけで十分です。それと、カロライナ様、あなたはしばらくこのシルヴァニオンに滞在なさいますか? それでしたら、城に部屋を用意させ、国賓としてもてなしますが」


 兄様が言うと、カロライナさんは両手を前に、首を振った。すっごい勢いで遠慮してるねー。酔わないのかな。


「それでも、しばらくはこの街に滞在してくださるのでしょう? その間、城への訪問は歓迎いたしますよ。兵たちには伝えておきますので」

「ありがとうございます」

「では、私たちはこれで失礼します。アサヒ、帰ったら休むんだよ」


 カロライナさんは兄様の言葉に頭を下げ、礼を言う。うん、お礼って大事だねー。そう思っていると、フラフラする意識の中で不意に何かを感じた。よく分からない気配、でも、気持ちが悪いと言うことはない。

 ………あぁ、そっか。この感じ――――

 ――――ズキッ。

 分かると同時に激しい頭痛に襲われる、目の前が闇に染まる。ただでさえふらついていた体は、自分の意思では支えることが出来ず、重力に従って床へと沈んでいく。

 あぁ、全部暗いよ、真っ暗なんだ。そんな思考の中で、私の意識はどんどんと薄れていった。


 *****


「………殺す」


 気を失った私は、目の前にいる男を睨みつけて呟く。目の前にいるのは、いや、いたのはクソボケ幻覚野郎こと、初代国王だ。

 つまり、私はまた呼ばれたと、そういうことですね。しかも今回は頭痛も伴った上で呼ばれたわけだね、ふざけんなし。

 ちなみに、私に危ない台詞を吐かれて睨まれているクソボケ幻覚野郎はそばに置いてある椅子の後ろに隠れている。………そんなに怯えさせたっけ?


「で、今回は一体何の用?」


 呼ぶならもうちょっと優しく呼んでもらえる? 前回はいきなり倒れるし、今回は頭痛に襲われた上で倒れるし。

 んー、あぁ、あなたは私に殺して欲しいんだよね、分かった、殺す。

 まぁ、それは冗談として、いいからとっとと呼んだ理由を言ってもらえます? そう言ってやったら、余計怯えられた。……何で?


 そしてしばらくしてようやく恐怖は消え去ったらしく、初代国王はさっきまで自分が隠れていた椅子に腰掛けた。


「今回読んだのは、教えたいことがあったんじゃ。お前たちが異界のことを知ったからな」

「ならとっとと言って下さい。そしてとっとと帰らせてください」

「異界を見つけるには魔力が必要だと言うことは分かっただろう? 私は、見つけてもらうためにお前を呼んだ。つまりお前には」

「魔力があると言いたいのかな?」

「そうだ」


 分かりやすーい。てか、どうでもいいんだけど、そんなこと。魔力があっても使い方分からなかったら意味ないじゃん?


「だから、その魔力の使い方を教えるために呼んだんだ」


 ………へ? 魔力の使い方? てか、使えるの? まぁ、使えない魔力なんて意味ないよね、うん。

 それから私は、体感時間で一時間ほど、魔力の使い方について初代国王からレクチャーを受けた。


「以前、身を守るための呪文を教えただろう?」

「『ラ・リブラ・ド・シルヴァンス』てやつ?」


 私がその言葉を言った瞬間に、あたりに風が舞った。風が、円を描いて私の周りを囲う。えっと、何が起こってるの? そう思っていると突然その風が消え去った。初代国王が消したらしい。


「迂闊に唱えるな。それだけで言葉は力を得る。お前は、まずはそこから覚えろ」


 面倒くさそうだなー。でも、魔法って言うのは興味を持つよね。小さいときから本とかで魔法の書いてあるのを見るだけで興味持ってたし。

 なので、今回は大人しく魔法について学ぶ。ちなみに、今日は簡単な攻撃魔法をいくつか学びました。ま、使わないことを祈るけどね。

 そして、今日学ぶことを全て教えた初代国王は、最後に言った。


「界の感じ方は人によって違う。が、何か変な感じがしたら攻撃魔法を打ち込んでみろ。異界の入り口があればそこの空間が歪む。……そして、異界に入るときは絶対に我が子孫を連れていけ、いいな」

「………魔力がないと入れないんじゃないっけ?」

「我が子孫にはまだ、僅かながら魔力が残っている。異界を感じること、単身で異界に入ることは出来まいがな」


 つまり、(魔力が強い人間)がいればセフィリアや兄様たちも異界に行けるということか。

 んで、何で兄様たちも連れて行かなくちゃいけないんだろ? ピアスの判定とかのためかな? ま、気にしないでおこうっと。


 *****


 明かりが眩しい。目を開こうとしても、眩しくて反射的にまた目を閉じてしまう。この状態で出来るのは、口で眩しいと訴えるだけだ。

 そうやって訴えると、カーテンが引かれる音が耳に届く。それから目を開くと、眩しすぎるということはなく、しっかりと開くことが出来た。


「アサヒ、大丈夫?」


 気がついたらグラディウス邸の自分の部屋だった。いつの間に戻ってきたのだろう、ベッドの脇にはセフィリアとユーリさんが座っていた。二人とも、心配そうにこちらを見ている。

 私は安心させるためにも一言、大丈夫だと告げて起き上がった。だって、本当に大丈夫だし?


「アサヒったら、うめき声を上げたかと思うと、すぐに気を失って倒れるんだもの。私も兄様も、とっても心配したわ」

「ご心配をおかけしました………」


 くそう、あのクソボケ幻覚野郎め。私が寝ようとしているときに呼べばいいのに、突然呼ぶからほかの人に余計な心配をかけるんだよ。

 あー、ハリー兄様にも心配をかけたこと、謝らなくちゃ。後で通信機使って連絡入れて謝ろうっと。

 そう思っていると、ユーリさんが口を開いた。


「アサヒ、どうして倒れたのか、分かる?」

「………初代国王陛下に呼ばれた」


 正直に言おうが誤魔化そうがどうせしばらくまたベッドの上生活になることに変わりはないだろう。そう思った私は正直に初代国王に呼ばれたことを話した。すると二人は驚く。目が真ん丸だ。そんな二人に私は初代国王の言ったことを伝える。


「異界について知ったから教えることがある、って言われた」

「何を教えられたの?」

「魔力の使い方」

『!?』


 伝えると質問が返ってきたので正直に答えたのだが、二人はここでまたも驚く。この二人の中では魔力なんてものは既に滅びたものなのだろうから。

 でもね、初代国王は言ってたよ。自分の子孫には僅かだけど魔力が残ってるって。だから、ユーリさんやセフィリアにも少しは魔力があるはずなんだ。まぁ、それを言うとまた驚いて停止しちゃいそうだから言わないけど。


「それと、異界の見つけ方を聞いてきた。変な感じがしたらそこに攻撃魔法を打ち込め、だって。そこに異界があれば空間が歪むらしいよ」

「初代陛下………」


 異界の見つけ方を聞いたとおりに答えると、セフィリアが呆れた声を出す。とりあえず、攻撃魔法を打ち込めだからね。そこに異界がなかったらどうするんだよ、みたいな? セフィリアも恐らくそれは考えているだろう。


 その後も私は初代国王に呼ばれたときのことを話していった。もちろん、聞いた呪文は唱えない。唱えた瞬間に言葉は力を持ち、効力を発揮するから。

 そうやって大体を話し終えると、ユーリさんはメイドさんを呼んで飲み物の準備を頼む。たくさん話して喉が渇いたからちょうどいいや。


「さ、話がこれで全部なら少し休んでなさいね」

「もう大丈夫だよ?」

「倒れる前もフラフラしてたんでしょう? 休んでなさい」


 そしてその後、二人からこうして攻め込まれ、私は再び目を瞑り、寝入ることになった。が、当然ながらそう簡単には眠らない。

 私は二人が部屋を出て行くのを待ち、二人が部屋を出ると同時にごそごそと通信機を漁る。……あれ?


「また没収されたぁ……」


 ハリー兄様に心配をかけたことを謝りたかったのに、肝心の連絡道具である通信機がまたもや没収されているようだ。……今回は熱出したりしてないのに。

 通信機が無い以上、兄様に連絡を入れることは出来ない。仕方が無い、後から返してもらったときに連絡をいれよう。

 そう思いながら、私は再び眠りの世界へと落ちていった。


 それからどのくらい時が流れたのか。部屋の扉の開く音が耳に届き、その音で私は目を開いた。



「おや、起こしてしまったようだな、すまない」

「おかえりなさい、フリードさん」

「ただいま。倒れたとユーリに聞いたのだが、大丈夫かい?」

「だいじょーぶですよー」


 自分が来たことによって私の目が覚めたのかと勘違いしたらしいフリードさんは、まずは謝罪の言葉を零す。が、私は完全に無視しておかえりなさいと声をかけた。

 それからは、大丈夫だということとセフィリアたちに話したことと同じことをフリードさんにも話す。が、驚いたあとに平静に戻る速度はフリードさんのほうが速いか。


 私たちがそうやっていると、メイドさんが夕飯の支度が整ったと呼びに来る。


「アサヒ様はお食事はこの部屋で摂られますか? それともリビングで……」

「リビングで食べます」


 メイドさんはフリードさんに食事の支度を知らせ、それから私を見て問いかける。もちろんリビングで食べるに決まってるじゃありませんか、元気なんだから。私が答えるとフリードさんはまた心配そうな顔で私を見たが、私がニッコリと微笑むと大丈夫だと感じたのか表情を元に戻した。

 それから私はフリードさん、メイドさんと一緒にリビングへ向かう。リビングには既にユーリさんとセフィリアが椅子に座って待っていた。私が来たのを見て立ち上がり、声を上げる。


「アサヒ、部屋で食べなくても大丈夫なの? 無理してない?」

「今からでも部屋に用意できるんだからね? 無理はダメよ?」

「お部屋にお持ちしますか?」

「いいです大丈夫です問題ありません」


 セフィリアやユーリさんがとことん私を心配するから、メイドさんたちまで過保護になり始めたじゃないか。大丈夫だって、言ってるでしょ? 少しは信用してよ。

 私が何度大丈夫という言葉を紡げば、あなたたちは安心してくれるのでしょう? 本当に大丈夫だから、ね?


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