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探し物は何?  作者:
8/22

雪は美味しいの?

 それから数日後、再び雪は降り、そして今回はしっかりと積もった、万歳!! これでやっと雪が食べられる。

 私はその日の朝、雪が積もっているのを確認して外に出た。うわぁい、雪だ雪だ、真っ白だ! そう思いつつ、誰も踏んでいない、きれいな雪を探す。

 そうしていると、セフィリアがテクテクと近寄って来た。部屋着のまま出てきたらしく、寒そうだ。


「雪を食べるのはもう少し待ちなさい」


 そしてセフィリアは、近寄ってきて私の腕を掴み、そのまま家の中へと引き摺っていく。くう、何故だ。私が雪を食べたがっているのを一番よく知っているのはセフィリアのくせに!!

 そう思いつつ、セフィリアを睨むように見ていると、セフィリアはきっちりと説明をくれた。


「今、侍医が腹痛用の薬を準備してるからね。準備が出来たら食べていいから」


 なるほろ。ってかさ、別に薬の準備とか必要ないと思うんだけど。………タブンネー。

 そしてしばらくセフィリアと一緒に待っていると、侍医が薬を持ってやってきた。セフィリアがその薬を受け取り、私に手渡す。

 よし! 雪食べに行く!! 私はメイドさんからサラを受け取り、外に出る。そしてきれいな雪を探して皿に持って家の中に戻った。よっし、食べるぞー! 盛ってきた雪に砂糖水をかけて、っと。

 うん、甘い! 甘くて美味しい!! カキ氷のようだけど、カキ氷よりも細かくてふわふわしてて、すっごい美味しい。セフィリアも食べてみればいいのに。


「美味しい?」


 そうやって食べていると、ユーリさんがニコニコと微笑みながら隣に座り、問いかけてくる。その質問に私は笑顔で頷く。だって、返事を返す時間すら惜しい、その間に溶けちゃうもん。

 はぐはぐはぐ。大量に盛っていた雪を休憩を挟むことなく延々と食べ続ける。だって美味しいもん。

 結果的には、盛ってきた雪は全てすっからかん。全ては私の胃の中さ。



 が、それからしばらくして、恐れていた事態が起こった。うん、お腹痛いの。ずきずきするの。くそう、侍医にもらった薬はどこに置いたんだっけ。

 痛い。痛いよ。腹痛なんて、ホントいつ以来だろう。日本では一度腹痛を起こしてからはそれ以来、食事にも徹底的に気を使われたらしくて、それから腹痛を起こすことは無かった。

 うん、お腹が痛いのも久しぶりだよ。それ以前に、痛み自体が久しぶりだよ。兄様に首を切られて以来かな、この痛いのは。

 てか、本当に薬、どこに置いたんだっけ? うぅ、薬と水が欲しいよ……、痛いよ……。だから。


「アサヒ、薬を置き忘れていましたよ」

「ユーリさん!!」


 ナイスタイミングです、ユーリさん! 私が痛みに苦しんでいると、ユーリさんがリビングに置き忘れていたらしい薬を持ってきてくれた。

 喜んで薬を受け取り、そのままメイドさんに水を持ってきてくれるよう頼む。メイドさんはすぐに水を持ってきてくれたので、そのまま薬を飲み込んだ。


「ふふ、やっぱりお腹を壊したのね。セフィリアにも伝えなくちゃ」


 そうやって薬を飲む私を見ながら、ユーリさんはニコニコ微笑みながら告げる。いやいや、セフィリアには言わないでよ。笑われるから。てか、セフィリアに言ったら絶対に兄様や王様たちにも伝わるからやめて。

 だから、お願いユーリさん、セフィリアには言わないで。……てか、薬がなくなってる時点でバレるか。残念。

 でも、他人にバラされるよりは自分で言うほうがマシだよ。まぁ、セフィリアが嫌な笑みを浮かべながらいろいろ言ってきそうだけどさ。


「さ、お昼までは自分の部屋で休んでなさい。お腹を冷やさないようにね」


 そしてその後、私はユーリさんにそう命じられ、自分の部屋に戻ってベッドに横たわる。その状態で通信機を見ると、メールが来ているのが分かる。誰からだ。


『今日は雪が降ったから授業はお休み。たくさん遊ぶといいよ』


 メールは兄様からだった。うん、ありがとう兄様。いっぱい遊ぶね。お腹痛いのが治ったら目一杯遊ぶ!!

 だから、早くこのお腹が痛いの善くならないかな。お腹痛いの治ったら、絶対にすぐに遊びに行くんだから、雪だるま作るんだから。

 だから、ユーリさん? 外に行くなっていわないでね、絶対に行くからね。何があっても絶対に外に言って遊ぶから。日本で出来なかったことを、この世界ではやってみたいから。


 それから昼食前にメイドさんに起こされ、普通に昼食を取った後、私は外に出た。昼食を普通に取ったからか、ユーリさんから制止の声はかからず、ただ、風邪を引かないようしっかり着て遊ぶように、くらいのことしか言われなかった。

 だから、きっちりとコートを着込み、マフラーをし、手袋、毛糸の帽子を装着して外に出た。うん、寒い。

 でも、やっぱり楽しい! 幸せ!!


「ただいま、アサヒ。雪を食べて、お腹は壊さなかった?」


 そうやって遊んでいると、セフィリアが仕事を終えて帰ってきた。もうそんな時間なのか。そして、帰って来たセフィリアは、すぐに雪を食べた結果を尋ねてくる。……が、沈黙を保ちます。わざわざ私から言うことじゃないよね、うん。

 だが、その沈黙で私がお腹を壊したことはあっさりと分かったようだ。まぁ当たり前か。沈黙は肯定と同義なのだから。


「やっぱりお腹壊したのね。ならまだあまりお腹は冷やさないほうがいいわ。家に戻りましょ。これ以上いたら、風邪も引いちゃいそうだし」

「はぁい」


 確かに、気温もさらに下がり寒くなっている今、これ以上遊んでいると本気で熱を出してしまいそうだ。

 そう思いながらセフィリアと一緒に家に入ると、私はメイドさんに手を引かれてそのまま浴室へと連行された。お風呂でしっかりと温まってこいと、そういうことらしい。でもまぁ、体が冷え切ってるから喜んで入らせてもらおうっと。


 そしてお風呂でほかほかに温まってリビングへ向かうと、メイドさんがココアのようなものを用意してくれていた。まぁ、名前はココアじゃないんだけど、私の中ではココアなのでココアと呼んでいる。正式名称は、サルミナ、だったかな? 記憶が曖昧。

 とりあえず、味はココアなんだよ! ココアなの!! だからココアでいいはず。てか、メイドさんたちもココアで分かってくれてるしね。

 そうやってココアを飲んでいると、ユーリさんとセフィリアの笑い声が耳に届いた。何だかすっごく嫌な予感。


「あははっ。アサヒの腹痛の原因は、雪というよりは食べすぎだったんですか」

「アサヒったら山のように食べるんだもの。あれだけ食べればお腹も壊しますよ」


 ……やっぱり私の話か。ユーリさん、お願いですからやめてください。セフィリアが本気で楽しそうにしています、私にはその笑みは本気で敵です。悪の微笑みです。

 でも、ユーリさんは話を止めてくれない。セフィリアの笑みがどんどんと恐ろしさを増している。……後からどうなるかなぁ。考えるのも怖いので、部屋に逃げることにした。どうせ、夕飯までは時間もあるしね。


 そして翌日。この日も雪は降り続け、まだ積もったままだった。だからか、今日も授業は休みだと、兄様から連絡が入っていた。


「アサヒ、今日も雪を食べるなら、食べ過ぎないようにね」


 そしてそのメールを見たあとにリビングへ行くと、セフィリアからそのようなことあを頂く。でも、もう今日は食べるつもりは無いです、食べても少量です。

 今日は、日本でお兄ちゃんたちが作ってくれた雪兎の作成に挑戦するつもりなのだ。昨日も試しに作っては見たのだが、まったく兎に見えないものが完成してしまった。だから、今日はリベンジの予定。


「さて、今日は私も休みもらったし、アサヒと一緒に遊ぼうかな」

「え?」


 そうしていると、朝食を食べ終えたセフィリアがのんびりと告げる。今日はセフィリアも休みなのか。なら、一緒に雪兎を作ろう、手伝ってもらおう、やった!!

 自然と笑みがこぼれる。だって、一人遊びって寂しいじゃない? 一緒に遊んでくれる人がいるのは嬉しいよ。


「アサヒ、嬉しそうね」

「うん、すっごい嬉しい!!」


 ユーリさんの問いに、私は笑顔で答える。だって、本当に嬉しいんだよ、遊ぶ相手がいるということが、本当に嬉しいんだ。だって、一人遊びだと日本にいたときと変わらないじゃない? 私は日本とは違う生活がしたいんだ。

 そして、その私の笑顔の回答を見たセフィリアは、笑みを深める。


「そこまで喜んでもらえると嬉しいな。ところで、今日は何をして遊ぶ予定なの?」

「雪兎作り!!」

「雪兎? それは、何なの?」


 あれ? この世界ではそういうのは無いのか?


「雪で兎の形を作ったものなんだけど」


 私が言うと、セフィリアのみならず、ユーリさんやフリードさんまでなるほど、という顔をする。本当にこっちの世界にそういうものは無いんだなぁ。

 ……雪だるまはどうなるだろう。確か雪だるまは昨日作っておいておいたはずだが。今日も寒いから、まだ溶けていないと思う。


 そして午前中はユーリさんの反対の元、家の中で過ごし、昼食を食べてから防寒対策をしっかりとして、私はセフィリアと外に出た。うん、寒いー!


「で、その雪兎って言うのはどうやって作るの?」


 外に出るとさっそくセフィリアが問うて来るが、私も知るわけ無いでしょ。だって、日本では雪が降ったら絶対に外に出られなかったんだよ? そんな私が作り方を知っているとでも?

 うん、だからね、一緒にガンバろ。試行錯誤して、自分たちで道を切り開こう。


 そう言って、私はセフィリアと共に雪兎を作りだした。昨日は渡し一人だったから案がまともに出ずに変な形しか出来なかったけど、今日はセフィリアもいるから違う案も出るだろう。

 そうして頑張った結果、まぁ若干いびつだが、それでも雪兎なるものを完成させた。ちなみに、兎はこの世界にもいるらしく、形がどういうものかと聞かれることはなかったよ。

 そして、その出来たものをユーリさんに見せた結果。


「可愛らしいものができたわね」


 そんな内容の感想が来るのならば、出来栄えは上々だろう。そして、私はセフィリアと共に雪兎を気温の低い場所へと置きに向かい、そのままその足で浴室へと向かう。ずっと外で作ってたから、体が冷えてるんだ。


「別々に入るのも用意が面倒だから、一緒に入ろうね」


 今回はそういわれても反論はしない。私もそう思うしね、大変そうだしね。

 その後、お風呂から上がってユーリさんの待つリビングへ行くと、メイドさんがセフィリアにはコーヒーを、私にはココアを用意して待ってくれていた。ちなみに、コーヒーはこちらの世界でもコーヒーらしい。まぁ、中身も一緒なのかは判断できないけどさ。


 そうやって体の芯から温まった温まった私たちは、それから夕飯までずっとリビングで話をし続けた。雪兎のこと、雪だるまのこと、フリードさんが帰ってきたからはフリードさんも話に加わる。


「これが雪兎か。確かに、兎に見えるな」

「日本では雪が積もったら、よくお兄ちゃんたちが作ってくれたんです」

「優しいお兄さんたちだったのね」

「はい!!」


 フリードさんは私たちの作った雪兎を見て、感心して声を上げた。それに私は日本のお兄ちゃんたちの話をし、その話をするとユーリさんがお兄ちゃんたちを褒めてくれた。お兄ちゃんたちが褒められるのは嬉しい。だって、お兄ちゃんたち代好きだし。お兄ちゃんたちがシスコンであるように、私もブラコン、シスコンだから。



「さ、昨日今日とたくさん遊んで疲れただろうから、今日はゆっくり休むんだよ」


 そして、この日はフリードさんやユーリさん、セフィリアに揃ってそう言われ、大人しく普段よりも格段と早い時間にベッドに入った。確かに二日も連続で雪で遊んでいるから疲れてるんだ。それに。、今日はいっぱい喋ったからか、それも含めて疲れてるんだ。だから、おやすみー。


 そして雪が大体溶けた翌日、朝から通信機を見ると、兄様からメールが来ていた。曰く、今日は授業するので逃げないように、とのこと。うん、逃げないよ多分。ホントは逃げたいけど、このメールは恐らくセフィリアにも行っているので、逃げたら後が怖い。だから、逃げないよ?

 そうやって考えていると、嫌な時間というものはすぐに訪れるらしい。兄様が授業のためにやってきた。

 そんな兄様に、まずは昨日作った雪兎を見せる。どういう反応を見せるのか気になっていたのだ。


「おや、可愛らしいものを作ったね。それは兎かな?」

「うん、セフィリアと一緒に作ったんだよ」

「そうかそうか」


 雪兎を見せると、兄様はにっこりと微笑みながら頭を撫で、褒めてくれた。気持ちいいです。

 その後、一通り撫でオア割ると、兄様はメイドさんを呼んで雪兎を冷暗所へ持って行くよう告げる。……授業開始ですね。


 そして今日は、この間の古文書の復刻版を使って国語の勉強と歴史の勉強を同時に進めていったのだが……………疲れた。


「アサヒ、大丈夫か?」

「頭、煮えそう……」


 昨日一昨日の授業が無かったためか、今日の授業のスピードはいつもより早く、そのためか、頭の中で整理が出来ない、ついていけない。結果、頭の中が沸騰してしまいそう、煮え滾ってるよ。………死ぬ。

 そんな私の回答を聞いた兄様は私の額に手を当てる。兄様の手、ひんやりして気持ちよすぎるー。


「今日はここでやめておこうか」

「はーい」


 わーい。

 兄様はそう言って教科書を閉じ、メイドさんを呼ぶ。いつもはそのまま部屋を出るのに、どうしたんだろう。お茶でも頼むつもりなのかな?

 そして兄様は小走りでやってきたメイドさんに体温計を持ってくるよう言う。そして私はベッドに横になるよう命じられる。……え? 何で?

 そして体温計を持ってくるように言われたメイドさんは先ほどと同じように小走りで体温計を兄様に手渡し、それを受け取った兄様は私に口を開くよう言うと、すぐに私の口に体温計を突っ込んだ。


「しばらく大人しくしているんだよ」


 兄様は私の口に体温計を入れるとそのまま時計へと目を向ける。しかし、どうしていきなり体温計が出てきたんだろう。熱は無いと思うんだけどねー、元気だし。

 でも、今の兄様には逆らえない雰囲気なので、大人しくしていることにした。そしてしばらくすると体温計は抜き取られる。さて、どーだったんだろ。大丈夫だとは思うけど。


「やっぱり熱が出てたか」

「うえ!?」

「ほら、見てごらん?」


 兄様は体温計を見て小さく呟く。そしてその後、その体温計を私にも見せてくれた。うん、しっかり上がってらー。知恵熱かぁ。それにしても、知恵熱でここまで熱を出すとは思わなかったなぁ。

 ………って、あれ? ちょっと待って。熱が出たってことは、またベッドの上生活!? それは嫌だよ、絶対に嫌! でも、これだと絶対、絶対にセフィリアやユーリさんにベッドの上生活を厳命される、間違いなく、される。……最後の手段は。


「兄様、ユーリさんたちには黙ってて?」

「残念だが、無理だね。もう、この屋敷のメイドが知らせているさ」

「うー、またしばらくベッドの上じゃん。暇だよぉ」

「熱が下がるまでの辛抱だ。ゆっくり休んで、早く元気になりなさい」


 ためしに兄様に甘えるように頼んでみたのだが、無理だった。メイドさん、何故もう伝えてるし。内緒にしててくれればよかったのに。

 私がそう思っていると、兄様は毛布をとり、私にかける。そして私の頭を一撫でして帰っていった。そして、そんな兄様が帰るのを見送ったらしいユーリさんが部屋に入って来、ベッドそばの椅子に腰掛け、口を開く。


「アサヒ、熱を出したんですってね。大丈夫? さっき侍医を呼んだから、ちゃんと診てもらいなさいね」

「大丈夫です、呼ばなくていいです、遠慮します」


 一切問題はありません、知恵熱だからすぐに下がります。それに、日本にいるときと比べるとかなり調子はいいんです。だから、医者は要りません。

 だが、ユーリさんは先ほど"呼んだ"と言った、過去形だ。つまり、もうすぐ来るということですね、最悪過ぎる。


 そしてしばらくして、ユーリさんの言ったとおり侍医がメイドさんに連れられてやってきた。……大丈夫だって何回も言ってるのに。

 その大丈夫だと言う言葉も信じられぬまま診察は続き、医者は薬を置いて去っていった。今回はそばに付いておく、などとは言われなかったので心底安心したのは内緒である。


「さ、後はゆっくり休んでなさいね」


 その後、ユーリさんにそう命じられ、渋々ながら毛布をきっちりと着込み、目を瞑る。熱があるからか、目を瞑るとあっさりと睡魔の来襲を感じた。あぁ、眠い。逆らうことなく、眠りに落ちた。


 それからどのくらい眠っていたのだろうか。そばに人のいる気配を感じて目を覚ました。うーん、誰なんだろう。ユーリさんかな? セフィリアかな? それともメイドさん? この疑問の答えが出るままにゆっくりと目を開く。そこにいたのは予想外の人物だった。


「おはよう、アサヒ。具合はどうだい?」


 まさかのまさかでフリードさんだったのだ。フリードさんは候補にも挙がっていなかった。


「私がここにいることが、そんなに意外かな? 目がまん丸になっているよ」


 うん、とっても意外です。ていうか、もう仕事は終わったんですか? もうそんな時間なんですか? そう思いつつ、ゆっくりとベッドから起き上がる。


「こら、無理はいけない。まだ横になっていなさい」


 のだが、それはフリードさんに制された。くそう、熱がある状態は力が出ないから抵抗できない。


「ちょっと、トイレに行きたいんです。だから、ね?」


 その制止する手をどけて欲しいなぁ? そんな目でフリードさんを見ると、フリードさんはその手を私の背中に回し、起き上がるための補助に徹してくれた。ありがとう、フリードさん。

 それからは歩くだけでフラフラする体をフリードさんに支えてもらいながらトイレへ行き、戻るときもフリードさんの手を借りて戻ってきた。疲れた。


「……アサヒ、本当に大丈夫なのかな? 随分と辛そうなんだが」

「確かに辛いと言えば辛いですけど、大丈夫ですよ、知恵熱ですし」


 こういうのは寝てれば治るんですから、ね? だから、出ていってくれると嬉しいですね。若しくは気配を消してください。人がいる気配を感じると眠れないんだよ、気になって。

 そう思いつつも、その言葉を口に出さず、心配をかけないように目を瞑った。目を瞑ってしばらくすると足音が遠ざかる音が聞こえ、そばにあった気配もなくなる。フリードさんが部屋を出たのだろう。さて、ならば寝るか。


 またそれからどのくらい眠ったのか。時間の感覚も曖昧な中、今度はセフィリアとメイドさんに起こされた。


「アサヒ様、起きてください」

「アサヒ、夕飯の時間だから起きてね」

「んむー」

「おはよう、アサヒ。はい、お口開けて」


 私が起きたのを確認すると、メイドさんは夕飯の支度をはじめ、セフィリアは私の口元へと体温計を運ぶ。指示通り口を開くと、その隙間から体温計の侵入を感じた。

 うー、眠いー。熱を測ってる間は動くことも喋ることもできないから暇だよ。それゆえに、激しい睡魔がまたも襲いかかる。寝てもいいかな? でも、メイドさんが夕飯の支度をしてくれてるってことは、寝たらダメだよね。でも、眠いな。

 うとうとうとうと。また寝かけているときに、ようやくセフィリアが私の口に入る体温計を取ってくれた。何度?


「三十七度五分。もう少しだね」

「ホント!?」

「本当。ほら、ご飯食べて、薬飲まなくちゃ」

「食欲はおありですか?」

「……フツーかな」


 熱が下がるまでもう少し、か。兄様が帰ったあとにぐっすり寝たのがよかったのかな? まぁ、時間的には結構短時間だとは思うけど。

 そして夕飯の支度が大体済んだのか、メイドさんに食欲に関して問われた。が、よく分からないので一応普通だと答えておいた。


「いつもより少々少なめに用意していますが、おかわりもありますので、食べたらなかったら仰られてくださいね」


 そう言って渡されたものは消化のよさそうな具の入ったスープだった。その具も噛まずに飲み込んでも何の問題もなさそうなもの。……固形物が食べたいです。


「熱が完全に下がるか、お医者様がいいと仰られたらかまいませんよ」


 ためしにメイドさんに訴えると、そういう答えが帰って来た。つまり、固形物を食べられるのは熱が下がった軒か、医者がいいと言ったとき、と。つまり熱がある状態で固形物を食べたいのなら再度医者に診てもらえということですね、遠慮します。

 そして食事を取った後はしっかりと薬を飲み、再びベッドに横になる。ぐっすり休んで、早く元気になろう。早くいつもの生活に戻ろう。そのために、深く、深く眠った。


 そして翌朝。鳥の鳴き声を目覚ましに私は目を覚ました。うん、よく寝た。軽く体を動かしてみてもダルイということもないし、完治したかな。

 そう思っていると、部屋の扉が開き、メイドさんが顔を見せる。おぉ、驚いてる驚いてる。いつもは私、まだ寝てるしね。


「おはようございます、アサヒ様。調子は如何ですか? 熱を測りますのでお口を開かれてくださいね」

「おはよーございます」


 互いににっこりを微笑みながら挨拶をするとすぐに、メイドさんの手に体温計が現れる。はいはい、測ります、測りますよ。そう思いながら口を開くと、しっかりと体温計が入ってきた。

 で、今朝の結果はどうだったのかな?


「三十六度六分、下がりましたね」

「本当に!?」


 やった、これで昼まで熱が上がらなければベッドからは開放されそうだ。私がそんな喜びに浸っていると、メイドさんはいじめに等しい台詞を吐いてきた。しかも悪気が一切ないのが本気でイジメ。


「朝食を食べ終えたらお医者様を呼びますから、横になって待っていてくださいね」


 本気でイジメだね。医者イラナイ。私元気ダヨ、呼ブ必要ナイヨ。

 そう言っても、メイドさんは聞き入れてくれない。大丈夫だって言ってるじゃないか、熱も下がったし。

 だが、今朝の医者を呼ぶと言う話の原因はフリードさんらしい。昨日の私の状態を見てかなり不安になって、朝からまた診てもらおうということになったそうな。恨むぞ、フリードさん。


 そして朝食を食べ終え、薬を飲むとすぐにベッドに横になる。だって、メイドさんがニコニコ微笑みながら横になるように言うし、私が実際に横になるまでその表情のままで見て来るんだよ? あれは逆らえない、怖い。

 そうやって横になっていると、医者までもニコニコと微笑みながら遣ってきた。医者の笑みはなんかむかつく。


「調子はどう? 熱は下がったと聞いたけれど、辛いとか、ない?」

「大丈夫です」


 そのむかつく笑みを浮かべた上体で質問をされると、何故か返事がぶっきらぼうなものになるな。……ま、いっか。実際大丈夫だし。

 その後も多少質問をされたが、私は全てに大丈夫だと答えた。だって、ホント大丈夫なんだよ? 万全なんだよ?

 のに! 何で今日も聴診器が出てくるわけ!?!?


「一応だよ、一応」


 私がそんな目で見ていることに気がついたのか、医者は苦笑しながら言う。そして、聴診器をしまった医者は、私の目を見て言った。


「大丈夫そうではあるけれど、無理は禁物だからね。今日はまだ安静にしていること。それと、平熱でも今日までは薬は飲んでおいてね」

「はぁい」


 このことは、多分ユーリさんたちにも伝わるんだろうなぁ。ってことは、今日もまだベッドの上かぁ。せっかく開放されると思ったのに。

 ……ん? そいや、今日の授業ってどうなるんだろ。休みなのかな? でも、熱下がってるからするのかな? どっちなんだろ。疑問に思い、通信機を取り出す。……否、取り出そうとしたが、昨晩セフィリアに没収されていたことを思い出した。


「通信機を弄って眠らない、と言うことがありそうだから熱がある間は没収」


 と言って没収されました。が、気になって今は完全に眠れそうにない。とりあえず、聞きに行って見よう、んで、通信機を返してもらおう。だって、熱下がったし。

 そう思いつつ部屋を出て、リビングへと足を向けた。その際、ちょっとふらついたのは考えないことにした。


「アサヒ、寝てなきゃダメじゃない」

「部屋に戻って休んでなさい」

「ほら、部屋に戻ろうね。私も一緒に行ってあげるから」


 ……三人して同じようなことを。大体、大丈夫だってば、熱も下がったし。


「今無理をしたらまた熱上がるよ? そうなったら辛いよ? いいの?」


 ま、まぁ確かにそうだけどさ。でも、戻される前にここまで来た目的を果たさなくては。そう思い、私はセフィリアをじっと見つめ、口を開いた。


「セフィリア、通信機、返して?」

「どうして?」

「兄様にメールしたいから」

「何て送りたいの? 代わりに私が送るから、言ってごらん?」


 私がセフィリアにそういうと、セフィリアは不思議そうに尋ねる。そして目的を言うと、代わりに送ると言い出した。

 つまり、まだ返してくれるつもりはないんだね、熱が下がるまでって言ったのに、嘘つき。もう熱下がったのに。

 でも、内容は伝えておくことにした。疑問を抱えたままだと眠れそうにないしね。


「今日の授業、どうなるんだろうなー、と思って」

「それなら昨日のうちに連絡があったわ。今日はお休みですって。さ、これでいいでしょう? 部屋に戻って休もうね」

「うん」


 そうか、昨日のうちに連絡を入れていたのか。早いね、兄様。ま、いっか。

 そして私はセフィリアに背中を押され、時折ふらついては支えてもらいながら部屋に戻った。それからすぐに横になるよう命じられたので、大人しく横になる。だって、逆らうと怖そうだし? それに、横になって目を瞑ると、あっという間に睡魔が襲い掛かってくるんだ。

 これで、お昼過ぎても熱が上がらなければ、ベッドから開放されるかな? そう思いながら、完全に夢の世界へと落ちていった。


 そして、昼食を食べるときに熱を測ってみると、完全に下がっていました。


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