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探し物は何?  作者:
7/22

次はピアス捜索ですか?

「探してたものと違うって」


 それを聞いた二人は止まる。それもそうだろう、せっかく見つけた指輪が探していたものとは違うのだから。

 その指輪は、確かに初代国王であるあのクソボケ幻覚野郎のものだった。だが、探していたものとは違う。ヤツは確かにそう言ったのだ。


 それから少しして我に戻ったセフィリアと兄様は、通信機を取り出した。……ハリー兄様や王様に連絡するのかな? 指輪を確認したこと、探し物はその指輪ではないということを。


「ところで、さっき倒れたのは初代国王陛下に呼ばれたの?」

「多分ねー」


 しばらくして連絡を終えたらしいセフィリアがこちらを向き、問うて来る。大体さ、初代国王陛下が言っていたことを伝えたのだから倒れたのも初代国王関連だということは予想もつくよね?

 私は嘘はつかずに正直に答えた。全てはあそクソボケ幻覚野郎のせいだ、と。まぁ、セフィリアたちの前でクソボケ幻覚野郎という言葉は使わないんだけどね。


「初代国王陛下も、考えて呼んでくださればよいのに……」


 セフィリアはぼやく。が、無駄だって。あの人にそんなこと言っても絶対に無駄。


「アサヒ、本当に大丈夫? 頭が痛いとか、ボーっとするとかって、無い?」

「大丈夫だって。だから、起きていい?」

「だぁめ。まだもうしばらく横になってなさい」


 くぅ、大丈夫なのに! だから、ちょ、初代国王への文句をぼやき続けないで、セフィリア! 怖い、怖いから!!

 そうしていると、兄様の指示でお茶の用意に向かっていた侍女が戻ってくる。お茶! 私も飲む!!


「セフィリア、落ち着け。ほら、お茶。アサヒもお茶の間くらいは起きていていいだろう」

「あ、ありがとうございます、兄様。アサヒ、いきなり起き上がらないで、ゆっくり起きてね」


 まったく、セフィリアは相変わらず過保護だな。そう思いつつ、セフィリアの言うとおりゆっくり起き上がり、兄様からお茶を受け取る。あ、お茶美味しい。


 ちなみに、今日も外に行きたいと思っていたのだが、セフィリアに反対された。


「初代国王陛下に呼ばれたといえど、倒れたんだから安静にしてなさい。無理はダメ」


 うー、初代国王め!! お前がいきなり呼びつけるから外出禁止を喰らったじゃないか! 恨んでやる、畜生!

 ためしにダニエル陛下にも外に出してもらえないか頼んでみたのだが、セフィリア以上の反対が帰って来た。


「何を、馬鹿なことを言っているんだ。君は倒れたんだ、無理はしてはいけない」


 あー! 暇暇暇暇暇! 退屈退屈退屈! ダニエル陛下の言うこともまぁ、分かるんだけどさぁ、でも、体調的には普通なんだもん、仕方ないよ。

 本気で退屈だとぼやきたくなるくらいに暇。暇すぎて死ねるんじゃないかと本気で思える。

 ちなみに、セフィリアと兄様は今、異界の件でダニエル陛下とお話中だ。その間、私はしっかりとベッドに横になっておくよう命じられ、見張りとして連れてきたメイドさんを置いていった。くそう。暇すぎ。


 そして、話し合いから戻ってきたセフィリアに、明日にはシルヴァーナに戻ることを聞かされた。つまり、今日のうちに帰る支度をしろということなのだが、………私の帰りの支度はメイドさんたちの手で行われ、私はお風呂やトイレ、食事以外はベッドから下りることは許されなかった。暇すぎる。


 翌朝、私たちは別れと、お世話になったことに対して礼を述べるために謁見の間に来ていた。あ、さすがにここでは参加を許されました。挨拶もせずに馬車という落ちはなかったです。


「長きに渡り、ご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げ、同時にお礼申し上げます」

「いや、こちらこそ期待に沿えなかったようで、すまなかった」


 私とセフィリアはしっかりと頭を下げたまま、兄様と陛下だけでそうやって言葉を交わす。私たちは頭は上げない。あげるのは、この部屋を出るとき、帰るときだと決まっているから。


「では、私たちはこれで失礼いたします」


 兄様のその言葉が合図となり、セフィリアが頭を上げ、一歩遅れて私も頭を上げ、そして謁見の間を出る。その後は一直線に城から出て、馬車に乗り込んだ。

 そして、その馬車の中ではセフィリアがダニエル陛下と話したことの説明をしてくれた。


「私たちは昨日、ダニエル陛下に異界のことを伺ってみたの。その結果だけど、それを聞いた陛下は古文書を見せてくださったの。そして、その古文書はシルヴァーナにもあるものなの。つまりね、シルヴァーナに戻っても異界のことは調べられる。それを聞いた私たちは、すぐにハリー兄様に連絡を入れたわ。だから、今頃兄様がその古文書を見ているでしょう。きっと、初代国王陛下の探し物も、それで見つかると思うわ」


 それはつまり、異界のヒントはトルストリードのみならず、シルヴァーナにもあると、そういうことか。それでクソボケ幻覚野郎、もとい、初代国王の探し物であるピアスが見つかるといいな。

 初代国王のピアス。初代国王の魔力の込められたピアス。……どうして、ピアスに魔力込めてたんだろうね、あの人。っていうか、この世界に魔力なんてものがあったんだね、……今さらだけどさ。


「魔力? 随分と前の代の陛下にはあったらしいけど、今は殆ど消えちゃってるね」


 今さらと思いつつも、何となく疑問に思ったのでセフィリアに問いかけてみるとそう返って来た。だから、今のこの世界に魔法なんてものが存在していないのか。

 と、そのようなことを私はセフィリアの膝を枕に、横にされた状態で聞かされている。何度大丈夫だといっても聞いてくれない。


「一応ね」


 大丈夫と言葉を綴るたびにセフィリアにはそう返され、起き上がろうとするとすぐに戻される。

 結局、この日は食事などの休憩で馬車を降りるとき以外、宿に着くまでずっと、セフィリアの膝を枕に横にされっぱなしだった。というか、宿についてもご飯やお風呂以外はとことん横になっておくよう命じられた。……最悪過ぎる。


「初代国王陛下に呼ばれたといえど、いきなり倒れたからね。ここで無理をして何かあっても大変だから、大人しくしてなさい」


 えーっ。何で私は悪くないのにこんなにも不自由生活を強いられなきゃいけないわけ? 悪いのは全部初代国王じゃないか、あのクソボケ幻覚野郎じゃないか。ちくしょう、恨んでやる。機会があったら締め上げて、限界まで苦しめてやる。

 そうでもしないとやってられない、横になってばかりじゃ日本にいるときと変わらないんだ。そんなの面白くない。

 ベッドの上での生活なんて、基本、本を読むとかゲームをするくらいしか出来ないし、この世界ではゲームとかもないから面白くなさすぎるんだ。……明日は、普通の生活に戻れればいい、そう願いながら、私は夢の世界へと旅立って行った。


 そして翌日、その願いは叶えられ、私はようやく普通の生活に戻ることが出来た。横になってばかりの生活からようやく開放されたよ、万歳。


「あー、セフィリアは心配性だからなぁ。私たちも怪我をするたびにああやって心配された。ま、セフィリアの言うとおりにしているだけで安心するんだから、されるがままになってやってくれ」


 そして横になってばかり生活から開放されてすぐ、兄様に愚痴ると、そう返って来た。いやいや、大丈夫だからね? 本当に大丈夫なのに、私は無理やりセフィリアに横にされてたんだからね? そんなの認めない!! 本人の意思を無視した心配、反対!!


「横になっているだけでセフィリアも安心するし、アサヒにもたいした負担はかからない。無理難題でもなんでもないんだから問題はないだろう?」


 そのことを兄様に愚痴り続けていたのだが、やはり帰ってくる言葉はセフィリアを味方するもの、おもんねぇ。


 そして、トルストリードに向かうのにかかった日数と同じ日数をかけて、私たちはシルヴァーナの首都、シルヴァニオンに戻ってきた。

 戻るとすぐに私たちは一度屋敷に戻り、一緒に風呂に入って旅の汚れを落として城へと報告に向かう。が、まず、帰ってきてからユーリさんとフリードさんに抱き締められた。

 フリードさんはセフィリアを、ユーリさんは私をぎゅーっと抱き締める。うん、苦しいんだけど、その苦しさも何だか心地よい。


「おかえり、セフィリア、アサヒ。怪我も何もないようで、何よりだ」

「本当ね。無事に帰ってくる日を今か今かと待っていたわ」


 そう言って二人に抱き締められ、そして時間がないという理由を使い、私とセフィリアはこの二人から抜け出して城へと向かっていた。

 そして城の入り口。そこでは兄様が立って待っていた。待たせてしまった、かな?


「お待たせして申し訳ありません、トリス兄様」

「いや、かまわないさ。とりあえず、とっととセルドたちのところに行くか。そこに兄上もおられる」


 兄様とセフィリアはそうして言葉を交わしながら進んでいく。まぁ、スピードは若干抑え目だけどね、そうしないと私が置いていかれるから。


 そうやってしばらく歩いて、私たちは王様とハリー兄様の待つ執務室へとたどり着いた。


「お帰り、セフィー、アサヒ。トリス兄上もお疲れ様でした」

「ただいま戻りました、セルド兄様」


 そうやって王様たちと話していると、外側から執務室の扉が開いた。そこにいたのはハリー兄様だった。その手には分厚い本がある。

 そしてハリー兄様は、その分厚い本を執務室の机の上に置く。その瞬間、ドスっといういい音がしたのは聞かなかったことにしておく。

 その後、兄様はその本のあるページを開く。そこに書かれていたのは国の過去や、ある国との交流の歴史。これはトルストリードで聞いた本とは違う、よね? 国の過去に関する本が他国にあるはずもないしね。

 つまり、この本はトルストリードで聞いたことからハリー兄様が自分で見つけ出したものということか。


「さて、ここを見ろ。アサヒは読めないだろうから私が読んであげよう。セルドたちは自分で読め」


 そう言われて指差された場所を見たのだが、うん、確かに読めない。まったく読めない。言語自体が違うのだろうか。……普通に使う言葉は読めるようにしてくれてたのに、これは読めないのか。

 クソボケ幻覚野郎、どうしてこんな半端にしてくれやがったんだ。

 そう思いつつも、私はゆっくりと話を聞く体勢に入った。さあどうぞ、ハリー兄様。


「じゃあ読むか」


 ハリー兄様はそう言って静かに読み始めた。

 曰く、そこに書かれているのは初代国王の数代後の王様の時代のもので、その数代後の国王はとある国と国交を深めていた。それが、異界を作る技術を持った国だった。初代国王が、クソボケ幻覚野郎が探せといっていた国だ。

 そして、その国にその国交を深めていた国王の娘が輿入れしている。その娘が、そのときに例のピアスを持って行ったらしい。

 つまり、その国について調べればおのずとクソボケ幻覚野郎が探しているピアスが見つかるってことだね。そうだよね!

 それを聞いた私の表情は一気に笑顔になるが、ハリー兄様は違った。私とは間逆でとてもつらそうな表情をする。そして、言った。 

 それはとても残酷な言葉で、私を絶望に追い込むには最強の言葉だった。


「だが、この国は既に滅びている。私たちが生まれる随分前に戦で滅んだらしい」

「え?」


 滅んでいるというのならば、どうしろというの? 異界の技術はどうなっているの? てか、その国があった場所は今どうなっているの? 少しくらい痕跡とか残ってないの? ねぇ、ねぇ!!

 私は兄様たちに必死で食いかかり、尋ねる。コレで見つからないなんて悲しすぎる、辛すぎる。だから。


「以前その国があった土地は、この国だよアサヒ。正確には、嘗てのアリステル王国だ」


 アリステル。私がこの世界に来たばかりの頃に戦をしていた国。嘗てのシルヴァーナやトルストリードの隣国。だから、シルヴァーナだけではなく、トルストリードにも異界の資料があったのか。

 あぁ、ならば。なら、アリステルの王城だった場所に行けば、何か資料が残されているのではないだろうか。

 それが、それだけが今の私の僅かな希望だった。が、それすらも打ち砕かれるものなのか―――


「アリステルの王城にあった書物等は、全てこの城へ運んだ。そして、私は運ばれた書物の全てに目を通したよ。だが、関連したものは見つからなかった。……つまり」

「八方ふさがり、ということですか?」

「認めたくないが、そうだ」


 嘘だ、嘘だ、嘘だ。信じたくない、信じたくない、信じたくない。手がかりがないなんて、見つけられないなんて、信じない、信じられない。

 その状態で、ハリー兄様が静かに口を開いた。


「今、アリステルの民だったものにその国のことを知るものがいないか、調べるよう人を遣っている。うまくいけば情報をつかめるかもしれないから、それまで待て」

「いつの間に……」

「お前が執務に励んでいる間にな」


 ハリー兄様の言葉に王様が驚いている。ハリー兄様、王様に何も言わずに人遣ったの? 国として、それでいいの? ………まぁ、ハリー兄様は王様の従兄だし、それでいいってことにしとこう。

 そして、今日はその調べに遣っている人間から何か連絡が入ったらまた連絡する、ということで話を終えた。


 そしてその後、私たちは馬車に乗って屋敷へ戻る……が、眠い。馬車の揺れが心地よくて睡魔を呼び込んでいる。そのため、私の目はさっきから閉じたり開いたりの連続だ。


「アサヒ、もう少しで家に着くから、それまでは起きていてね。帰ったらいっぱい寝ていいから」

「うん……、頑張る……よ」


 結果、見かねたセフィリアにそうやって声をかけられるのだが、喋ってもまだ眠い。目が覚めない。睡魔の襲来って本当に恐ろしい。

 むー、どうしてこんなに眠いんだろう。疲れてるから? でも、それなら旅の間に起こってもおかしくはないし……。むー?

 ―――あぁ、分かった。そっか、だからか。私は、シルヴァニオンに戻ってきて"安心"しているんだ。

 旅の間は、セフィリアや兄様がいつだってそばにいてくれるからあまり心配はしていなかったが、それでもやっぱり不安だったんだ。知らない場所、知らない街、知らない人、初めての旅が。

 だから、シルヴァニオンに、グラディウス家に戻ってこれて安心しているんだ。だから、こんなに眠たいんだよ。


 そう思いつつ、必死で睡魔に抵抗していると馬車は屋敷にたどり着いた。……待ってたよー眠いよー。


「ほら、部屋に戻って、着替えたらもう寝ようね」

「うん、眠いー」


 その後、あまりにもふらついてまっすぐに歩けない私を見かねたセフィリアに支えてもらいながら部屋に戻り、メイドさんに手伝ってもらいながら着替えた私は、すぐにベッドに突っ伏して眠った。


 そして、もう朝なのだろうか。メイドさんが私を呼ぶ声でぼんやりと意識が浮上し、そして、私の体を揺らすその振動で完全に目が覚めた。ああ、今日もいい天気のようで、太陽の光がとても眩しいよ。


「おはようございます、アサヒ様。それと、お帰りなさいませ」

「……はようございます。それと、ただいま」


 メイドさんに返事を返しながら起き上がる、が、まだ眠たいわー。もっと寝たいわー。

 だが、それはメイドさんが許してくれないだろうと感じた私は、目を覚ますために顔を洗いに洗面所へと向かう。うん、さすが冷水、目が覚める。

 その後、支度をしてリビングへ向かうと、そこでは既に三人がそろい、会話を展開させていた。


「あ、おはようアサヒ。よく眠れた?」

「よっぽど疲れていたようね。お腹空いたでしょう? ほら、食べましょ」

「そうだな。ほら、席に着いて。朝食にしよう」


 その指示の元、私が席に着くと、ユーリさんが思い出したように口を開いた。


「アサヒ、今日はお勉強はお休みですって。疲れているだろうから、ゆっくり休むようにとのことよ」


 ふむ、勉強休み、万歳。ちなみに、セフィリアも同じ理由で休みらしい。つまり今日は。セフィリアと共に、一点を眺める。それはフリードさんだ。


「今日は私だけが仕事だな」


 言いたいことは目だけでも伝わるようだ。それだけでユーリさんは軽く溜め息をつきながら淡く微笑む。

 その後、朝食の支度が整ってやっと朝食となった。みんなでご飯食べるの久しぶり、うちのご飯久しぶり。だからか、食事が本当に美味しく感じられ、いっぱい食べた。いつも以上に食べた。おかげで、お腹いっぱいだよ。


 そして朝食を食べ終えた後、部屋に戻ろうかと思った私が立ち上がる前に、ユーリさんとセフィリアが手を組んだのか、両端に腰掛けてきた。……すっごく嫌な予感がするんだけど。

 そして、私の隣に座ったユーリさんは、まずは私を抱き締めた。そして目線をしっかりと合わせて、言う。


「アサヒ、トルストリードで倒れたそうね。大丈夫なの?」


 ……セフィリア、何でよりによってユーリさんに話すの? くそう、両隣に座ったのはそのためか、私を逃がさないためか。用意周到すぎるだろ。

 逃げたくても逃げられない。しっかりと目線を合わせたユーリさんは、ニコニコと微笑みながら私の返事を待っている。反対隣にいるセフィリアもまた、ニコニコと微笑みながら私を見ている。……敵だ。


「大丈夫ですよ。初代国王陛下に呼ばれただけで、私の調子が悪かったわけじゃないんですから」

「でも……」

「大丈夫ですってば」


 そのあとにセフィリアに嫌になるくらいたっぷりと休まされたし。おかげさまでその間はとにかく暇でした。だって、ベッドから下りようとするだけでセフィリアの目が光るし、ベッドの上ってすることないし。

 てかさ、ベッドの上ってホント日本での生活と変わらないから退屈すぎるんだよ。まぁ、日本は暇つぶしになるものがたくさんあったし、それが普通だったからいいけどさ。

 うん、やっぱり健康が一番だよね。自由に動き回れる健康が一番最高だよね。


 だが、ユーリさんはまだ気になるらしく、心配そうな目で私を見ていた。……うん、逃げようか。逃げたほうが平和。が、逃げようにも逃げ道はしっかりと塞がれていることを忘れていた。さて、どうやって逃げ道を確保するか。


「セフィリア、トイレ行きたいから通して」


 うん、これが一番確実な方法だよね。事実、セフィリアは私の言葉を聞くとすぐに立ち上がって路を作ってくれたし。

 というわけで、その道を通ってせかせかとトイレへ向かう。よし、その後そのまま逃げるか。


「アサヒ、まだ話は終わってないからね? きちんと戻ってくるのよ」


 が、逃げられなかった。先に釘を刺されては逃げるわけには行かない。結果、トイレへ逃げた後、精神をしっかりと落ち着かせてユーリさんたちのところへと戻った。


「アサヒ、本当の本当に大丈夫なの? 強がりは言わなくていいんだからね?」

「大丈夫ですよ。元気ですから」


 日本にいたときならともかく、今は健康体だから何の問題もないですって。ホント、日本にいたときじゃ考えられないくらい調子もいいから大丈夫だって。

 私は頑張ってそこまで説明して、ようやく開放された。が、外出は禁止された。大丈夫って言ってるのに。


「一応よ、一応」


 くそう、さすがは親子だよ。ユーリさんとセフィリアの言うことが完全に同じだよ。大丈夫だと言っているのに、心配だからの一言で休ませる。ホント、やることが親子で一緒だよ。

 仕方がないので、今日はのんびりと部屋で過ごすことにした。いやだって、外に行こうとしたら門のところに立ってる兵士さんたちにも全力で止められるし、その知らせを聞いてきたらしいセフィリアやユーリさんの目が怖いし。うん。

 あーあ、外行きたかったなぁ。ずっとシルヴァニオンにいなかったから、久しぶりに街に顔を出しに行きたかったのに。……おもんない。

 でもま、いっか。明日は絶対お外行く、街に行く。

 というわけで、部屋でのんびりと本を開き、読書に励む。小さい子供用の本なのだが、それが今の私には本気でちょうどいい。年相応の本は、まだ少し難しいんだよね。


 そして翌日。今日はさすがに授業もやるらしい。そしてセフィリアも仕事らしい。兄様はしっかりと教科書を持って授業のために家にやってきた。


「やぁ、アサヒ。旅の疲れは取れたかな?」

「………オカゲサマデ」


 昨日一日は本気で外に出られなかったおかげで、基本、自分の部屋にいるだけだったからしっかりと体力回復してますよ? セフィリアがユーリさんに話をしたおかげで、敵が増えてたんですよ。


「ははっ。叔母上も心配性だからなぁ」


 兄様はそう言って笑うが、私には全然笑い事じゃないよ!! 切実な問題だ、ちくしょう!!

 だが、兄様は私の言うことを笑い事にしかしない。……うん、これ以上は墓穴を掘りかねないからやめよう。とりあえず、とっとと授業開始してください、兄様。


「よしよし、じゃあ授業を始めようか。教科書を開いて」


 そうして授業は開始された。ちなみに、今回の授業は国語らしい。教科書は、以前セフィリアと兄様が予告したとおり、『シルヴァーナの起点』という本の復刻版。これからの国語はしばらくこの本を教科書に学んでいくらしい。


「とりあえず、一通り目を通してごらん?」


 そう言われて、開いたページからパラパラと捲って眺めていく。……全然読めません。クソボケ幻覚野郎、何で読めるようにしてくれなかったんだよ。どうせならこういうのも読めるようにしてくれればよかったのに。

 そう思いつつも、次々に捲っていくのだが、読める文字がほぼない、殆ど読めない。

 私は目を潤ませながら兄様の目をじっと見る。じーっと見る。すると、兄様はページを最初に戻し、説明をしてくれた。


「最初から、少しずつ読んで行こうか」


 兄様はそう言いながら、文字を指でなぞりながら読み始めてくれた。


「シルヴァーナ。それは初代国王陛下シュトッフェルド・フォン・シュバルツェンベルグ・シルヴァンテスがこの地の精霊に請い設立した国。その名から国名はシルヴァーナとし、首都名をシルヴァニオンとした。それ以降シュトッフェルド陛下はこの国を栄えさせるために外交、国政に精を出す」


 うわー、意外と頑張ってたんだね、クソボケ幻覚野郎はさ。途轍もなく意外だけどね、もんのすっごく意外だけどね。

 あのありえないほどにふざけくさっているあのクソボケ幻覚野郎が立派に国王をしていたことに、私は本気で驚きを禁じえない。


 そしてしばらくページを勧めていると、初代国王の肖像画が書かれたページが目に映る。そこに書かれた初代国王は、若い。私の夢に出てくるクソボケ幻覚野郎は随分と年を食っているようだったし。

 そして、その肖像画を見ていて、ふと思う。


「兄様、これが、私たちの探してるピアス?」

「そうだよ。このピアスと指輪以外は、今のところこの国に保管されているから、見たいならセルドに頼んであげよう」


 私が肖像画のピアスを指差しながら言うと、兄様は優しく微笑みながら肯定した。やっぱり、コレが探しているピアスなんだ。コレに、初代国王の魔力が込められているのか。tえか、魔力を取り戻してどうするつもりなんだろうね、あの人。

 そんなことを考えつつも、今日一日をずっと、この古文書の復刻版を教科書に学び続けた。うん、古文書の復刻版って便利だね。国語の勉強にもなるし、歴史の勉強にもなったし。

 まぁ、正直言うと、初代国王のことに興味はないんだけどね。だって、私にとって初代国王は、たいしたヒントも寄越さずに探し物をさせようとするクソ外道だし。


 そして授業が終わった後、私はユーリさんたちの反対を押しのけて外に出ることにした。外は少しずつ暗くなっていたが、久しぶりだからと説得した。ただし、グラディウス家の私兵を連れて行くことが条件になったが。


「おや、久しぶりじゃないか、グラディウスのちっこいお嬢様。トルストリードに行っていたんだって?」

「うん、ただいまー!」

「おかえり。私兵さんがいるから大丈夫だとは思うけど、気をつけて街を回るんだよ」

「うん、ありがとう、またね」


 街に出ると、やっぱりいろいろな人に話しかけられる。最初はそれも怖かったけれど、今は話しかけられるのが寧ろ楽しみになっている。街の人たちも、私が街にいると話しかけてくれるしね。

 というわけで、街をちょろちょろと出歩く。まだ行ったことのない場所もたくさんあるしね。でも、長い時間出歩くことは出来ない。だって、すぐに暗くなるし、ついてきてくれてる私兵さんも帰るよう、丁寧に促してくるし。

 それに、前に一人で出歩いて遅くなったときは通信機にメールも入ってたからね。『まだ帰ってこないの?』とか、『今どこにいるの?』とか。それ以来、私は絶対に暗くなる前に帰ることを心がけている。だって、返事送るの面倒だしさ。


 そして翌日も授業が終わってすぐに街に出た。あ、今日は私兵はいないよ、私一人だけだよ。

 しかし、最近は暗くなるのが早くなったなぁ。中間期から寒期に移り変わろうとしているからだろう、気温も少しずつ下がってきている。


「さて、そろそろ寒期に入るから、アサヒの寒期用の服を買わなくちゃね」


 だからか、ユーリさんは最近、近いうちに服を買いに行こうとしょっちゅう誘ってくれる。それで何度か買いに行っているのだが、まだユーリさんは買い足りない模様。私は十分だと思うだけどね。

 でもまぁ、服を買いに行くと、ユーリさんも楽しそうにしてるからまぁいいかな。

 それに、寒期になれば、寒期になって雪が降れば、私の長年の夢を叶えることが出来る。雪を食べるという夢、これは絶対に叶えてやるんだ。


 そして時は流れて寒期となった。私は寒期が来てからはずっと家の中だ。出たとしても、グラディウス家の土地内。しかも、セフィリアかユーリさん同伴。曰く、風邪を引くからあまり外に出るな、とのこと。うー、外行きたいよー、庭しか出られないとか、日本にいたときと大して変わらないじゃないか。


「街行きたいー! 暇ー!」

「寒いから風邪引いちゃうでしょ。ダーメ」


 そんな言い合いを何度か続けている間にまた時は流れ、気温は下がった。そして、遂に待ちに待った雪が降った。私の念願の雪だ! だが、今回は積もるまでは行かなかった、残念。


「残念だったね」


 雪が降ったその日、私はセフィリアのみならず、ユーリさん、フリードさん、そして兄様からそのような言葉を頂いた。セフィリアが知っているのは分かるんだけど、どうして兄様まで知ってるの?

 ……ねぇセフィリア、兄様にも話したの? まさか、王様たちにも話してないよね? 今度ゆーっくり、話を聞かせてもらおうかな。

 そういう目でじとーっとセフィリアを見ていると、セフィリアは目線を外した。うん、分かりやすいね、疚しいことがあるんだね。無いなら、ジッと見られてても耐えられるはずだもんね? 私がそうだし。

 ついでに、この日通信機を未定見ると、王様とハリー兄様からメールが来ていた。内容は二人とも似通ったもの。


『雪が積もらなくて残念だったね』


 ねぇ、セフィリア? ホントにどこまで話してるの?

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