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探し物は何?  作者:
19/22

やっと探しに行くんだね?

 私を心配してくれる人間が、増えた。日本にいるときに私を心配してくれていたのは家族だけだったが、この世界に来て家族以外にも私を心配してくれる人がいることを知った。家族以外でも本気で他人を心配すると知った。それは、今まで知らなかったこと。日本では知りえなかったこと。それは、嫌なことではなくて嬉しいこと。私は今、世界を知ろうとしている。


「アサヒ、陛下から連絡があったの。城に行きましょう?」


 ある日、私はいきなり部屋にやって来たセフィリアにそう言われる。私の目は真ん丸だろう。私は今机に向かっている。机で本を呼んでいたのだ。そうしている時に突如、セフィリアがやって来た。っていうか、仕事はどうした。


「陛下からお呼びがかかったから早退してきたの。さ、急いで用意をしてお城に行こうね。………クウィン」


 セフィリアが言うと、何処にいたのかクウィンが現れる。そして、メイドさんにいろいろと指示を出していた。


「私はリビングにいるから用意が出来たら知らせてくれる?」

「分かりました、セフィリア様!」


 クウィンが言うと同時にメイドさんが現れる。そして、私を浴室に引っ張り込む。あぁ、まずは風呂に入れと。はいはい、とっとと入りますよ。早く行って早く用事を済ませたいし。

そして風呂を上がると同時にメイドさんは登城用の少し小奇麗な服を私に着せだした。

 それから他にもいろいろとメイドさんの指示通りにやって、漸く用意が完了した。用意が完了したところでクウィンは急いでセフィリアに知らせに行ったらしい。セフィリアが現れた。


「さ、行きましょうか」

「うん」


 セフィリアに言われて外に出ると、既に馬車が待機していた。私たちは馬車に乗り込む。それと同時に馬車は動き出した。さて、今日の王様のお話は一体何だろう。この間の自傷行為のお叱りっていうオチはないよね……。何か怖い。それは顔にも出ていたらしい。


「怒られる訳じゃないから安心なさい」


 馬車の中でセフィリアは私の頭を撫でながら言う。怒られるんじゃないならいいや。怒られないのならばそれでいい。でも、怒られるわけじゃないのなら一体何の用なんだろう。そう思っているうちに馬車は城に着いていた。

城へ着くと真っすぐに執務室へ向かう。何度も向かっているので、私自身ももう道を覚えてしまった。だから、置いていかれても迷うことは無いよ。もう大丈夫!最初は危なかったけど。

そしてしばらく歩いて執務室へと到着した。執務室の前に着くとセフィリアはノックをする。すると、ハリー兄様から「入っておいで」と声がかかった。王様じゃないのか。


「やぁ、アサヒ。元気そうで何よりだ。クウィンはどうだい?」

「はっきり言えば、ウザいです」


 それは本心。かなりウザい。私が自傷行為に走ってしまうまでは、自由な空間であったはずの私の部屋が一切自由などではなくなっていた。それが、本気でウザくてウザくて……………エンドレス。

だから、今の状況は嬉しい。私が自分の部屋にいる間はとにかく自由。クウィンは邪魔しない。異界も行き放題。遊び放題。と、こういう考えは置いておいてっと。


「で、今日は一体どうして呼ばれたんですか?」


 私が問うと、王様はニッコリ笑って「それはトリス兄上も揃ったら話そう。それまでは雑談をしようじゃないか」と言ってはぐらかす。トリス兄様、早く来てください。雑談をすると何処かで墓穴を掘りそうで怖いです。墓穴を掘ると王様たちがニコニコ笑って尋問してきそうなので早く来てください。

私がそう思っている間も王様やセフィリア、ハリー兄様はニコニコと微笑みながら話をしていた。私は話に入らない。入れない。だって、昔の話だから。

そうして三人がにこやかに談笑をしていると、執務室の扉がノックされた。そうして開かれた扉の前にいたのはトリス兄様だった。待ってましたよ。入ってきたトリス兄様はみんなを見てまず謝罪する。それに王様が否定の言葉を出した。そしてその後、本題へと入る。


「すまない、待たせたようだね」

「お気になさらず。さて、揃ったところで本題に入りましょうか」

「今回私たちがアサヒを城に呼んだ理由、それは、初代国王陛下のピアスを探しに行くためだ」


 …………………へ?


「そこまで驚かなくてもいいんじゃないかな?アサヒ」

「目が綺麗に真ん丸になってるよ?」

「確かに、もう十分なくらい異界の情報は集まっているな」

「アサヒもそろそろ大丈夫だろうと叔母上も判断したし」

『だから、異界に探しに行こうか』


 いきなりそんな大事なことを言うなーっ!っていうか、いつの間にユーリさんからオッケーが出たんですか、ハリー兄様。つい最近自傷行為に走っちゃったばかりだって言うのに。っていうか、十分なくらいって、どれだけ情報入手してるんですか、トリス兄様。っていうか、王様。これを聞いて驚かないわけがないでしょう。いきなり言ってくれるから。


「とりあえず、今まで王様たちが得た異界の情報、呈示してもらえますか?」


 私はニッコリと微笑みながら言ってみた。怒ってるけど。限りなく怒ってるけど。でも、表情だけは笑顔で言ってやった。そうするとみんなが驚いた顔をする。セフィリアに関しては少し怯えているような気がする。やだなぁ、セフィリア。私よりは本気で怒ってるセフィリアの方がよっぽど怖いよ。

そして、私がそう言うと、ハリー兄様が何かを取りに行く。おそらく、今まで調べた異界の情報だろう。しばらくしてハリー兄様が戻ってくると、手には大量の書物があった。まさか、それ、全部が異界に関するものですか?


「これが私たちの調べた異界についてのことだ。全部見るには時間がかかりすぎるから要約して話してあげよう」


 お願いします。全部見るのは無理です。疲れます。死にます。そう言うと、兄様たちはクスクスと笑って要約して話を始めてくれた。


「まず、初代国王陛下のピアスがあるであろう異界の場所、つまり彼の国の城があった場所は、ここだ」


 兄様はそう言って地図の一点をさした。現・シルヴァーナであり、旧・アリステル。その中でもトルストリードに近い場所を兄様は指差す。其処が、嘗て彼の国が城を築いていた土地。初代国王のピアスのある異界が形成された地。そこに、私たちの探し物がある。


「見ての通り、この地は遠い。だから、近日中に私以外、皆にその地に向かってもらう」

「王様行かないの?」

「ああ。私には執務がある。国を守らなければならない。が、水鏡で様子は見れるから、嫌ではない」


 王様は表情を変えることなく自分は行かないと言い切った。こうやって集まるくらいだから此処にいる人間全員で行くと思ったのに、意外だ。しかも、王様はそれを苦とは思っていないらしい。確かに水鏡で様子は見れるけどさ、見るだけでしょう?それって面白くもなんともないんじゃないの?

っていうか、王様が来ないって思うと何かサミシイな。まぁ、王様は確かに城にいてもらわないと困るけどさ。困るんだけどさ。今まで協力してくれてたんだから最後くらいは一緒に来て一緒に探してくれるのかと………。そして、それはやはり表情に出ていたらしい。


「アサヒ、そんな顔をしてくれるな。私も行きたくなるじゃないか」

「………顔に、出てました?」

「思い切りね。アサヒは思ったことが表情に出やすいタイプらしい」


 王様はそう言ってニコニコと笑う。……恥ずかしい。顔に出やすいということは大体予想はしていたが、人に突っ込まれるとものすごく恥ずかしい。ヤバイ、顔が熱い。何かヤバイ。

そんな私を王様以下大人四名はニコニコと微笑みながら眺めていた。いやいや、見るの止めてよ。余計恥ずかしい。っていうか、穴があったら入りたい。いや、寧ろ穴なくていいからスコップをください。掘っちゃうから。それでも大人四人は私から目を外してはくれなかった。結論、逃走。


「ちょっと、頭冷やしてきます!!」


 そんな私を四人はニコニコと微笑みながら送り出した。逃げた私は城のメイドさんに案内してもらいながら外へ出られる場所へと向かう。風を受けて頭を冷やしたかったからだ。メイドさんは「お戻りになる時はまた声をおかけください」と言って去って行った。

外に出ると少し冷たい風が頬を撫ぜる。火照った顔は少しずつ元の状態へと戻ろうとしていた。それからしばらくすると、漸く大体頭が冷えたような感じになる。そう思ったので私はメイドさんを呼んで再び執務室へ案内をしてもらった。


「頭は冷えたかな?」


 執務室へ着くと王様が淡く微笑みながら問うてくる。王様とセフィリアは既に吹き出していた。失礼だな。この比較的若者共め。吹き出すな、笑うな。失礼すぎだ。その中でハリー兄様だけは少し微笑む程度で王様たちみたいに吹き出したりはしなかった。兄様たち、好き。


「すまない。じゃあ、話を続けようか」


 王様は笑うのを堪えながら言う。何かきっかけさえあれば絶対に吹き出すぞ、これ。セフィリアも同様だ。私が頭を冷やしている間に何があった。失礼なことを話していたんじゃないだろうな。そうならキレるよ。原子爆弾投下させるよ。

ちなみに、本気ですから。本気で投下させるから。この世界に原子爆弾っていうものは存在しているのかな?放射線被害って言うものを知っているのかな?知らないなら、私は恐ろしい犯罪者になるからね。グラディウスの名を使ってもどうしようもないほどの、大量殺人者になるよ。試しにそう言ってやったら黙り込んだ。あー、やっと静かになった。よかったよかった。


「ま、まぁ、アサヒのその話は置いておくとして、とりあえず、近日中に兄上たちはその異界のある場所へ向かってください」

「分かった。アサヒも、セフィリアもいいな?叔母上たちにも話をしておいてくれ」

「分かりました」


 セフィリアがそうやって返事をして、今日はお終いとなった。…………とここで、疑問が一つ。


「クウィンはどうなるんですか?」


 そう。クウィンセル・ウィンスロット。私の護衛だとかほざいているあの少年はどうなるのだろうか。魔力が無いから、異界には入ることはできない。が、一応名目上は私の護衛。気になったので私は王様に尋ねる。するとあっさりとした答えが返ってきた。


「もちろん連れていくさ。彼は珍しく魔力がある。異界でもアサヒを守ってくれるだろう」

「…………………」


 まじか。まじでか。あいつに魔力なんてものがあったのか。信じられない。信じたくない。ありえない。つまり、私の部屋にある異界にも、入ろうと思えば奴も入れるのか。つまんねぇ。面白くない。ド畜生。どうして言わなかったんだ、アイツは。帰ったら聞き出してやる。どうして今まで黙ってたのか喋らせてやる。

そして私はセフィリアに連れられてグラディウス邸に戻った。グラディウス邸に戻るとセフィリアはすぐびユーリさんに城での出来事を話す。近いうちに異界の場所に向かうこと。それで初代国王のピアスを見つけること、などだ。聞いたユーリさんはさみしそうな顔をする。でも、行かなくちゃ。行ってきます。

 それから出発の日はあっという間に訪れた。私とセフィリア、ハリー兄様は馬車の中、トリス兄様とクウィンが外で馬に乗って馬車の護衛という形になるらしい。


「アサヒ様、何かあったらすぐに知らせてくださいね。僕が何とかしますから。…出来る範囲で」


 馬車に乗る前、私はクウィンに手を掴まれ、言われる。クウィンは私が返事をするまでは手を離すつもりはないらしい。それほどに力は強かった。私は返事をする前に目線を外すのだが、クウィンはその旅に其方に顔を動かし、目線を合わせる。これは返事をしないという手は無いじゃないですか。


「分かった。分かったから手を離して。痛いから」

「え?あ、す、すみませんっ!」


 私が返事をした後に掴まれていた腕が痛いことを告げるとクウィンは面白いくらい過敏な反応で手を離す。ついでに、掴まれていた腕は綺麗にクウィンの手の痕がついていました。それを見たクウィンは更に焦りに焦りまくって、最後はトリス兄様に軽く叩かれることで漸く元に戻ることとなった。

 という訳で、私は今セフィリアやハリー兄様と一緒に馬車の中にいる。正直言って、暇。暇。暇。眠たいのだが、今眠ると間違いなく夜眠れなくなることが分かっているので眠れない。でも、暇すぎて眠たくなる。そんな私にハリー兄様が声をかけてきた。


「眠たそうだね、アサヒ。退屈しのぎに昔話でもしてあげようか?」

「してほしい!してください!!」


 ◇◆◇


 話は二十六年前に遡る。二十六年前の中間期、城で一人の少女が生まれた。名を、セフィリア・フォン・グラディウス。グラディウス家当主、フリードリヒと当時の国王、つまり前国王の妹、ユヴェールの間に生まれた子供だった。

それから時は流れて約三年後、セフィリアは大きくなり、現国王であるセルドニアやトリスとよく遊ぶようになった。年も近いからちょうどよかった。当時、セフィリア三歳、セルドニア五歳、トリス七歳だった。


「セフィー、今日はお城を探検しよう」

「セルドにいさま、探検ってなぁに?」

「探検っていうのはね、探したり見て回ったりすることだよ。行こう」


 セルドニアに説明を受けたセフィリアは楽しそうに微笑んだ。セルドニアはそれを了承の意と考えたらしく、小さなセフィリアの手を握って歩き始めた。


「おや、セルドニア王子、セフィリア様。城のお散歩ですか?」

「違うよ。お城の探検だよ」

「そうですか。お気をつけて」


 城の中を歩くと城に勤めている人間誰もが小さな王子と名門グラディウス家の長女に話しかける。セルドニアたちはいつも話しかけられるとニッコリと微笑んで返事を返していた。だから、王子たちの評判は良かった。それに国王も満足していたらしい。

そうしてしばらく歩いていると目の前に二人のよく知っている人物が現れた。それは、トリスとハリーロンドだった。


「セルド、セフィリア。何をしているんだい?」

「セフィーと一緒に探検しているんです。兄上たちも一緒に探検しませんか?」


 問われてトリスは横にいる兄・ハリーロンドを見た。ハリーロンドの許可なしではやろうとは考えられないのだろう。いい子だ。そしてハリーロンドはそんな弟に優しく声をかける。


「行ってくるといい。私はまだやらなければならないことがあるから無理だが」

「兄上は来られないんですか?」


 ハリーロンドが言うと、トリスのみならず、セルドニア、セフィリアも続けて悲しそうな顔をする。ハリーロンドはその顔を見ていられなくなったのだろう。顔をそらした。そんなハリーロンドにセルドニアは止めを刺すかのように詰め寄る。


「ハリー兄上も一緒に探検しましょう」

「ハリーにいさまも一緒がいいです」

「兄上、一緒に行きましょう」


 三人がかり。ハリーロンドは負けそうになっている。が、其処に救世主が現れた。トリスとハリーロンドの父、レイモンドだった。レイモンドは子供たちが集まっているのを見て微笑みながら寄ってくる。


「王子、セフィリア、トリス、ハリー、何をしているんだい?」

「父上」

「伯父上」


 レイモンドはにこやかに微笑みながら問う。その笑みは優しく、レイモンドは子供にかなり好かれていた。事実、レイモンドが来るとセルドニアとセフィリアはレイモンドの元へ駆け寄っている。レイモンドはそんな二人を同時に、軽々と担ぎあげた。担ぎあげられた二人は楽しそうにきゃっきゃと声を出す。


「あ、父上。すみません、次の授業の時間が迫っていますので、私はここで失礼します」

「おっと、そうだったか。遅れないように行くんだぞ、ハリーロンド」


 ハリーロンドは父にそう言うと小走りで去って行った。その後ろ姿を見る子供たちの目がとても悲しげだ。レイモンドはそんな子供たちを励ますように明るい声を出す。


「で、一体何をしようとしていたんだい?」

「城の探検です、父上」

「探検、か。私も子供の頃はよくやった。迷子にならないように探検をするんだよ。いいね?」


 レイモンドが問うと子供たちは揃って元気いっぱい返事をする。それを聞いたレイモンドは担ぎあげていたセルドニアとセフィリアを下して政務に戻って行った。そして子供たちは、探検の時間だ。三人手を繋いで歩き始める。それを見ているメイドたちはみな微笑んでいた。


「よし、行こうか」


 それから約数時間後。見事なまでに子供たち三人、行方不明。捜索隊が組まれた。


 ◇◆◇


「あ、あの、ハリー兄様。本当にそんなことがあったんですか?」

「あったとも。私も一緒にお前たちがいそうな場所を探したんだから」


 話を聞いたセフィリアの顔がとても赤い。覚えていない過去にこんな恥ずかしいことがあったのか、という感じだろうか。私としては楽しかったけどね。セフィリアやトリス兄様、王様の昔の意外な行動に驚いてるけどね。それがまた楽しいんだけど。

そしてそれから休憩に入るまで、セフィリアは何を話しかけても反応してくれなかった。休憩のとき、それに気がついたトリス兄様がどうしてセフィリアの調子がああなのかハリー兄様に問う。すると、トリス兄様の顔も見る見るうちに真っ赤になった。ハリー兄様、トリス兄様にも話したんですね。それからトリス兄様も、何を話しかけても反応してくれなくなった。どこまで恥ずかしいのさ。

 それからしばらく走り続けてある街が見えてきた。今日はその街で休むらしい。街に着くとクウィンとトリス兄様がまず宿へ向かう。部屋を取っているのだ。そして部屋分けとしてはもちろん、私とセフィリアで一部屋、トリス兄様とハリー兄様は各一部屋。そしてクウィンと馬車を曳く御者で一部屋だ。

宿に着くと、私たちは各部屋に分かれてしばらく休憩をすることになった。食事にはまだ早いし、街を回りたくてもハリー兄様から止めておけと言われたからだ。理由は「体力は温存しておくべきだろう」とのこと。街を回るくらいなら大丈夫じゃないのかねぇ。


「アサヒ様、セフィリア様、夕食の支度が整ったそうです。行きましょう」


 そしてしばらくして、クウィンが夕食の支度の完了を知らせに来た。私はセフィリアと共に部屋を出て食事をとる部屋へ向かう。その途中で兄様たちと一緒になった。

それから食事を終えたらお風呂だ。……旅のときは私はお風呂はセフィリアと一緒に入ると決まってしまったのでしょうか。有無を言わさずに風呂に連れ込まれました。やっぱりお散歩が出来ません。悲しいです。


「だって、アサヒ、ダメって言っても外に行きそうだから」


 うん、行くけどね。行きたいけどね。でも、無理やり連れ込まなくてもいいと思いませんか。引き摺ってまで風呂に入れようとしなくてもいいと思いませんか。私は目でそう訴える。セフィリアはそれでばつが悪くなったのか、目線を外した。私はそれでも尚、無理やり目線を合わせる。が、やっぱりセフィリアは逃げる。

目線を合わせる、逃げる、合わせる、逃げる。何だろう、このいたちごっこ。疲れた、もういいや。そう思い、私は自分から浴室へ向かった。

そしてお風呂も終わり、髪も乾いたころ、これも旅の恒例ですね。


「私は兄様たちと明日のことについてお話ししてくるからアサヒは寝てなさいね」

「ズルイー。私も行きたい」

「ダメ。寝てなさい」


 試しに自分も行きたい旨を伝えてみたのだが、やはり無駄だった。セフィリアは聞き入れてくれない。いいじゃんか、少しぐらい。でもセフィリアはそう言って許してくれるような人間ではない。結果、私は先に寝ておく羽目になったのだった。まぁ、起きてたんだけどね。ぎりぎりで。寝かけてたからセフィリアは気付かなかっただろうけど。でも、寝かけてたから何も出来なかったんだけど。意味ないね。

 そして翌朝。私はセフィリアに起こされた。セフィリアは既に身支度を済ませているらしい。私も早くしなくては、とは思うのだが眠たい。瞼が落ちる。また寝そうだ。…………立ち上がって歩いているにも関わらず。


「アサヒ、歩きながら寝ようとしないで。ほら、ふらふらしてるよ」


 セフィリアはそう言いながらふらつく私の体を支えてくれる。その温かい手が更に睡魔を呼び込んだ。うとうと。限界だよ、おやすみなさい。だが、その感じはいきなり消え去る。何故か、それは手に冷たい水が触れていたからだ。水を出し、私の頭を起こしたのは勿論セフィリアである。


「目、覚めた?」

「………おはよ」


 セフィリアはにっこりと微笑みながら言う。ええ、ばっちり目が覚めましたとも。冷たい水が手に触れれば目は覚めますとも。私はいきなりそれをしたセフィリアを睨む。じっと睨む。だがセフィリアはニコニコと微笑むだけで何も言わない、何もしない。

これは私が折れるしかないだろう。というわけで、私はとっとと身支度を済ませるために昨晩のうちに洗面所に置いておいた歯ブラシをとって水に濡らし、歯磨き粉をつけた。そこまで見てセフィリアは漸く離れていく。さて、あまり待たせないようにしないといけませんね。

私は急いで歯磨き、洗顔を済ませ部屋に戻る。そして着替えを取り出してせっせと着替えた。そして着替え終えると同時にクウィンが朝食を知らせに来た。


「セフィリア様、アサヒ様。朝食をとりに行きましょう」

「すぐに行くから待っていて」


 クウィンの言葉にセフィリアがあっさりと声をかけた。そして私に目で「行くよ」と言って扉のほうへ向かう。私は置いていかれないようにすぐについて行った。部屋を出るとクウィンがにっこりと微笑んでいるのが分かる。何だ。


「おはようございます、アサヒ様」

「おはよ、クウィン」


 朝の挨拶のためだけの笑顔ですか?笑顔勿体無い。もっと別の場所に使えばいいのに。そう思っていると兄様たちが、何の偶然か違う部屋から二人同時に出てきた。…これで全員揃いましたね。と言うわけでレッツ朝ごはん。私はお腹が空きました。私が言うとみんな淡く微笑む。そしてハリー兄様が私の頭に手を置いて言う。


「待たせて済まなかったね。早く行こうか」

「うん!」


 早く行こう。私のお腹は空腹で危険です。今にもお腹が鳴りそうです。そして私たちは大広間のような場所で朝食をとる。それから食休みを取って出発した。その異界のある場所に着くのは一体いつなんだろう。


「早ければ明後日くらいには着くだろう。遅くても明々後日かその次の日には着くよ。それまでは退屈だけど辛抱していてくれ」

「お暇でしたら僕が馬車の中で話し相手になりますよ」

「いい」


 トリス兄様に問うと、そう返ってくる。それまで退屈だと思っていると、兄様に辛抱してくれるよう言われた。……私が考えているのが分かっていたのだろうか。そしてそれに気が付いたらしいクウィンが急いで反応してきた。いや、いいよ。別に話し相手にはならなくていい。セフィリアもハリー兄様もいるんだから。そう言ってやったら傷ついた模様。………これ以上、どう言葉を考えて告げてやるべきだったのだろうか。

 その後、私たちはまた馬車の中にいる。今日はハリー兄様は何も話をしてくれないらしい。眠たい。寝たい、寝たいよ。でも、それは横に座るセフィリアが絶対に許してくれないんだ。


「アサヒ、今寝たら夜眠れなくなるでしょう?」

「だって、眠いよぉ」


 私は眠気を少しでも飛ばすために目をコシコシと擦りながら返事をする。が、その手はすぐにセフィリアに手をとられ、止められる。眠い。手を止められたせいで余計眠たくなった。もう限界。寝かせて。その気持ちを最後に、私は夢の世界に旅立った。起きたのは、お昼。


「アサヒ、アサヒ。いい加減起きなさい」

「もう昼だ。いい加減起きろ、アサヒ」


 昼、私は馬車に揺られながらセフィリアとハリー兄様に続けて声をかけられて目を覚ます。よく寝た。さて、これで夜眠れなくなるのかな。…………考えないようにしよう、面倒だから。そして起こされて少しすると馬車は止まり、クウィンが昼食を知らせに来る。いつの間にかお知らせ係になっているクウィン。何か哀れな感じが……。一応名目上は護衛のはずなのに。


「アサヒ様、何でしょうか?そのよく分からない視線は」

「……何でもない」


 私はクウィンを哀れむような目で見ていたようだ。自分では意識していなかった。まぁ、クウィンは気付かなかったようだからいいのだが。

それから私はそのことを忘れたように昼食を食べた。昼食を食べた後は満腹も手伝ってまた睡魔に襲われるのだが、今回はセフィリアに徹底して止められた。少しでもうつらうつらとしたらセフィリアから声をかけられるか、ひどいときはまた抓られた。痛い。

 そんな日が数日続き、私たちは漸く初代国王の探しているピアスがあると言う異界の場所に辿り着いた。


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