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探し物は何?  作者:
18/22

邪魔ですよね?

 私は大事なものを失った。大切なものを、失った。それは、私の大事な家族。私は死んで、異世界に召喚されてしまったから。家族には二度と会えない。そういう意味で、私は大切な人を失った。

そして、大切な人から私を失わせようとした。私は私が味わった悲しみをセフィリアたちにも与えようとした。私の、エゴで。それが過ちだったと、今なら分かる。

今は、もうそんなこと考えない。失うのは辛いから。私は思い出を失っても、それでも覚えておけるだけを覚えて生きて行くよ。これからの未来のために。未来を自らの手で壊さなくてもいいように。


「アサヒ、おいで」


 異界から戻ってきて数日後、私はリビングでセフィリアに呼ばれた。何だろうか。そう思ってセフィリアのもとに行くと、左腕を掴まれた。そして、服が捲くられる。そうして出てくるのは、傷痕の残った、手首。火傷の痕にリストカットの痕が増えた。


「やっぱり、傷自体は治ってるんだね」

「うん。初代国王が治してくれた。首のも」


 私が言うと、セフィリアは首の傷痕も見る。傷痕は隠していない。だって、隠す必要がないから。異界から戻ってきて数日、私は外に出ていないから。家の人に見られたところで何も無い。だから、私は家の中では傷痕を隠さずオープンにしている。セフィリアたちはそれを気にしているらしい。セフィリアは暇さえあれば治癒魔法を調べて、私のこの傷痕を消せるような方法を考えているらしい。…そこまでやらなくてもいいのに。私は大丈夫。気にしてないし。何かあったら隠すよ。

そうセフィリアに一度言ったのだが、「そういう問題じゃないの」とあっさりと切り捨てられてしまった。ちょっと悲しい。


「絶対にこんなこと、二度としないでね?約束して」


 セフィリアは私の傷痕を見ると絶対にこの言葉を言う。が、私は毎回返事を曖昧にしている。だって、絶対っていうのがネックなんだもの。絶対にしない保証はどこにもないから。また追い込まれてやっちゃうかもしれないから。……武器の調達も出来るし。

で、そうやって誤魔化しているとセフィリアは顔を近づけ、無理にでも目を合わせて来るのだ。そして、口を開く。


「約束、してね?」


 しかも目は怖いほど本気マジ。恐ろしいです。我が姉ながら、本当に怖いです。しかも、その話をしているとそれを聞いていたユーリさんまで話に入ってくる。二対一は卑怯じゃないですか?


「アサヒが約束するって言ってくれればそうはならないのですよ」

「そうそう。難しい約束じゃあないでしょう?」


 ユーリさんの言葉にセフィリアはそうそうと言いながら頷く。いやいや、難しいだろう。人間の感情っていうものはいつだって変わるものなんだから。昨日までは元気でもいきなり鬱入って死にたくなることもあるって言うじゃないか。そんな状態で約束なんて出来ません。私ははっきりとそう告げる。


「そうなったら止めてあげるから、今は約束して。それだけで私たちは安心できる。ね?」

「………………分かった」


 そこまで言われると約束する他無いでしょうが。本当に危険な時は止める気でしょう?それならいいよ、約束しておいてあげる。ま、本当はどうなるか分からないんだけどね。本当に危険になったら私、多分魔法行使しまくると思うけど、大丈夫かな。…………気にしない気にしない。気にしたらダメそう。

それに、今ちゃんと約束をしておかないと、セフィリアたちが怖い。セフィリアだけならば何とかはぐらかすことは出来るのだが、それにユーリさんとフリードさんまで入ると、無理。絶対に無理。父と母の威厳を持ってかかってくるから。それは本気で恐ろしいです。

 そしてある日、グラディウス邸に一人の少年がやって来た。王様が派遣したらしい。でも、一体何のためになんだろう。


「初めまして、クウィンセル・ウィンスロットと言います。本日よりアサヒ様の護衛を任されることになりました、よろしくお願いいたします」

「へ?」


 護衛?何のために。っていうか、この少年何?何でわざわざ護衛?護衛とか無くても私は強い。大体の奴なら魔法で倒せる。なのに、何故。私は通信機を取り出してトリス兄様に連絡を入れた。兄様はすぐに反応してくれる。


『アサヒの看視のためだ。もう、あんな君は見たくないからね。君の状態を我々に伝えてくれる人間が欲しかったんだ』

「看視って……、もう大丈夫です!」

『以前も、そう言っていたね。そして、君は死を望んだ。自らの手で自らを傷つけた。それが、私たちにどれだけショックだったか分かるかい?』

「でも……」

『分かってくれ。私たちは、君が傷つくのを見たくない。彼は、そのためだ』


 確かに、以前も大丈夫だと言った。ケリーとナッチに傷つけられた後、私が狂った時。その時、確かに私は大丈夫だと告げた。そのツケが此処で帰ってくるとは………。

そうしていると兄様は仕事が入ったらしい。「すまない」と言って連絡を絶たれた。そして私は自分の部屋にそのクウィンセルという少年と共にいる。私はニッコリと微笑みながら少年に話しかけた。


「とりあえず、兄様たちに何を言われているのか教えていただけますか?」

「敬語はお止めください、アサヒ様。僕は、アサヒ様の身を守るとともに、アサヒ様の精神状態が少しでも危険だと思ったらすぐに連絡をするよう申しつかっております。そのために、このグラディウス邸にて衣食住を共にする許可もいただきました」


 ……つまり、この少年はとことん私に付きまとう、と。嫌だ止めてくれ。また私から自由が無くなるのか。


「クウィンセルさん、四六時中付きまとわれるのははっきり言って迷惑です」

「クウィンとお呼びください、アサヒ様。申し訳ありませんが、それが僕の仕事です」

「なら、王様に直訴しましょう。迷惑だと。それならいいでしょう?クウィンさん」

「敬称はいりません。それも止めてください」


 それは聞き入れません。という訳で。


「あ、王様ですか?アサヒです」

『どうした?君の護衛のことかな?』

「分かってるなら話は早い。護衛なんていりません」


 王様、私から連絡が来るのを予想していたね?初めて王様に直接連絡を入れたのに驚いた様子も何もなかった。何か面白くないな。少しくらい驚くかと思っていたのに。


『悪いが、護衛は止めさせない』

「ならせめて自分の部屋でくらい一人でいさせてくださいよ。彼、四六時中付きまといそうで怖いんです」

『奴は仕事熱心だからな。アサヒ、クウィンに変わってくれ』


 私が自由な時間を望み、頼みごとをすると、王様はクククッと笑いながらクウィンをさり気無く褒める。そしてクウィンに変わるように言われたので私は通信機をクウィンの手に握らせた。


「代わりました。クウィンセル・ウィンスロットです!」


 そうしてクウィンと王様はいろいろと話をし始めた。王様、頼むから納得させてよ。私だって一人でいたいときはあるんだから。………っていうか、最後の手段は異界に逃げればいいじゃないか。異界ならクウィンは着いてこれないだろう。よし、今度からそうしよう。必要最低限以外は異界で過ごそう。ケリーたちでも遊びたいし。

それからしばらくしてクウィンから通信機が戻される。私はまた王様と話をすることになった。


『話はつけた。アサヒ、君は自分の部屋では自由だ。但し、外に行くときは必ず彼が着いてくる。それでいいね?』

「まぁ、そのくらいなら」


 メイドさんたちみたいに少し怪しいと思ったらすぐに止めに来るようなものではなければね。ま、今回はそうなったら魔法で気絶させてでも行くんだけど。護衛としての意味は無いけどね。それに、クウィンは随分と人が良さそうな感じがする。うまくいけば誤魔化せる。ニヤリ。

が、そう思っていると王様が笑いながら釘をさしてきた。「クウィンはそう簡単に誤魔化せるような人間ではないぞ」と。チッ。どうして私の考えていることが分かったんだ。恐るべし王様。

 クウィンには私の部屋の隣の部屋が宛がわれた。宛がわれた最初はクウィンは「ただの護衛にこんな広い部屋は必要ありません!」と言って全力で遠慮していたのだが、それをユーリさんが押し切った。というか、脅して納得させた。曰く。


「遠くの部屋だとアサヒに何かあった時が困るでしょう?」


 完全にそれは脅迫だ。我が母ながら、恐るべし。しかもユーリさんはニコニコと微笑みながらそれを言いきった。そこがまた怖い。結局クウィンは宛がわれた私の部屋の隣で生活をすることになった。

……自分の部屋にいるときは自由とはいえど、やっぱり、ウザい。食事は隣だし、お風呂は外で待ってるし、部屋にいてもちょこちょこ声をかけられる。そして、返事をしないことがあれば何があっても部屋に踏み込んでくる。………マジでウザい。

苛々苛々苛々。自傷行為癖再発しそう。自殺未遂しちゃいそう。抑えなくては。また傷つけるとセフィリアたちが悲しむ。もう悲しませたくない。だから、抑えなくちゃ。私は自分の手首をギュッと掴む。左手は血の流れを抑えられたため、色が変わっていく。痛い。それでも、私の衝動は抑えられない。

―――――………もう、ダメだ。私はナイフを召喚した。

切リタイ。傷ツケタイ。――――もう限界。

私の手にあるナイフは私の左手首を思い切り切り裂いた。血が流れる。赤い。痛い。でも、落ち着く。痛みとはこんなにもいいものだっただろうか。恍惚。

だが、すぐに我に返った。そして、後悔した。私は左手を心臓より上に上げて止血しようとする。が、傷は思いのほか深いらしい。ダラダラと流れ続ける。

私は、ボタンを押す。クウィンが「何かあったらこれを押して僕を呼んでください」と言って置いて行ったボタン。押すと、すぐに部屋の扉がノックされた。私の返事を待つことなく扉は開く。そして、私の腕が血に染まっていることに気がついた。


「ゴメン、手当、頼める?」


 私が言うと、クウィンは急いで何処かへ走っていく。救急箱を取りに行っているのだろうか。今はセフィリアは仕事中。だから、治癒魔法で治すことは出来ない。だから、今は応急手当てを。

まだ、血は止まらない。右手で抑えていても、血は指の隙間から流れ落ちる。人間って、どのくらい血が流れたら死んじゃうんだっけ。まだ、死なないよね?このくらい、大丈夫だよね?まだ、死にたくないよ。悲しませたくないから。


「アサヒ!大丈夫!?」


 そうしているとクウィンとユーリさんが共にやってきた。クウィンの手には救急箱。遅いよ、クウィン。いっぱい、血が流れちゃったよ。クウィンは急いで救急箱を開いた。そして、薬を取り出す。これを飲めというのか?っていうか、これは何の薬だよ。


「止血剤です。飲んでください」

「ん」


 私の手は両方とも血で真っ赤なので、口を開けて、中に直接薬を入れてもらった。それからメイドさんがコップに入れた水を持ってきて、飲ませてくれる。それから少しして、漸く出血がマシになった。私はクウィンに指示されて、傷から手を離す。傷は、深かった。クウィンは濡れたタオルで傷口や他の場所に着いた血を綺麗に拭う。タオルはあっという間に真っ赤になった。


「とりあえず、消毒をして包帯を巻いておきます。セフィリア様が帰って来られましたら、治癒魔法で傷を塞いでいただきましょう」

「アサヒ、あなたは横になっていなさい。セフィリアが帰ってきたらどうしてこんなことをしたのか聞きますから」


 処置を終えると、ユーリさんはそう言い置いてクウィンと共に部屋を出て行った。ただ、クウィンは部屋を出る前に私に増血剤を渡すことは忘れなかった。


「これを飲んで眠ってください」


 そう言って部屋を出て行った。二人が部屋を出たのを確認すると、私はさっきの残りの水で増血剤を流し込む。そして、眠った。血の流しすぎで体がフラフラだから。精神的のみではなく、肉体的にも限界だから。

そうして眠っていると、不意に何か声が聞こえた気がした。何だろう。そう思っていたら突如部屋の扉が開かれる。開かれた扉の前にいたのはセフィリアだった。急いで帰ってきたのか、息が切れている。っていうか、勢いが怖いよ、セフィリア。私の目は今さぞかし真ん丸だろう。


「アサヒ、傷を見せて」


 セフィリアは息を切らしながらも私の左腕を掴む。傷に触れないよう優しく掴んだ。そして、包帯を少しずつ剥がす。私が付けた、深い傷が露わになった。それを見たセフィリアが顔を顰める。だが、すぐに元の表情に戻して治癒魔法をかけ始めた。

治癒魔法。私も使えることは使える。でも、ここまで深い傷は多分、無理。下手すれば悪化させるから。前自分に治癒魔法かけて痛い目に遭ったこともあるから。それ以来、極力使わないようにしている。

それから少しして、傷が大体塞がった。セフィリアは其処で魔法を止める。あとは自己治癒力でなんとかなるだろうし。そして魔法を止めたセフィリアは何処に持っていたのか、消毒液、ガーゼ、ピンセットなどを取りだした。そして消毒をした上から新しい包帯を巻く。

それが終わると、尋問の時間らしい。私はセフィリアに手を引かれてリビングに向かった。リビングにはフリードさん、ユーリさん、クウィンが揃っていた。


「アサヒ、どうしてまたこんなことをしたんだい?」

「クウィンがウザくて限界だったんです」


 これは、正直な答え。それを聞いたクウィンはショックそうな顔をする。でも、真実。だって、クウィンがウザすぎた。私の部屋は自由なはずなのに、いつだってクウィンが定期的に確認に来ていた。返事をしなければ何をしてでも押しかけてきた。それが嫌だった。


「これでも抑えてたんですよ」


 必死で、強く腕を掴んで血の流れを抑えてでも。それでも、耐えきれなかった。ナイフを召喚した後も抑えようとした。でも、その考えとは裏腹に、手は動いていた。左手首を切り裂いた。抑えられなかった。


「でも、約束破っちゃったのは、ゴメンなさい」


 私が謝罪すると、フリードさん、ユーリさん、セフィリアが続いて溜息を吐いた。そして、クウィンの方を見て言う。


「クウィンセル・ウィンスロット。アサヒが自室にいる間はアサヒに呼ばれない限り干渉するな」


 それは、嬉しい。クウィンの干渉が減れば私のストレスは軽減される。そうすれば、苛々しないから自傷行為にも走らない。最初からそうしておいてもらえば良かった。何を言ってでも、そうしてもらえばよかったんだ。そしてセフィリアはそれを王様にも伝える。そしてクウィンには王様から直々にさっきフリードさんが言ったことが命じられた。

私はクウィンやフリードさんと王様の連絡が終わるのをのんびりと見つめていた。暇だと思う。することが無いから。そして連絡を終えたクウィンは私の目をジッと見てきた。………何ですか。


「アサヒ様、僕がストレスの原因となっていることに気づかずに余計なストレスをおかけして申し訳ありませんでした」


 クウィンはそう言って頭を下げた。………そうやって頭を下げるくらいなら最初からするな。迷惑千万。至極迷惑。でも、まぁ、謝ったからいいや。それで。これで今度から部屋にいるときは完全に自由になる。異界も行き放題。ヤッタね。だが、それで喜んではいけなかった。地獄の時間はこの後に待っていた。


「じゃあ、約束を破った罰として、今からお説教ね」

「えぇーっ!?」


 まさかのまさかで、お説教タイム。しかも、また全員から。フリードさんとユーリさんのお説教は威圧感漂いすぎて怖いし、セフィリアのお説教は時間が半端なく長いから嫌いなんだよ。

だが、言いだしっぺがユーリさんという時点で、回避は出来ない。怖い。既にフリードさんとユーリさん、セフィリアの目が怖い。纏うオーラが怖い。それはクウィンも同じの模様。どうすればいいのか分からずにおろおろしていた。

 それから約二時間後。漸くお説教が終了した。今回は以前家出した時と比べるとお説教の時間がかなり短かった。フリードさんとユーリさんで一時間、セフィリアで一時間。まぁ、短いとはいえど精神的ダメージはでかいんだが。


「さ、疲れただろうから部屋で休んでおきなさい。夕飯の支度が出来たら呼ぶから。クウィン、よろしくね」

「はい。アサヒ様、部屋に戻りましょう」


 セフィリアが言うとクウィンがすぐに立ち上がり、私の手を取る。私はそれに従い、立ち上がる。が、まだ血が足りないらしく、少しフラフラした。

それを見たクウィンは手を貸して私が倒れないよう支えてくれる。その手に頼って歩き、部屋に戻った。部屋に入るとクウィンは私をベッドへと誘う。そして私が横になったのを見て漸く部屋を出て行った。

そして、私はそのまましばらく眠ることにした。夕飯まではあんまり時間は無いかもしれないけれど、それでも眠ったほうがいいだろうから。


「アサヒ様、夕飯の支度が整いました。起きてください」


 どれだけの時間眠っていたのだろう。私はメイドさんに起こされた。もう食事の用意が出来たのか。まだ眠り足りない。でも、起きておかなくちゃ。ご飯を食べなくては。お腹空いたよぅ。

そして私が部屋を出ると、部屋の外にクウィンが待っていた。私が起きるのを待っていたらしい。


「おはようございます、アサヒ様。よくお休みになれましたか?」

「おはよークウィン。………寝足りない」


 クウィンに問われて私は目を擦りながら答える。そうしていると、クウィンからは「目を擦ってはいけませんよ」と言って私の腕を掴んで目から離す。

それから私はクウィンに手を引かれてリビングに向かった。リビングには既に三人が揃っていた。私たちは待たせたことに謝罪をしながら席に着く。そして食事の開始だ。お腹空いたよ。

はぐはぐはぐ。私は空腹なので恐ろしい勢いで食事を取る。それを見ているフリードさんたちは優しく微笑んでいた。


「今日はたくさん食べるね、アサヒ。お腹が空いていたのかな?」

「あなたは普段が食べなさ過ぎですからね。食べられる時にたくさん食べておきなさい」


 あぁ、そうだね。私はもともとがあんまり食べないらしいからね。この世界の私くらいの年の子はもっとたくさん食べるらしい。私からすればこれで普通なのだが。

ユーリさんはそう言いながら自分のおかずを私の皿に少し移してくれた。…嬉しい。それは私の表情にも出ていたらしい。ユーリさんは優しく微笑んだ。それを見ていたセフィリアも微笑む。そして自分のおかずも私の皿に少し移してくれた。ヤッタね。

私は嬉しさでニコニコと微笑みながら食事にする。ちなみに、フリードさんもおかずをくれようとしていたのだが、ユーリさんとセフィリアにもらったものでもう十分だと思ったので断った。ら、悲しそうな表情をされた。……どう反応すればよかったのさ。


「ふぅ、お腹いっぱい♪」

「本当にたくさん食べたね。いいことだよ」

「アサヒくらいの年の子供はもっとたくさん食べるからな。セフィリアもたくさん食べていたなぁ」


 私が満腹の意を告げると、セフィリアが微笑みながら言う。それにフリードさんが続いた。しかも、昔のセフィリアを思い出しているのか、目が遠くを見ている。今を見ていない。……逃げたほうが良さそうだ。


「じゃ、私は部屋に戻りますね。クウィン、戻ろう!」

「え、あ、はい。では、失礼いたします」


 私は急いで言って立ち上がり、クウィンの手を取る。クウィンはいきなり手を取った私に焦ってはいたのだが、すぐに反応してセフィリアたちに挨拶をして立ち上がった。そして私はクウィンと共に部屋に戻る。

そして部屋に着くとクウィンはすぐに「何かあったらすぐにお呼びください」と言って隣の部屋へ戻って行った。

私はそれを確認すると、異界への入り口を開く。少し、異界に行ってケリーたちに報告をしておこうと思ったのだ。


 ◇◆◇


 異界に着くと、すぐ側にケリーとナッチがいた。私はニッコリと微笑んで話しかける。


「ケリー、ナッチ、久しぶり」

「よう、いい表情になったじゃないか」

「殺してほしいなら殺してあげるけど」


 二人は、変わらない。ケリーは素直に思ったことを言うし、ナッチは捻くれてる。今回も言っていることは危ないけれど、表情は優しい。微笑んでいる。


「で、今日は何をしに来た?」

「報告。それとお礼」


 私がお礼という言葉を言った瞬間、二人が後ろに下がった。何故だ。素直にお礼を言いに来たのに。それでどうして逃げる。


「いや、お礼と称して何かの魔法の実験体にされそうな気がした」

「ケリーもそう思ったのか。私もだよ」

「失礼な」


 私が問うと二人は素直に答える。ナッチ、君はどうしてこういうときだけ素直なんだい?実験体にしてほしいならしてあげるよ。今、麻酔を使わない眠り薬開発してるんだ。実験体になってよ。うまく行ったらクウィンに使うから。クウィンを眠らせて逃げるから。

私がそう言うと二人は余計後ろに下がった。だから、何で逃げるのさ。お礼を言いに来ただけだってさっきから言ってるのに。実験しないよ、しないって。


「で、何で礼を言いに来たんだ?」


 ケリーは随分と離れたところから問う。いやいや、聞くのならもっと近くで聞いてよ。そんな遠くで聞かないでよ。ひどいな、ケリーは。しかも、ナッチもそれと同等の距離離れている。失礼なコンビだ。


「前、死のうとしたときにいろいろと言ってくれたでしょ?だから、そのお礼だよ」

「その左手首は何だ?」


 私が言うと、ケリーは私の左手首を見て言う。左手首………。クウィンのウザさに耐えきれなくなって切っちゃった傷ですね。うん、大丈夫だよ。その傷に関しては原因が分かってるから。原因は何とかなったから。それに、セフィリアの魔法で傷も大体善くなってるし。


「これは死にたい願望じゃないから大丈夫」


 傷つけたい願望だから。とりあえず今は死ぬつもりはないよ。セフィリアたちを悲しませるから。悲しませたくないから。私が言うと、二人は複雑そうな顔をして言った。


「……どっちみち、大丈夫じゃないだろう」

「だな。俺も思うわ」


 だから何で?


「死にたい願望も傷つけたい願望も、結局精神状態が安定してないから起こるんだろう?安定していればそんな考えには至らない」

「不安定だからこそ、そう言う考えに襲われる」


 …そう、なのかな?でも、私、結構普通だと思うんだけどな。それでも、おかしいの?変なの?普通じゃないの?


「落ち着け。おかしいとは言っていない」


 なら、どうだというの?私が自傷行為に及んでいる間はおかしいと言っているんじゃないの?分からないよ。ケリー、ナッチ。教えて。どういうこと?


「お前は、落ち着け。変な考えに頭を乗っ取らせるな」

「ナイフを召喚することを忘れろとは言わない、ただ、必要最低限以外に召喚しないようにしろ」


 変な考え……。死にたいとか、自分を傷つけたいっていう考えのことかな。 ナイフの召喚…。つい、便利だから使っちゃうんだよね。控えられるようにならなくちゃ。そうすれば、自傷行為に走らなくても済むようになるかもしれない。

自傷行為には走りたくないから。自傷行為をすればユーリさんたちが悲しむから。私は、悲しませたくないから。


「分かったな?分かったら戻れ」

「次は怪我は無しの無傷の状態で来い」


 ………はい。ゴメンなさい。次が無いように気をつけます。っていうか、私には心配してくれる人がたくさんいることが分かる。現世のみならず、異界にも私を心配してくれる人がいる。それが、嬉しい。

 フリードさん、ユーリさん、セフィリア、王様、トリス兄様、ハリー兄様、初代国王。そして、ケリー、ナッチ。それが、私を心配してくれる大事な人たち。


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