辛いんですが?
結局、逃げられずいつの間にか寝入ってしまった私は、次の日に、セフィリアたちと一緒に王都へと戻ることになった。さて、何日かかるのでしょう。とりあえず、体ダルイ、頭痛い、喉も痛い。………風邪引いた。
「ほら、横になって、ここに掴まってなさい」
だが、私が風邪を引いたからといって、熱が引くまでその街にいる、と言うことはなかった。
「本当は熱が下がるまでは休ませてあげたいんだけど、これ以上陛下やお父様たちを心配させられないからね。ゴメンね」
「酔ったりしたらすぐに言いなさい。休憩を取るからな」
「う………ん……、ダルイ」
街を出る前に、一応医者に診てもらい、薬をもらったのだが、まだまだかなり辛い。ので、馬車の中では完全にセフィリアの膝を枕に、横になっている状態だ。
だって、起き上がってるの辛いんだもん、馬車にはほかに枕になるもの無いんだもん。
そうやって数日後、馬車は無事、王都に付いたのだが………、私の熱は依然として高いまま、下がる兆しを見せなかった。
「家に戻ったら、侍医に診てもらおうね。そうすれば、少しは楽になれるはずだから」
「ん………」
もう、拒否する気力すらないんだ。少しでも、この辛さが薄まるのならば、大嫌いな医者の診察でも何でも受けようかと言う気持ちになる―――
「しかしまぁ、アサヒも予想を裏切らないね」
「な……にが……?」
「アサヒが大泣きした後、熱を出したりしないか心配だったんだけど、しっかり熱を出すんだもん」
あー、こないだ言ってた心配って、これかよ。くそう、嫌なもんが当たった。
そう思っている間に、馬車は懐かしきグラディウス邸の前についていたらしい。既に自分で歩く体力さえも熱に奪われている私は、近衛兵の一人に抱き上げられ、屋敷へと足を踏み入れることになった。
「ただいま戻りました、お父様、お母様。侍医は来ていますか?」
「お帰り、セフィリア、アサヒ。あぁ、そこの君。すまないが、そのままアサヒを部屋へ運んでくれるかな?」
「はい」
「お帰りなさい、二人とも。先生はもう、アサヒの部屋に待ってくださってるから、早く行きなさい」
……なんでもう、侍医が部屋で待ってるの? ……って、あぁ、通信機使って連絡入れてたのかぁ。
そんな考えすらもすぐに出なくなるほどに、頭が働いていない。……やばいなー。
そうして部屋に運ばれ、少しの間男性陣を部屋から追い出すと、抵抗する間もなく、私はメイドさんやユーリさん、セフィリアに手伝われ、寝巻きに着替える。
そして、着替えた後はフラフラしながらベッドへと直行した。熱、どれだけ高いんだよ、だるいよー。
「アサヒ様、診察を受ける前に、一度熱を測りましょう」
「ん」
ちょうどいいや、私も、今の自分の熱がどのくらいあるのか知りたい。だから、メイドさんにそういわれて素直に口を開き、体温計を受け入れる。体温計が冷たくて気持ちよすぎる。
「やはり、相当高いですね」
「なん……ど?」
「四十一度二分です」
まさかの四十度越え。通りで辛いはずだ、………というか、本気で死にそう。
そう思っていると、部屋の扉が開き、先ほど追放された医者がメイドさんに先導されながら戻ってきていた。………嫌いな医者でも何でもいいから、とりあえずコレ何とかして。本気で死ぬ。
「熱が四十度を越えていたそうですね。どういう症状があるか、話せる?」
「だ……るい……、あたま、いたい……、のど、も……いたい……」
最初の言葉は、セフィリアやユーリさん、そして医者と一緒に部屋に戻ってきたフリードさんに。そして、次の言葉は私へと投げかけられた。
その質問に、私はゆっくりと分かる範囲で症状を答えていくのだが、……正直に言えば、喋るのもしんどい。
「喋るのも辛い? もしそうなら、少し頷いてくれる?」
うん、喋るのかなりしんどい。頷くと医者はまず、喉に触れた。冷たいー、でも気持ちいいー。
「喉が随分と腫れてる、通りで痛いはずだ」
「肉体的、精神的に相当疲れていたんだろうね。それに、その状態でもゆっくり休めずにいたろう? 恐らく、そのせいで一気に熱が上がったんだろう。……熱が下がるまで、いや、下がってからも数日は絶対安静だからね。それと」
これが、診察を終えた後の医者の言葉だった。ちなみに、私の腕には現在、しっかりと点滴が入っている。曰く、少しでも熱を下げるためだとか。
「さすがに熱が高すぎるので、もう少し下がるまでついておきたいのですが、よろしいですか?」
そしてこれはフリードさん、ユーリさん、セフィリアにかけられた言葉だ。……まぁ多分、三人ともあっさり了承するんだろうけどさ、私に抵抗する気力が残ってないから止めれないんだけどさ。
……結果としては、予想通りだしね。三人とも何の問題も無いとでも言わんばかりにあっさりと頷いてたみたいだよ。
「さ、君はしばらく休んでなさい。休まないと熱も下がらないからね」
「その通りだ。しばらく休みなさい」
「今は何も考えず、ゆっくり休んでるの。いい?」
「お父様たちの仰る通りよ。ね?」
そうしていると、フリードさんたち全員、プラス医者から寝るように指示が飛んでくる。……言われなくても、もう寝るよ。―――てか、起きておく余裕も無いんだよ、今は。
*****
それからしばらくして、しんと静まり返った部屋の中では、アサヒの寝息だけが響いていた。ぐっすり眠っているようだが、その呼吸は普段と比べると荒く、それが熱の高さをしっかりと知らしめる。
そんな状態でも、フリード、ユーリ、セフィリアはアサヒから離れようとしない。久しぶりに戻ってきたこの子供を、二度と失いたくはなかった。ずっと、見守っていたかった。
そうやって見ていれば、きちんと戻ってきたのだと安心できる。三人で見ていれば、これは夢ではないと、実感できる。だからか、三人は一向にアサヒから離れようとはしなかった。
その中で、フリードは眠るアサヒをただ、優しい瞳で見続け、ユーリは眠る我が子の柔らかな髪を手で梳き、セフィリアは少しでも楽になるようにと、額に濡れたタオルを置いてやっていた。
アサヒはよほど辛いのか、寝ている間にいろいろとされていたとしても、まったく目を覚ます気配を見せず、ただ、普段よりも荒い呼吸が、アサヒの存在を何とか知らしめていた。
少し前に家族になった幼い子。年は十八だと聞かされていても、実際は十二・三くらいにしか見えない娘。
彼女は世間を知らなかった。人としての普通と言うものを、全然知らなかった。それ故か、彼女の見た目は実年齢よりも随分と幼く見え、その見た目がフリードたちの庇護欲を煽った。
そんな、世間知らずな娘が可愛くて。世間を教え、吸収してはそれを生活に生かそうとする娘が愛おしくて。
アサヒは、疑問に思うことがあるとすぐに質問してきた。すぐに尋ね、理由を聞いて納得しては、また新たな疑問を蓄え、そして、貪欲に知識を蓄えていった。
その知識が、今回の旅で十分に発揮されたわけだが。
「本当に、戻ってきてくれてよかった」
「まったくだ。……これで、あの夢からも解放されるな」
「ええ。あの子の夢を見て、戻ってきたのではないかと、屋敷中を探すことは、もうありませんね」
アサヒが家を出ている間、フリードたちは何度も夢を見ていた。夢の中でアサヒは屋敷に戻って来、そして笑っていた。
だが、それは所詮夢。起きればそれが夢だと気づくもの。だが、フリードたちはその夢を少しでも信じたくて、毎回屋敷中を探し回った。夢でアサヒがいた場所を、何度も何度も探し回った。
―――それほどに、フリードたちも疲れていたのだ。
「お、にぃ……ちゃ……」
そうしていると、突如アサヒが呟くように声を上げる。一瞬、起こしてしまったのかと焦ったフリードたちだったが、アサヒの瞳がしっかりと閉じられているのを見て、それはないと安心する。そして、安心が出来た状態でアサヒの寝顔を見ると、アサヒは笑っていた。呼吸は荒くても、それでも、幸せそうに。
「いい夢を見ているんでしょうね」
「そのようだな。……ふふっ、やはり、この子は可愛いな」
「……何だか、セフィリアの小さい頃を思い出しちゃった」
セフィリアも、いい夢を見ているときは、笑ってたのよね。ニコニコと微笑みながら言うユーリに、そんなことは一切知らないセフィリアはそうなんですかと軽く相槌を打つ。
その瞬間、何のタイミングか、眠っていたアサヒがぼんやりと、目を覚ました。
「あれ……? 何で、みんな………いるの?」
*****
「何で、みんな………いるの?」
何か話し声がするなーと思って目を開けると、そこには何故か全員揃っていた。
「何でって、………決まっているじゃないか。なぁ?」
「ええ、決まってるわ」
「そうですね」
私の質問に、三人は微笑みながら答える。いや、いいから明確な答えちょうだいよ。頭、本当に働いてないんだって、考えらんないんだって。
「久しぶりに愛しい我が子に会ったんだ。離れたくないと思うのは、当然だろう?」
「あなたがいない間、本当に不安だったんだから。その不安を吹き飛ばすためにも、ずっとあなたのそばにいたの」
さいですか。
「調子はどうだい? さっきよりは顔色はいいようだが、まだ辛いだろう?」
「ん……、あー、さっきと比べれば……」
かなりいい、かなぁ。喋るのもあんまりダルくないし、……寧ろ、なんかテンション上がりそう。
てことは、かなり調子よくね? もう元気なんじゃね!?
「アサヒ、口を開いて」
そう思っていると、ユーリさんが体温計を手に、口を開くよう要求してくる。逆らう理由もないので素直に口を開いた。さて、どのくらい下がってるかな。
「少しは下がったが、やはりまだ高すぎるな」
「ええ。ほら、あなたはまた休みなさい」
「調子、結構いいのに」
「熱が上がると、テンションが上がって、調子がよく感じられたりもするからね。実際はまだ高い、休みなさい」
寝ろと言うフリードさんとユーリさん、それに嫌と答える私。その中でのんびりと医者が口を挟んできた。……あー、確かに熱高いと、半端に高いときより調子いいよね。
………何、このテンション、そのせい? うわー、一気にテンション下がった。そのせいか、一気に具合悪くなった。
「大丈夫? 辛いなら休みなさい、ね?」
病は気からと言う日本のことわざの意味を身を持って知った瞬間だった。そして、それに気づいたのかユーリさんたちが続けざまに私に休むよう言う。
うん、もう寝るね。まだ熱が高いことも分かったから、余計具合悪くなったような気もするよ………、しくしく。
あ、ホントに悲しくなってきた。泣いちゃいそう……てか、泣いてた。
「アサヒ? あぁ、辛いのね。ほら、ゆっくり休んで、元気にならなくちゃね」
「ん………」
セフィリアが私の頬を伝う涙を拭いながら言う。うん、辛いの嫌だから、早く元気になりたいな。早く元気になって、また、この街を歩き回るんだ。
その考えが最後だった。私はいつの間にか、また眠っていた。また、夢を見ていた。
*****
「お、偉いぞ朝陽」
「あらホント。おいで、朝陽」
「おとーさん、おかーさん」
これ、いつの夢なんだろ。お父さんたちに言うことを何も疑わず、ただ信じていた頃。お父さんたちに言うとおりにしていれば褒められた。お父さんたちの言うことは、私にとって全てが正しかったのだから。
そうやって、言うことを聞いていれば褒められた。褒めて、可愛がってくれた、抱き上げてくれた。
「朝陽、大きくなったわね」
「まぁ、まだ平均よりは小さいが、まだ伸びる。安心しろ」
「うん、朝陽、おっきくなるよ!」
純粋だったあの頃。本当に何も疑わなかった。疑わず、言われるがままに薬を飲み、家で過ごしていた。
家での生活は確かに面白くないと思えることもあった。だが、大半は楽しかった。元々外と言うものを知らないから、家の中にいるのが普通だったから、何の問題もなかったんだ。
それに、退屈なときはお母さんのところに行けば、本を読んでくれたり、一緒に遊んでくれたりってしてたしね。
まぁ、お兄ちゃんたちが学校から帰ってきたら、すぐにお兄ちゃんたちに遊んでもらいに行ってたけど。
「ただいまー」
「あ、おにーちゃん、おねーちゃん、お帰りー」
「ただいま、朝陽」
「おにーちゃん、おねーちゃん、宿題終わったら遊んでー」
「もちろん、いいよ。終わったら呼びに来るから、それまではお母さんと一緒にいてね」
「うん!」
素直に言うことをきいていたあの頃。お兄ちゃんたちに遊んでもらえるのが楽しみで、お兄ちゃんたちの宿題が早く終わらないかと、うずうずしながら待っていた。
そして、お兄ちゃんたちが呼びに来てくれたら、飛びつくようにお兄ちゃんたちのところに駆け寄ってたんだっけ。
「お待たせ。さ、何をして遊ぶ?」
「朝陽、無理したらダメだからね。健、陽菜、無理させないでね」
「分かってるよ。朝陽も分かってるよね?」
「うん! 無理せず、大人しく遊ぶよ!!」
ま、たまには無理して遊んでたけどさ、それで熱出してたけどさ。それでも、あの頃はとにかく楽しかった。何も考えず、流れに沿って生きていたあの頃は、本当に楽しかったよ。
自由を知らず、与えられた生活を自由と思い、生きてきた。
この世界に来て、初めて本当の自由と言うものを知って、奪われた。
私はどれだけ自由を恋しているのだろう。
奪われたからこそ、また余計、恋しくなった。
自由な生活。
迫り来る命の期限に怯えることのない日々。
生きることを、諦めなくてもいい、この時間。
それが、どれだけ幸せなものか。
それも全て、この世界に来て初めて知った、それまでは知りえなかった。
その事実が、とても悲しくて。
私のアブノーマルさを、まざまざと見せ付けられて。
私は、普通とは違う生き方をしてきていたのだと。
私の生き方は、普通とは全然違ったのだ。
*****
「アサヒ? 嫌な夢を見たの?」
「お……かあ、さま?」
「どうしたの? ほら、もう大丈夫」
ユーリさんはそう言いながら、私の目元を濡らす涙を拭い、そして、頭を撫でる。………いつの間にか、フリードさんとセフィリアは退室していたようだ。
「もう何も怖くない、大丈夫よ」
「うん……」
「さ、もう一度休みなさい。多分、また熱が上がってるからね」
「ん……」
ダルイ、辛い。でも、もうしばらく眠れそうにはないかなぁ。
「眠れなくても、起き上がったらダメよ。あ、お水飲む?」
「あー、ちょうだい」
水を飲むからといって、起き上がらせてもらえるわけではなかった。私が横になったままでも飲めるように、………名前の分からない道具を準備していた模様。
名前分かんないし、教えてもらっても多分、今の私じゃ覚えておけないから、最初から聞く気も起こらない。
そして、水分を摂ったからか、無性にトイレに行きたくなってきた……
「どうしたの? 起きちゃダメでしょ」
「トイレ……行きたい……」
「大丈夫? 一人で行ける?」
言われて、ゆっくり起き上がって立ち上がる。………うおわっ!!
「少しだけ、ベッドで待ってなさい。人を呼ぶからね」
「うん」
起き上がって、立ち上がろうとした瞬間にふらついて無意識にベッドに戻された。
そして結果、ユーリさんがメイドさんを呼ぶのを待ち、呼ばれてやってきたメイドさんたちに手を借りてトイレへと向かい、用を済ませて戻ってくることになった。
そしてもちろん、戻ってきた後はまだベッドの上、その上に横になるようユーリさんからの指示、と言う名の命令を受けた。
「横になってないと善くならないでしょう? ゆっくり休んで、早く元気にならなくちゃね」
そして、善くなったらまずはお説教ね。にっこり笑って言うユーリさんに、本気で善くならなくてもいいよう思えてくるのは私だけではないと思う。
確かに辛い、辛いけど、お説教も本気で嫌。お説教とか、地獄以外何でもないでしょう。
「陛下やハリー様、トリス様も心配されているんですから、早く元気にならなくちゃね」
「あー」
そいや、王様やハリー兄様からのお説教もあるんだよね、きっと。お説教は受けたくないけど、それでも早く元気にはならなくちゃなぁ。辛いし。
そうしていると、メイドさんが何かを持って部屋に入ってきた。そして、私の頭を持ち上げ、その下にその何かを置く。……あぁ、氷枕だ。ひんやりして気持ちいい。そして今度は額に濡れたタオルを置き、その上に氷嚢を宛がった。
ちょっとこれ、上から下から冷気が伝わってきて幸せすぎるんだけど。ヒートした頭の熱が地味に奪われてるよ、幸せだよ。
「熱のせいで頭が熱いから、気持ちいいでしょう?」
「うん、すっごい気持ちいい……」
リアルに頭が沸騰してるっぽいから、この氷は最高すぎる。……って言うか、私の今の熱は随分と高いようだ。
――――だって、額に置かれた氷嚢を見てみると、そのたびに中の氷の量がごっそり減ってるんだもん。
「頭が冷えると、寝やすくなるでしょう? ほら、お休みなさい」
「うん……おやすみ、なさい……」
確かに、さっきまではなかった睡魔が少しずつ襲い掛かってきている。休めと言うのだ、抗わずに寝ることにしよう。
また、夢を見る。その夢がまた幸せで、幸福で。
夢から醒めて、それが夢だったのだと知るのがとても辛くて。
でも、夢自体はとても幸せなものだったんだ。
その幸せは、眠っていても表情に表れていたようだった。
「いい夢を見ていたのね」
目を覚ましてから、にっこり微笑んだユーリさんにそう言われるほどに。
そう言われている間も、まだうつらうつらとしていたためか、その後の記憶がない。いつの間にかまた眠っていたらしい。その後は夢を見ず、ただただ眠っていた。
起こされたのは、食事の時間になってからだった。ずっとそばにいたらしいユーリさんと、いつの間にか戻ってきたフリードさん、セフィリアに起こされた。
「起きて、アサヒ。ご飯食べて、薬を飲もうね」
「起きなさい。食事を摂って、薬を飲んだらまた眠っていいからね」
「ん………うーっ……」
ゆっくりと起き上がって体を伸ばす。うん、さっきよりは調子がよさそうだ。
「大丈夫? 自分で食べられる?」
「だいじょぶ……です」
さっきよりも調子いいしね。ご飯食べるだけなら多分、自分でも大丈夫だと思う。
事実、メイドさんからスープの入った器を受け取り、スプーンで掬いながら少しずつ口に運んでいったのだが、若干危なげではあったかもしれないが、さほど問題は無かった。
まぁ、ユーリさんやセフィリアはすっごい心配そうに見てたけどね。はらはらと音が聞こえる気がする。あ、フリードさんだけは優しく見守っててくれたんだけどね。
「アサヒ、平気? 大丈夫?」
あー、はらはら言う音が大きくなったぞ、おい。心配しすぎなんだってば。辛ければ正直に甘えるから、そんなに心配してないでよ。
「ごちそーさま」
「もういいの? なら、お薬飲んで、また寝ようね」
「うん」
そう言っていると、セフィリアが薬と水の入ったコップを手渡してくれたので、受け取って若干無理やりながら流し込む。うえ、苦い。
「ちゃんと飲んだね。なら、また寝てなさいね」
「多分、しばらく眠れないよ」
「なら、せめて横になってなさいね。あ、体、拭く?」
「いや、いい。元気になったらお風呂入る」
今、体拭くとか言ったら、絶対にユーリさんやセフィリアが喜々としてやるでしょ? 私に自分ではやらせてくれないでしょ?
「んー、じゃあ、何か本でも読もうか? 聞いてたら眠たくなるかもしれないでしょ?」
「そ………だね。お願い、セフィリア」
そういえば、小さい頃も、よく寝る前にお母さんが絵本とか、読んでくれてたっけ。調子が悪いときは、夜じゃなくても読んでくれて、読んでもらってると何故か、眠たくなくてもぐっすりと眠ることが出来た。
だから、本を読んでもらうのは好きなんだよねぇ。寝る前に本って聞くと、お母さんたちのこと、思い出すよ。
そして私は、小さい頃のことを思い出したのか、セフィリアに本を読んでもらっている間に、いつの間にか夢の世界へと旅立っていた。
そうやって数日間を過ごして、私の熱はようやく下がる兆しを見せ始めた。少しずつ、熱が下がるようになってきたのだ。
いやー、それまで高熱が続くこと続くこと。体調の悪さは最強的だわ、下がらないからって毎日のように医者の診察を受ける羽目になるわで……、本当に面倒だった。
それに、熱が中々下がらないからか、兄様たちまでお見舞いに来てくれたりしてたしね。いやいや、お見舞いに来てくれるのはいいんだけど、怒られそうで怖いです。
でもまぁ、私の熱が完全に下がる前ではお説教は控えておいてくれる予定らしく、とりあえずまぁ、心配だけに終わった。
「ゆっくり休んで、早く元気になるんだよ」
その言葉、結構重たいですよ、兄様たち。早く善くなって、早くお説教を受けろと言う風に聞こえますから。
でも、確かに早く善くはなりたいんだよなぁ。てか、何でここまで善くならないのかが一番謎なんだが。定期的に診察に来る医者に相談は、してるんだけどさぁ。
「無理のしすぎです。体力の無いままに無理をするから、熱も上がって、体力も奪われ、回復にも時間がかかっているんでしょうね」
「早く善くなる方法、ないの?」
「しっかりと薬を飲んで、ゆっくりと休むくらいしか方法はありませんよ」
相談しても、こんな答えしか返ってこないんだよね。休まないと善くならないって、そんなもの嫌なくらいによく分かってるよ。
善くならないから辛いんだよねー。だって、下がるまでは、ってお風呂もダメって言われるし、そのせいで体がべたべたで気持ち悪いし。
結果としては、頼んで体は拭いたよ。自分で拭くって言っても、無理するなって、拭かれたよ。
あれは心の底から、恥ずかしかった。怪我してるときとかは自分で動けないからって、自分で自分を納得させたけどさ、今は動けるんだから、自分でやらせて欲しかった―――
と、そんな生活を更に数日間続けて、私の熱はやっと平熱まで戻ることとなった。