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探し物は何?  作者:
13/22

消えてもいいですか?


 初代国王以下数名の王家の人たちに、異界に関わることを禁じられて、早三ヶ月と言う年月が経過しました。

 現在、私のストレスは最高潮です。家にいるとき以外、自由に行動できないこと、自由な時間がないことによるストレスです。おかげで胃が痛い。

 つまるところが、もう限界なのです、本気でヤバイのです。なので、決めました、家出します。自由の無い生活なんてやってられません。なので、家を出ます、探さないでください。

 もう、異界も何もかも、どうでもいいです。


 とりあえず、今の私は、また死にたいと考えるようになりました。どうせ一度死んでるんだから、もう、生きたいと言う感情を失ってしまいました。



『家を出ます、探さないでください。アサヒ』


 部屋にそう書置きを残し、家を出る。外はまだ真っ暗だった。グラディウス家の人、メイドさん、街の人々が寝静まっているこの時間が家を出る唯一の、そして最高のチャンス。

 荷物は、特には持っていない。だって、目的は死に場所を探すことなのだから。これ以上、自由の無い生活を送るくらいならば、死を選んだほうがマシだ。だって、全てに疲れたんだ。……もう、いいでしょう?

 私は自由がないと生きていけない。日本では自由が無かったから、余計自由を渇望していた。その自由が奪われると言うのならば、こんな命、もう必要ない。


 街は、見張りの兵士さんたち以外が眠っていて、本当に静かだった。その静かな街を、あまり音を立てないよう気をつけながら歩く。

 とりあえず、街を出よう。兵士さんにばれずに出られる場所を見つけておいたから、そこからこのシルヴァニオンを出る。そして、フリードさん以外が治めている街へ向かわなくてはならない。フリードさんが治めている街へ行ったら、すぐに見つかり、連れ戻されるだろうから。


「寒い………」


 いくら中間期で気温が上がっているとは言えど、やはりまだ夜は寒い。でも、もう戻れない、戻らない。今戻ったら、もう自由を得ることは出来ない。

 そう思いながら、私は兵士の目を盗み、シルヴァニオンを出た。兵士を取り次いでいない分、セフィリアたちの探索もこのシルヴァニオンだけで済むだろう。そうすれば、逃げられる。セフィリアたちに知られること無く、死を選ぶことが出来る。

 死ぬとは言っても、特別何もする必要はないだろう。何せ、この土地は昼と夜の寒暖差が激しい。それだけで十分に体力を奪われ、衰弱し、死ぬことが出来るだろう。


 街を出てしばらくして、ようやく太陽が昇り、シルヴァニオンの街を優しく照らす。いつも見ることが出来なかった日の出、日の昇る前に目が覚めることなんて一度も無くて。だからこの日、私は初めて日の出というものを見た。……きれい。

 あぁ、そろそろグラディウス邸では騒ぎになっているのだろうか。部屋に置いてきた書置きを、誰かが見つけたのだろうか。

 探さないで、死なせて。お願いだから、心から、お願いするよ―――


 *****


「旦那様、奥様、お嬢様! 大変です、アサヒ様のお部屋にこのような書置きが……っ!」


 この日、グラディウス邸では騒ぎが起きていた。原因は、突如いなくなったアサヒだ。アサヒを起こしに来たメイドがアサヒがいないことに気がつき、そして書置きの存在に気がついたのだ。

 そして、その内容を見たメイドは、自分たちだけで探す前に主一家に報告をすべきだと考え、その書置きを持って報告に来たのである。

 そして、セフィリアたちは見た、見てしまった。アサヒの置いていった書置きを、その紙に書かれた、家出の定番文句を――


「探せ! 私兵を出して探すんだ! 早く……、早く見つけなくては……」


 それを一緒に見ていたフリードが、まず大きな声で指示を飛ばす。それと同時にその指示を聞いていた私兵たちがいっせいに動き出した。


「私も探してきます」


 それに続き、セフィリアがそう言って家を出、街の中を捜索に向かう。


「陛下にお伝えしなくては……」


 最後に、ユーリが小さく呟き、そして通信機を使って王に連絡を入れる。


 ―――グラディウス邸は、嵐が来たかのように騒然となった。


 *****


 シルヴァニオンを脱出して、時が流れました。私は日々、適当に歩き回る生活を送っています。方角なんてものを一切気にせず、ある街に着けばその街で休憩して、また旅に戻る。

 とりあえず、私は旅人、と言うことにした。成人するまでの間に、社会勉強を兼ねていろいろな街を見て回っている、と。そういえば、街の人から変な目で見られたりしないからだ。

 そしてもちろん、名前も偽名を使った。グラディウスの名、東条の名を出すことはしない。出したら即座にバレるから。バレたらフリードさんに連絡が行くこと必須だから。


「あんた、名前、何てぇんだい?」

「ミリィ。本当はミリディアナなんだけど、ミリィのほうが言いやすいから、そっちを使ってるんだ」


 ミリディアナ。昔、日本で読んだ本の主人公の名前だ。まさか、こんなところでその名前を使うことになるとは思わなかったよ。

 でも、その名前のおかげで全然バレていないらしい。顔を知られていないというものは、かくも平和なものなのか。

 あぁ、グラディウス邸を出て、本当にどれくらいの時が流れたんだろう。普通に旅をするだけでは、死ねないと言うことが嫌なくらいによく分かった。だから、今は純粋に旅を楽しんでいる。セフィリアやシルヴァニオンの人たちと関わっていたおかげで、私の人見知りもかなりよくなってたしね。

 だから、いろいろな街の人との関わりは、本当に楽しかったんだ。


「ミリィ、今日、この街を出るんだったかね?」

「うん、成人するまでに、いろんな街を見て歩きたいからね」


 だから、一つの街にあまり長居するようなことはしなかった。長居しても約一週間、短ければ三日間。それでも、十分に楽しめた、だからいいんだ。


「そうかい、なら、気をつけていくんだよ」

「ありがとう。また、いつか会おうね」


 人と付き合うということは、関わると言うことは本当に楽しい。街を出ると言うと、その街で仲良くなった人は、絶対に心配をしてくれた。それが、嬉しくて、楽しかった。だから、いろいろな街を巡り、たくさんの人と関わった。

 街によって、人の態度は随分と違った。旅人に優しい人もいれば、露骨に早く出て行けと言ってくるような人もいた。だが、ここはあの王様の治める国。人の本質は、本当に素晴らしいものだった。

 だから、このたびは本当に楽しく思える。死ぬことを諦めて、本当によかったと思う。グラディウス邸を出て、よかったと思う。だって、私は自由なんだから。


 ―――私はそうやって、数ヶ月を過ごし続けた。


 歩き続けていると、街が見えてくる。今日はその街で休もうと考え、街へ近づく。


「こういう顔の少女を見かけなかったか?」


 街の入り口に、近衛兵の制服を着た兵が三名ほど立ち、何かの書かれた紙を街の人に見せている。………嫌な予感がふつふつと浮かび上がってくる。

 ったくもう、面倒な。そう思いつつ、自分で開発した幻術の魔法を自分にかけて見た目を変える。……まぁ、髪の色と目の色を多少いじくるくらいだけどね。

 そして、自分の姿が変わったことを確認して、私は街の入り口へと近寄った。


「すみません、街に入りたいのですが、通していただけますか?」


 私が通してもらおうと声をかけると、入り口に立っていた兵は「失礼」と声をかけ、私の顔を覗きこんできた。


「……似ているな」

「だが、髪と目の色が違うだろう。我々の探している少女は、髪も目も、黒だ」


 ちっ。やはり彼らが探しているのは、私、アサヒ・ウェルズ・グラディウスだったか。しかも、彼らは近衛兵、つまり、これは王様も動いていると言うことだ。髪と目の色を変えておいて本当によかったよ。変えていなかったら、即座に王様に連絡が入って連れ戻されるところだった。


「入ってもいいですか?」


 さすがに、入り口に立ちっぱなしは疲れるんだよね。だから、もういいなら通してもらえます?


「おっと、申し訳ない。はい、どうぞ」


 そして私は近衛兵の一人に誘われ、この街へと足を踏み入れた。

 が、危険を感じたのでこの街への滞在期間はいつも以上に短くし、翌日には街を出た。だって、まだ、捕まりたくない、帰りたくないんだ。


 が、不幸というものは続くものなのだと、今、本気で思う。次に訪れた街の入り口にも、何故か近衛兵がいた。私はまたも、幻術で髪と目の色を変えて、街へと近寄る。


「すみません、通していただけますか?」


 そう言って入り口へ近寄ると、近衛兵はまたも一言断り、私の顔を覗き込んでくる。じろじろ見るな、気持ち悪い。

 まぁ、髪と目の色を変えているから、そう簡単には分からないだろうからいいのだが。

 そんな私に、近衛兵はにっこりと微笑みながら、且つ、無視を許さない態度で話しかけてきた。あ、なんか危険な感じ?


「失礼ですが、お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」

「………ミリディアナ」

「身分を証明できるものはおありですか?」

「………残念ながら、今は持ち合わせていません」


 ………怪しまれてる、絶対に怪しまれてるよコレ。さて、どうやって誤魔化すべきか。ここで捕まると、間違いなく危険だ。

 まったく、この国に髪の色や目の色を変える技術は無いから、ばれないだろうと考えていたのに、何でバレそうになるかな。

 そう思っていると、先ほどの近衛兵が更ににっこりと微笑みながら話しかけてきた。……危険度が増した気がする。


「しばらくこの街に滞在なさるのですよね?」

「その予定です。……迷惑でしたら今すぐにでも去りますが」

「いえいえ、迷惑なんてこと、全然ありません。ただ、あなたに会っていただきたい方がいらっしゃいまして……」

「私に? 一体、どこのどなたですか?」

「ある、偉いお方です」

「一般庶民の私に、偉いお方が何のご用なんです?」

「私たちには分かりかねます」


 やべー、明らかにやべー。偉い人って、誰だよ。セフィリア? フリードさん? ハリー兄様? トリス兄様? 王様? ……はないか。

 でも、王様以外なら、間違いなくバレる。あの人たちに、髪や目の色を変えただけじゃ絶対にバレる。何となく、分かる。……どっしよ。


「その偉いお方とは、いつお会いすることになるのですか?」

「明日か明後日にはこちらへ参られる予定ですが、不都合等、ありますか?」


 ……ここ、シルヴァニオンから結構離れてるよね? 何で明日明後日には来れるのかな?

 三日以上かかるようなら、いつもの都合を使って逃げる予定だったのだが、これでは逃げられない。

 自分に問いかけても答えは出ない。なら、何も考えず、いつものように街を楽しみながら考える、そう決めた。


 と言うわけで翌日。私はいつものように街を回り、今後の旅に必要なものを購入し、また、前の街で買った工芸品などを売りさばき、旅の資金としていた。


「おや? 見ない顔ですね。旅の方ですか?」

「はい。いろいろな街を回っていて、昨日この街に着いたんです」

「旅ですか、気をつけてくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 うん、やっぱり街の人との会話は楽しいね、嫌なことも吹っ飛びますね。……だから、邪魔すんじゃねぇよ、近衛兵。


「ミリディアナ嬢、探しましたよ」

「偉いお方が到着なさいました。着いてきてください」


 ……もう、来たの? 早すぎだろ。

 さて、誤魔化せればいいが、どうだろうか。来ているのは、そうやってだまされてくれるような人だろうか。

 そんなことを考えながら近衛兵の後を続くと、宿屋へと戻ってきた。そして、近衛兵は一番上等の部屋の前で止まる。


「閣下、連れて参りました」

「ご苦労様、その子だけ部屋に入れてくれる?」

「畏まりました。ミリディアナ嬢、お入りください」


 ……すっごく入りたくない。だって、来てるの、セフィリアじゃん。バレる、絶対バレるって、コレ!

 だが、入らないと言う選択肢は無い。ので、とにかくバレないことを祈りながら、部屋へと足を踏み入れた。


「失礼します」


 部屋に入り、扉を閉めて一度礼をする。そして、顔を上げるとそこには見たくない顔がもう一人いた。トリス兄様も来てたんですね、………詰んだ。


「今日は突然会いたいなんて言って呼び出して、本当にごめんなさいね」

「いえ………」

「……なんて言うと思った? ―――探したよ、アサヒ」


 やっぱバレてた!!! でも、まだ諦めない。私は、まだアサヒには戻りたくないんだ!


「どなたかとお間違えではないですか? 私は、アサヒなんて名前じゃありません。私の名前はミリディアナです」


 ここで一度言葉を切る。そして、息を吸ってはっきりと、次の言葉を紡いだ。


「お話がこれだけなら、もうよろしいですか?」

「ふざけるのも大概にしなさい。ほら、いい子だから一緒に帰ろうね」

「帰る? どこにですか。私は、セフィリア閣下やトリス閣下とは関係のない街で育ったのですが」


 セフィリアたちの私を見る目が痛い。何か哀れむような瞳。見たくない、だから。だから、早く諦めてよ―――


「忘れたの? あなたの名前はアサヒ。アサヒ・ウェルズ・グラディウス。私の、妹でしょう」

「違います。私はグラディウスの名を名乗れるほどに偉い人間でもなんでもない、ただの一般市民です」

「それこそ違うだろう。アサヒ、お前が選んだんだろう、グラディウスを名乗ることを。それを、今さら覆すのか?」

「元々、私はグラディウスなんて名家とは何の関係もありません。……もう、退室をお許しください」


 私がそう言って二人に背を向け、扉の方へ歩みだそうとした瞬間に、突然、後ろからセフィリアに抱きしめられた。


「馬鹿を言わないで、アサヒ。あなたがいきなりいなくなって、どれだけ心配したと思うの? どれだけ多くの人が心配したと思うの? ……見つかって、どれだけ安心したと思うの?」

「だから……違うと………」


 言っているじゃありませんか。そう、続けたかったのに涙に邪魔をされて、言えなかった。あぁ、何でここで泣いた。これじゃ、白状しているようなものだ。

 でも、でもそれでも涙は止まらない。嗚咽はとめどなく零れ続ける。……あぁ、もう幻術を使って変装をしている意味が無い。だから、今ここで、かけている幻術を解く。あぁ、私はアサヒ。アサヒ・ウェルズ・グラディウス。もう少しミリディアナでいたかったけれど、それはもう叶わぬ夢だ。


 私が幻術を解くと、私を抱きしめていたセフィリアは一度抱擁を解き、そして、私を百八十度回転させ、自分の真正面に立たせる。


「おいで、アサヒ」


 そして、優しく私を呼んだ。その瞬間、また涙が零れる。

 何で、泣いてるんだろ、私。ここで一緒に帰れば、また自由の無い生活が待っているのに、何で泣いてるの?

 自由の無い生活を送ることになるのが、辛いから? でも、この涙は悲しみの涙じゃないよ、きっと。じゃあ、どうして?

 そう考えていると、突如、頭を鈍い痛みが走った。そのせいで、考えていたことが全て吹っ飛んでいく。……ちなみに、痛みの原因は兄様からの拳骨でした。とっても痛いです。


「これが私からのお叱りだ。……まったく、本当に心配したんだぞ」

「ごめ……なさ……、ごめん……さ……」

「無事に見つかった、それでいい。元気そうで、本当によかった」


 兄様はそう言って、私を抱きしめているセフィリアごと、私を抱きしめた。二人から伝わるその熱が本当に気持ちよくて、泣いた疲れもあるからか、どんどんと眠気が襲い掛かってきた―――


「眠いなら寝なさい。無理しなくていいから」


 そんな私の状態に気がついたのか、セフィリアは優しくそう言い、そして、私をベッドへと誘う。……うん、眠たい。だから、今は休ませてね。



「………はい、見つけました。今は泣き疲れて眠っています」

「安心しろ、セルド。見た感じ、怪我をしている様子も無い、元気そうだ」


 何か、聞こえる。セフィリアとトリス兄様の声だ。通信機で、どこかに連絡を入れているのか。兄様の相手は王様だって分かるんだけど、セフィリアは、誰に連絡してるんだろ。

 そう思いながら目を開くのだが、目を射すほどに明るい光を感じ、反射的に目を閉じ、その上を手で覆う。それに気がついた兄様が、連絡を取りながら部屋のカーテンを閉め、部屋に入る光を緩めてくれた。それを感じ、ゆっくりと目を開く。


「おはよう、アサヒ。よく眠れた?」

「おはよ……セフィリア」


 セフィリアはそう言ってにっこり微笑み、通信機をこちらへと差し出す。……えっと、相手、誰? ビクビクしながら通信機を受け取り、耳に当てる。それと同時に、声が聞こえてきた。


「久しぶりね、私の声が分かる?」

「……お母……様?」


 相手はまさかのユーリさん。本当に、久しぶりだ。こうやって話をするのは、家を出る前の日にいつものように軽い会話を交わして以来だろうか。


「どうして何も言わず、いきなり出て行ったりしたの? みんながどれだけ心配したと思っているの」


 え。これまさか、通信機越しでお説教? それは勘弁してください。お説教自体嫌いだし、それに、さっき大泣きしたせいか、なんか体がダルいんだよね。

 ……ていうか、これ、グラディウス邸に戻ってからが一番危険ではなかろうか。私は何人からお説教を受ければいいんだろうねぇ。……逃げればよかった。

 ま、今からでも逃げようと思えば逃げられるんだけどね。やらないけどね。………だって、やったら絶対に後が超絶怖いもん!!


「まぁ、お説教はアサヒが帰ってきてからじっくりしましょうね。……ちゃんと帰って来るでしょう?」

「……………………はい」


 通信機越しでのお説教は回避されたが、グラディウス邸に戻ったら確実にお説教となるようです、逃げたいです。が、ユーリさんのその質問は、帰ってこなかったらどうなるか、本気で恐怖を植えつける。だから、ちゃんと帰るよ?

 …………逃げようと考えたのが沈黙になってユーリさんにも伝わったけどね。本気で逃げたいけどさ。


「ちゃんと帰ってくるのよ? また、あの日みたいに心配で心配で眠れない夜は、もう嫌よ?」


 ……ここまで言われると、帰らないわけにはいかないでしょう? ま、そのうちまた書置きして逃げるかもしれないけどね。


 そうしてユーリさんとそうやって話をして、通信機をセフィリアに戻す。その後もセフィリアと兄様はいろいろな場所に連絡を入れていた。……私の捜索、どれだけ大掛かりでやってたの?

 帰るのが怖い、でも、逃げたら次に捕まったときが怖い。次は、トリス兄様からのお説教が拳骨一発で済むかも謎だしね。


 そして話を終えるとすぐに、私は宿の部屋の移動をさせられた。自分でとった部屋から、セフィリアの泊まっている一番上等な部屋への移動だ。そのままでもよかったのに。


「だって、逃げそうだもの」


 その一言であっさりと移動させられました。逃げないのに。


「たくさんの人にいっぱい心配をかけた罰。いい子だから受け入れなさい」

「それ言うの、ズルイ……」

「たくさん心配をかけたあなたに、それを言う権利はありません。それに、ちょっと心配なこともあるしね」

「心配?」

「そう、心配」


 その心配の内容について何度か尋ねてみたのだが、セフィリアから私の望む答えが帰ってくること無く、夜となり、私はセフィリアから尋問を受けていた。


「さて、どうして何も言わず、勝手に出て行ったのか教えてもらおうかな」

「まぁ、いろいろな理由がありまして」

「そのいろいろ、っていうのは何なのかな?」


 いろいろはいろいろだよ。とりあえず、セフィリアの質問を誤魔化そうとして失敗したね、コレは。セフィリアは顔だけ(・・)は、にこやかに微笑みながら、私の返事を待っていた。


「お昼に寝たから、まだ起きておけるでしょ? 夜は長いし、久しぶりにたくさんお話しようね」


 怖い。まぁ、確かにまだ眠たくはないけどさ……。でも、この恐怖だけは何とかなってほしい。

 と、とりあえず、意地でも誤魔化せるものは誤魔化しとおす!!


「セフィリアは、予想つかなかった? 私の家出の理由」

「今、聞いているのは私。アサヒは、私の質問に答えてね?」


 くぅ、ダメか。これでセフィリアが予想をしてくれれば、それで時間が稼げたのに。その間に睡魔の来襲を迎えていただろうに。これじゃ、誤魔化すのは無理じゃないか。

 表情は変えず、必死で頭の中で次の策略を考えている私に、セフィリアは更に笑みを深め、尋ねる。………恐怖感が一気に増しました。

 もう、これ、絶対無理。


「もう一度聞くね、どうして、何も言わず、勝手に出て行ったの?」

「………疲れたから」

「疲れたって、何に?」

「家の中以外、自由の無い生活に」


 家の中での自由は、私の中では自由とはいえない。家の中のみの自由は、日本にいるときとなんら変わらない。私の中でそれを自由と呼ぶことは出来ない。

 私は自由を渇望していた。だから、この世界に来たとき、身体が健康だと分かったときは嬉しかった、自由だと思った。でも、異界の一件から、私に自由が無くなった。それが、本当に辛かった。


「私は自由を渇望してるんだよ。だから、……辛かった、疲れていった」


 それに耐えられなくなって、家を出た。バレないようにこっそりと、兵にもバレないようこっそりと街を抜け出した。あれ以上、あのままの生活をしていれば、私はきっと、ストレスが原因で何か病気に罹っていたと、今なら本気で思える。それほどに、あの頃の私は危なかったんだ。


「だから、今も戻りたくないとも思うよ。今が、本当に自由だから」


 束縛の無い、何もかもが自分のものである自由。今まで知らなかった、知りえなかった本当の意味での自由。この世界に来て、私はそれを初めて知った。それの無い生活は、耐えられない。


「それなら、私たちに言えばよかったんじゃないの?」

「言っても無駄。心配だから、の一声でその話は全部ご破算」


 それが分かってるから、私は何も言わず、こっそり抜け出した。……てか、一回はユーリさんに訴えたしね。一人で街に行きたいと、行かせて欲しいと。でも、聞き入れてもらえなかった。

 分かってるんだよ、言っても無駄だって。だから、何も言わず、私は行動に移したんだ。


「実際に言ってみればよかったんじゃないの? そうすれば、みんなが心配することも無かったと思うよ」

「……言った」


 ユーリさんに言って反対された。ユーリさんが反対なら、セフィリアに訴えたとしても、もう無駄でしょう? セフィリアよりもユーリさんのほうが強いんだから。

 だから、無駄な体力を使わないためにも私は何も言わなかったんだ。


「あー……うん、ゴメン、かける言葉が見つからない」

「なら、放っといて」


 セフィリアは言葉に困り、下を向く。が、私は優しい言葉が欲しかったわけではない、だから、どうでもいい。

 私はね、自由が欲しい。自由を希ってる。だからね、くれるのなら、自由をちょうだい?


「とりあえず、続きは帰ってからにしようか。ほら、今日はもう寝ようね」


 ……反応に困ったか。でもまぁ、話が終わるのは歓迎だから大人しく受け入れる。

 まぁ、ベッドに横たわったところで眠れないんだけどね。さっきからセフィリアが定期的に私の背を軽く、叩いてくれるんだけど、やっぱり眠れないんだよなぁ。

 でも一応寝たフリだけは敢行する。


「私は兄様とお話してくるから、アサヒはきちんと寝てなさいね」

「ん」


 そう言って、セフィリアは部屋を出て行く。……さて、眠れないし、どうしようかな。今までは眠れないなら宿の人に一声かけて、街に出て散歩してたんだけど、これで抜け出したらセフィリアが怖いし。

 とりあえず、どうしよ。起き上がってたら文句飛んできそうだし。


 それから少しして、話を終えたらしいセフィリアが戻ってくる。……すぐに、寝ていないことに気づかれた。


「眠れなかった?」

「うん」

「私ももう寝るけど、勝手に出て行かないでね。出て行ったら、近衛兵だけじゃなくて、家の私兵も捜索隊に組み込むからね」


 コレ即ち、見つかった瞬間にフリードさんに連絡が入り、こってり叱られると、そういうことですね。面倒すぎる。


 その後、隣のベッドから健やかな寝息が音となり、私の耳に届く。セフィリアはもう寝入った模様。……さて、私は眠れないのだがどうしようか。


「……暇すぎる」


 昼に寝たせいで、本気で眠れない。セフィリアはずっと起きっぱなしだったから慣れるだろうけどさ、私はお昼に寝てるから眠れないんだよね。

 街に出たい、夜のお散歩がしたい、少し動いて睡魔を呼び込みたい。……よし、書置きしてお散歩しよう。


『お散歩してきます、すぐ戻ります。アサヒ』


 よし、書置き準備完了。さ、お散歩お散歩。ま、お散歩って言っても少し街を回るだけだけど、それでも動けば睡魔は襲ってくれそうだだしね。

 そう思いながら部屋を出ると、そこには近衛兵が立っている。見張り? まさかの見張り?


「アサヒ様、どちらへ行かれるんですか?」

「散歩に行くだけです、ちゃんと戻ってきますよ。書置きもしてますし」

「お付き合いいたしましょう」


 はっきり言おう、ふざけんな。私の望みは自由だと言うのに、近衛兵が付いてくれば、私から自由が完全になくなるじゃないか。だから、絶対についてくんな。私は一人で回りたいんだ。

 それに、ちゃんと戻ってくると、書置きをしてある。だから、最後の自由を、ゆっくり、満喫させろ。

 そう言ってみたが、はっきり言って意味なし。近衛兵はいぢでも付いてくるつもりのようなので、強硬手段に出ることにした。


眠り煙(スリープ・スモーク)


 魔法で煙を召喚し、その煙に自分の身を隠す。この煙に乗じて近衛兵を撒き、一人ゆっくり街に出るための方法だ。

 ついでに、煙に睡眠効果も入れておいたから、私が戻ってくるまでぐっすり寝ててくださいね。

 誰も付いてこないよう、このフロア全体に、この魔法を使っておく。ああ、これで自由が満喫できる。


 そうしてしばらく街を歩いて宿に戻ったのですが…………、兄様、怖いです。仁王立ちで立たなくていいでしょう、そ、そんな思いっきり睨まなくていいでしょ!?


「お帰り、アサヒ。兵を寝かせての散歩は楽しかったかな?」

「ただいま戻りました。………ごめんなさい」


 怖いので即、謝罪。だって、兄様の周りを取り巻くオーラがとっても危険なんだよ、怖いんだよ。コレで謝らなかったら絶対、また拳骨落ちてくるって!


「さ、早く部屋に戻って休もう。セフィリアも心配して、アサヒが戻ってくるのを待ってるよ」


 あの、兄様? わざわざ肩を掴んで、部屋まで歩かせなくてもいいと思うんですが。逃げませんよ? 逃げないってば。ちゃんと戻ってくるって、書置きしてたでしょ?


 そして部屋に戻ると、その瞬間、セフィリアにしっかりと抱きしめられた。


「アサヒ! いくら書置きしてあっても、心配するんだからね!」

「ただいま。……ごめん」


 書置きをしておいても、まだ不安だったのか。もう、逃げたりしないのに、ちゃんと戻ると書いてあるのに。うーん、近衛兵を眠らせてから出て行ったのが悪かったのかなぁ。でも、そうしないと付いてきてたはずだし。それだけは、避けたかったんだよね。

 だって、付いてこられるとすっごい邪魔じゃん! だから、わざわざ魔法使って眠らせたんだよなー。


「お帰り。さ、もう寝ようね。寝ないと明日が辛いからね」

「……うん」

「じゃあ、私は部屋に戻る。セフィリア、アサヒを頼むぞ」

「分かりました」


 そう言って私はセフィリアにベッドまで無理やり連れ込まれ、そして、セフィリアの寝ていたベッドで一緒に寝るよう、暗に訴えられる。

 いや、せまいでしょ、一つのベッドに二人で寝るのは。だが、セフィリアはとにかく、それを許してはくれないらしい。私が自分の寝ていたベッドへ向かおうとすると、自分のベッドのほうへと引っ張り、離してくれない。セフィリアが寝たかなー? と言うタイミングを図って逃げようとしても、セフィリアはしっかりと起きているのか、逃げさせてはくれなかった。

 …………また、家出してもいいかなぁ。


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