婚約破棄から始まる愛国令嬢の狂気お手紙【短編シリーズ】③ 狂犬
お待たせしました、ついに舞台は戦場へ
引き入れた隣国軍をルフ隊、王党派の軍が挟撃、
勢い侯爵閣下も堂々のご出馬あらせられ状況は決定的になったようにございます。
この場でわたくしにできることなどなさそうです。
弓の一つも射れればよかったのですが。
気持ちを切り替えましょう
わたくしは貴族女子で軍馬は乗れませぬ
されど当家の荷駄用の大蜥蜴に背負われ、悪路を踏破し戦地を確認しておりました。
馬の通れない道は敵もいない様子、この経路なら伏せたまま補給を通せるでしょうか
優勢になっても追撃が続けばルフ様たちの戦線が限界になると思うのです。
当家の兵に命じてルフ様に補給をご用意いたしました。
この悪路に伏せておれば安全に物資をお届けできましょうか。
馬は乗れませぬが、この子は悪路もものともしない利点がございます。
武はありませんのでこの目と頭さえ働けば大丈夫でございます。
地形の確認を終え、侯爵閣下のご本陣にひとまずご挨拶に。
「侯爵閣下の采配により祖国を汚した隣国軍を見事討伐なされたご様子、
まずはお慶び申し上げまする。
ささやかながら糧食の手配をさせていただいております。」
「…あのような文を寄こしておいてぬけぬけと」
なぜでしょう、侯爵閣下はご機嫌よろしからぬご様子。
お疲れなのでしょうか。
お届けした糧食がお口にあわなかったでしょうか。
それともこの程度の戦果ではご満足しておられぬのでしょうか。
救国の名将たれば、それはそうなのかもしれませぬ。
この程度で喜んでいたわたくしの怠慢を恥じ入る次第。
ならばなにか、ご満足いただけるよう励まねば
「侯爵閣下に申し上げまする、あの隣国が誇る不落の城を
閣下の手勢のみで落としてみてはいかがでしょうか」
「そなたは…本当に、本当に何を言っているのか?」
そうだ、具体的な方法を説明せず先走ってしまいました。
どうも気が急ぐとわたくしははしたなくてお恥ずかしい。
以前はこのように気が急くこともなかったように思うのですが。
「あの隣国の城は攻城兵器がないと厳しいですが、
大梯子だけでルフ様が登ればそこを起点に侯爵閣下の兵が続いて落とせそうに思うのです。
ルフ様、できましょうか?沢山の矢が降り注ぐ中ではございまするが」
「造作もない。俺には届かん」
ルフ様とわたくしを交互にお見つめになったあと、
侯爵閣下が青ざめておっしゃいました。
「ルフよ、貴様正気か」
凡俗にはこのようなお願いをすることはなかったでしょう、策ともいえない無謀にございます。
しかしながら武神たるルフ様においては、敵に突きつける鬼手となりえるのではないかと思うのです。
ましてやその父たる侯爵閣下が知らぬはずもございますまい。
これが親子の情というものでしょうか。
尊いものでございます。
わたくしも父にそのようなお言葉をいただければ天にも昇る心地でありましょうとも。
「ルフ様、お流石にございまする。ルフ様が城壁に起点を作り、
侯爵閣下の兵が続いて城壁を制圧、武功はすべて侯爵家のものと言えましょう」
そうなのだ、ここで当家がでしゃばってはなりませぬ。
これは救国の名将たる侯爵閣下の名のもとに行われた戦なのだから。
「ならば出る」
ルフ様が突撃しようとするのをおとめせねば。
「お待ちくださいませ、ルフ様」
「…なんだ、狂犬」
「今出られればあなた様に恐れをなして逃げ散りましょう。
今少しお待ちいただければ、すでに向かっている当家の将が
一隊をもって退路を断つと申しておりました。」
「…それで?」
「あなた様のご出馬で愛すべき祖国を害そうとした賊徒、
ただの一人たりとも隣国へ帰してはなりませぬと思うのです。
侯爵閣下、ルフ様いかがでしょうか」
「任す」
侯爵閣下は無言でございましたが、
異論のなきを裁可とし、わたくしは安堵にございました。
「恐れながらも謹んで申し上げまする。
わたくしがあの丘にて合図いたしますゆえ、それまではご休息くださいまし」
わたくしを背負うと丘に向かって大蜥蜴が移動し始めます。
聞き分けのいい子だこと。
「ルフよ、あの娘はなんなのだ。犬のようだと申していたではないか!」
「…狂犬…だな」
「あれが…我が家に嫁入りしてくるのか…」
そろそろ後方の遮断もおわったようでございますね。
声も届かぬこの場所では開戦合図は天上の舞と言われた我が舞にて。
わたくしにはこの場でできることなどないけれど。
これより死地に赴く皆様に少しでもご無事を願う気持ちを込めて
さらば、舞を一差し
お父様へ
初夏の候、ますますご健勝のことと存じ上げます。
御国の危急ゆえ戦場にて筆を執っておりまする。
侯爵閣下ご采配はまさに救国の名将、
ルフ様は天下無双の名を欲しいままにされました。
まこと喜ばしいことにございます。
当家がその陣列に加えられたは末代までの誉にございます。
将兵たちは役割を果たし、敵国の退路遮断に成功したことをご報告いたしまる。
どうかお父様自らねぎらってくださいませ。
僭越ながらお二人への恩賞について試案がございまする。
ご無礼ながら陛下の御前にて直接上奏いたしたく、
かように取り計らっていただけますようお願いいたします。
当家の荷駄用の大蜥蜴、なかなか役に立つとわかり収穫にございました。
少々強い揺れがありますゆえに、娘は舞にて少々修練しておりますが、お父様はご無理をなさらぬよう。
追伸、長らくお父様のご懸念でした辺境城も、ルフ様が梯子にて城壁へお登りとなり
天下無双の舞にて敵の士気は砕けました。
侯爵閣下の兵も続かれましたゆえ、攻城は滞りなく相済みましてございます。
かしこ
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シリーズ続編も順次投稿いたしますので、よろしくお願いいたします。
7/2(木)18:10予定
政治決着のため、愛国ちゃんの脳内会議が全力稼働。
皆が貴族の義務を果たすなら、答えはただ一つ。
追伸、ところで婚約ってどうなったんでしたっけ?
かしこ




