願いと祈り
赤鎧は2人に気付き礼儀正しくお辞儀をした。
「ッ!」アルベール
バンッ!
赤鎧は左手でアルベールの右側に居たシルフィードの頭を鷲掴みにしぶっ飛び岩に叩き付けられる。
「シッシルフィー!!!」
身代わり付与でダメージはアルベールに入る。
鎌を構えてシルフィードの救援を図るアルベール。
直後、赤い雷がアルベールを襲う。
「クッ……」
交わす。
交わした時、視線が自然と足下に。
顔を上げる。
目の前に口を開けた赤鎧。
ヴォォーン
ドォォドォー
赤鎧の口から放たれた砂嵐が直撃するアルベール。
2人とも、バフの重ね掛けはしている。
意識を張り巡らせれば赤鎧の速さには対応出来る。
だが、一気に場の雰囲気から陣形までも赤鎧に持っていかれた。
理由はなんだ?
慢心。
そう、ただの慢心。
1人は何度も金鎧を倒した事があり、1人はその攻略ロムを何度も何度もを視聴していた。
だから、早く倒して帰ろう。
刈る前提で事を考えていた。
そんな気持ちでフロアボスと対面……
相手は想像していた相手と違う。
一瞬の出来事で頭が回らない。
0から100へ。
あるいは
100から0へ。
事の振り幅に理解が追い付かない。
赤鎧は胸から物干し竿くらいの長い剣を取り出しアルベールを追撃する。
カンッ!
鎌で対応するアルベール。
カンッカンッカンッ!
カンッ!カンッカンッカンッカンッ!
一進一退の攻防の中、
「オッラャャャャャャ!!!!!」
シルフィードが左から右にハンマーを赤鎧に振り抜いた。
ドンッ!
軽く吹っ飛ぶ赤鎧。
コクン。コクン。
品定めをし、納得したかの様な強者の風格を漂わせる赤鎧。
カンッカンッカンッ!
カンッカンッ!ドンッ!カンッカンッドンッ!
2対1でも崩れない赤鎧。
「オッラャャ!!」
シルフィードの攻撃を交わし、口から砂嵐がシルフィードを襲う。
ダメージはアルベールに入る。
(こいつは、やべーな。思ったよりダメージが入る………………)
カンッカンッカンッカンッ!
長剣と鎌の攻防、長剣を鎌の刃に引っ掻けて長剣を持つ右手側に大きく返した。
初めて出来た隙。
その瞬間に赤鎧は左手を開いた状態で拳を振るうモーションをアルベール目掛けて行う。
ブォーンン!
軽く吹っ飛ぶアルベール。
(おいおい……マジかよ。……)
剣を突くモーションから赤い稲妻が全身を纏う赤鎧。
突く。
赤い稲妻がアルベールを襲う。
バンッ!!!!
そのまま、もう1発さらに右回転しながら斜め下に長い剣を振り抜きもう1発。
バンッ!
バンッ!
先ほどの左手からの攻撃は風属性魔法ではない。
バフを打ち消す波動。
アルベールはバフ無しで計3発を食らった。
「アルッ!!!」
「オッラャャャャャャ!」
ハンマーを構えながら赤鎧に挑むシルフィード。
だが、差は歴然。
シルフィードの攻撃は交わされ、バフ打ち消しの波動からの赤い稲妻
バンッ!
直撃は避けたが、ダメージが大きい。
「うぅぅ……」
呻き声をあげるシルフィード。
今日の冒険者ギルドは騒がしい。
みんな、依頼掲示板を見るでもなく、受付カウンターに居るわけでもない。
みんな大型モニターに映る2人の戦いに釘付けだった。
「何だ!あれっ!!!」
「おい!やべぇだろ!」
受付嬢ルシェラも気になり勤務中ではあるが近くの冒険者に聞いた。
「何、騒いでるの?」
「あぁ、ルシェラちゃんか!」
「今、アルベールの奴が見たことも無い魔物と戦ってんだよ!」
「えっ!……」
ルシェラも仕事を忘れモニターに釘付けだった。
(お願いアル君、無事に帰って来て。)
何度も何度も頭の中で唱えた。
だが、どうみても2人は劣勢。
気付いたら、体が勝手に動いていた。
ドンッドンッドンッドンッ!
ギルドマスターの部屋を慌ててノックした。
「ギルマス!たっ大変です!
アル君がっアル君がっ!」
「落ち着け。」
ギルマスも部屋のモニターを通して把握していた。
「アル君が大変です!直ぐに救援準備を!」
「待て待て。」
「91Fを攻略出来る冒険者なんて限られてるぞ!」
「それに…………あいつを救援出来る冒険者なんて……居るわけ無いだろ」
「それに、あいつは組合も抜けてる…………」
冒険者組合。
冒険者を助ける事を第1に冒険者ギルドが運営するもの。
冒険者が今回みたいにダンジョン内の異状事態に巻き込まれた時に他の冒険者がその冒険者を助ける物。
30Fレベルの冒険者を80Fレベルの冒険者なら助けられる。だが、91Fを救援出来る冒険者なんてほぼいない。ましてや今回は特殊個体。
誰も救援出来ないのだ。
強者とは常に孤独だ。
誰からも手を差しのべて貰えず、調子が良ければ回りに人が居て、悪くなれば人は離れる。
ギルドマスター ウォーテルに少し裏で休めと言われ、更衣室に居たルシェラは泣いていた。
(また、…………何も…………出来ない。)
強く握られた拳からは血が滲み、顔は涙でぐちゃぐちゃ。
「あっあっあっ…………あっあっ……」
過呼吸気味になりながら、泣いた。
理性が感情を抑えられなかった。
(アル君、無事に帰って来てください。)
(アル君、無事に帰って来てください。)
少し、落ち着いたルシェラは優しく儚く何度も何度も頭の中で願い、血の滲む両手で激しく強く祈っていた。




