9.宜しい♡
「えーと」
学校の正門前。
前を歩く人物の背中を、亜夜さんは右手の人差し指で突付きました。
「那世ちゃん?」
「??」
立ち止まった振り返った那世さんに、亜夜さんの顔が最接近します。
「お願いがあるんだけど」
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「お゛」
亜夜さんの勢いに押された那世さんは、半歩ほど後退しました。
「─ お願いって、何?」
「この前、アーさんが着せられた服を貸して欲しいの」
「借りて、どうするの!?」
「着る。服って、そう言うものじゃん?」
「でもぉ…『着たくない!』って言ってたよね??」
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「那世ちゃんと…」
上がった亜夜さんの右手が、校門方向をさし示します。
「ショッピングセンターで、会ったんだよね?」
頷く那世さん。
先に動いた亜夜さんに続いて、自分も歩き始めました。
「もしかして、周平ちゃんの件?」
「…年上の大学生を、<ちゃん付け>で呼ぶのはどうだろう??」
「でも亜夜っちが、そう呼んでるし♪」
「<周平ちゃん>を、『周平ちゃん』と呼ぶのは、アーさんの特権なの!」
「─ はいはい」
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「その時にぃ」
横に並んだ那世さんに、亜夜さんが顔を近づけます。
「…あの服、着てたんだよね?」
「<亜夜っちの周平ちゃん>に会った時? うん、着てた」
「……昨日、その<アーさんの周平ちゃん>から電話があった」
「なんて?」
「………物凄く、可愛かったってさ」
「まあ、<亜夜っちの周平ちゃん>ってさぁ」
那世さんは、ニマニマしながら立ち止まりました。
「見る目はあるかもだよね。あの場でも、僕にそう言ってくれたし☆」
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「─ とりあえず」
亜夜さんは、右手を伸ばしました。
「校内に入らない?」
差し出された指に、那世さんが左手の指を絡ませます。
「じゃあ亜夜っち、着てって言われたんだ?」
結果的に那世さんを引っ張る形で歩き出した亜夜さんは、微妙に顔を顰めました。
「それは、言われなかった」
「僕が『亜夜っちは着るの嫌がってる』って、教えたからかもだね」
校門をくぐって数歩の場所で、亜夜さんは立ち止まりました。
「それはそれで、なんか悔しい」
「?」
「周平ちゃんの押しが強ければ── 『仕方ないなぁ』で、服を着る理由になるじゃん」
「…着たくない服なんだよね?」
「でも、那世ちゃんは言われたんでしょ? 周平ちゃんから『可愛い』って。」
「自分も言って欲しい訳だ。さすが恋する乙女だねぇ」
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「それで、貸してなんだ」
校舎の時計を確認した那世さん。
心持ち早足で、玄関に向かって歩き始めます。
「どっしよっかな」
後に続いて動き出した亜夜さんは、軽く唇を噛みました。
「じゃあ…同じ服をネットで探すかぁ……」
「うそうそ、貸すって」
振り返った那世さんが、亜夜さんにハグします。
「ここで貸さない程、僕は極悪人じゃないからね☆」
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<後日談>
「どう、周平ちゃん☆」
「亜夜ねーちゃん。か・わ・い・い♪」
「宜しい♡」
--- End of the Episode ---




