2.錯覚?
「さっきの、あの<五つ子>の話の続きだが──」
昼休み。
焼きそばパンを食べ終わった藍雨は、その袋を丸めた。
「…5人しかいないとは思えないほど、学内のあちこちで目にしないか?」
一口飲んだ烏龍茶のペットボトルを、上生が机上に置く。
「マジレスするなら、それは学内に存在する<五つ子>の個体数が多いからの錯覚だな」
「?」
「例えば、お前を含めた 普通の生徒の学内における個体数は<1>だ。が、あの<五つ子>の個体数は<5>。つまり、通常の生徒の5倍だ。 当然、目撃率も5倍になる」
「…いや。<五つ子>は……同じ人間が5人いる訳じゃないだろ?」
「それは、個体識別が出来る場合だ」
机に置かれた、自分の弁当箱のおかずの残りを確認する上生。
手を伸ばして箸で取ったのは、最後に残った卵焼き。
それを口に運ぶと、ゆっくり咀嚼してから飲み込んだ。
「個別に見分けのつかないお前は、別の<五つ子>に出会っていても『また<五つ子>?』『ここにも<五つ子>?』と 同じ人物扱いで認識してる筈だ」
「じゃあ── お前は見分けが付くのか? あの<五つ子>の」
「当然付かない。が、別に困ってないぞ??」
「、、、」
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(でも、僕は出来るんだよなぁ。五つ子の見分け)
藍雨と上生のやり取りを耳にだけには入れながら、陸木は手にしたペットボトルの口を見ていた。
(まあ…判るのは……<あの子>だけなんだけど………)
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(また、五つ子だ)
陸木も最初は、そう思うだけだった。
なにせ、皆同じ顔で背格好。
誰を見ても、それぐらいしか思えなかった。
が、ある日 ふと気が付く。
(なんかひとりだけ、違って見えるないか?)
それを確信したのは、3人でいる五つ子を見た時だ。
じゃれ合っているので、立ち位置は頻繁に入れ替わる。
なのに、<あの子>だけは どこにいるのか直ぐに判った。
(無意識にずっと目で追っているひとりを── そう錯覚してる?)
ふと思いついて、一旦ワザと目を逸らしてみたりもした。
3人はじゃれ合って、一時も同じ場所にはいない。
(これでも…<あの子>が見分けられれば……)
再び、五つ子を見る陸木。
(やっぱり、<あの子>だけは見分けがついてる!)
その動きを目で追いながら、陸木は考える。
(<あの子>は他の子と何が違うんだろう。雰囲気? 所作?? オーラ???)
とにかく理由は良く判らないが、陸木には ひとりだけが違って見えるのだ。
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事あるごとに<気になるから目で追う>を繰り返した結果。
いつしか<あの子>は、陸木の特別な存在になった。




