6.そう言う事情かぁ。
「あれ、ひとり?」
待ち合わせ場所の、駅前のからくり時計の前。
スマホから目を上げた文夏さん。
その視線が、自分に声を掛けた人物で止まります。
「というか、亜夜ちゃんでも香夜ちゃんでもない??」
文夏さんは、口に出す言葉を探しているであろう相手をしげしげと観察しました。
「あ、もしかして<アタシの双子ちゃん>の3人目な佐世ちゃん?」
「は、はい」
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「なるほど──」
からくり時計前から少し離れた場所にあるベンチ。
そこに向かう道すがらで文夏さんが呟きました。
「…そう言う事情かぁ」
その左隣を、佐世さんは半歩遅れて歩きます。
「申し訳ありません」
「いや、佐世ちゃんが謝ることじゃないし」
「強いて言えばばアタシが悪いかもだけど──」
「…でも、アタシも悪くない☆」
立ち止まった文夏さんが、佐世さんの顔を見ます。
「だよね?」
「ど…どうなんでしょう……」
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「そう言えば文夏さん」
ベンチに腰掛けた佐世さん。
先に座っていた右隣の文夏さんの顔を見ます。
「何で今回は、直ぐに私があのふたりじゃないって判ったんですか?」
文夏さんは、右手の人差し指を立てました。
「ぬ?」
その指の先を、自分の鼻の先に当てます。
「まあ、付き合い長いからね」
指の先で文夏さんは、ゆっくりと鼻の頭を叩きました。
「…そう言えば、初めて佐世ちゃんと会ったと時には、パニクってたかぁ」
その指が、突然止まります。
「あれは── 事前知識なしで佐世ちゃんに会ったからだからね? <アタシの双子ちゃん>と見た目が同じなのに、どこにもあのふたりの特徴が見つからないんだよ?? まさか、双子ちゃんと同じ容姿な佐世ちゃんみたいな人の存在なんて、想像もしないじゃない???」
文夏さんは、自らへの言い訳と自己分析でテンションの上がった目を左隣に向けました。
視線を受けた佐世さんは、頷くことしかできません。
同意を得たと理解し、文夏さんの口が緩みます。
「だから、パニクっても仕方がないよね☆」
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「とにかく今日は…」
落ち着いた文夏さんは、隣の佐世さんの左肩を抱きました。
「佐世ちゃんが<おねぃさま>を構ってくれる訳だ」
「はい」
「…無理してない?」
「してません。楽しみにしてました☆」
「そっかぁ」
正面を見ていた佐世さんの視線が、右側の文夏さんの顔に移動します。
「文夏さんこそ、私で宜しいんですか?」
「ぬ?? <アタシの双子ちゃん>の3人目がお茶の相手をしてくれるのなら、無問題」
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「じゃあ、お茶会のお店に行こうか」
佐世さんの肩から手を離す文夏さん。
勢いよく、座っていたベンチから立ち上がります。
「今日は、<ふたりっきり>で楽しもう☆」
「はい♪」
文夏さんは、続いて立ち上がった佐世さんに左腕を差し出しました。
「あ。実は<おねぃさん>、社畜なお陰で小金持ちなの」
佐世さんの右腕が自分の腕に絡んだのを確認して、文夏さんが歩き出します。
「だから── 財布の心配はしなくて良いよ?」




