2.お・ね・が・い
「だってあの5人さん…」
私の方に近づいて来た担任さん。
目の前で、どこかのアニメ作品キャラの様な声を絞り出す。
「いつも一緒にいるんですよ?」
「誰が誰だか、見分けが付かないと??」
「はい」
「那世は特に、5人でいる時こそ積極的に騙そうとしますからねぇ」
担任さんは、細かく頷いた後で、遠い目をした。
「まあ──」
「?」
「あの5人さんが仮にひとりでいても、誰が誰だか判らないんですけどねぇ。結局は」
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「教師が…」
私は自分の鼻の下に、左手の親指の腹を当てる。
「自分が担任してるクラスの生徒の顔の見分けがつかないなんて、結構な問題発言ですね?」
「だ、だってぇ!」
「まあ、あの五つ子にかんしては仕方ないとは思いますが」
担任さんは、私に顔を近づけた。
「ですよね? タダでさえ容姿が全く一緒な5人が、あろう事か同じ制服を着てるんですよぉ!?」
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「で、先生?」
私は、担任さんに踏み込まれた分だけ後ろに下がる。
「私を呼び止めた目的って、<五つ子談義>をするためじゃありませんよね??」
担任さんは更に踏み出し、私の努力を無駄にした。
「紀暦さんってぇお友達だから ──あの5人さんを、見分けられる人じゃないですかぁ」
「まあ…そうですけど……」
「だからぁ。那世さんを確保して、連れてきて欲しいなーって」
断る言い訳を捜している私の耳元に、担任さんが囁く。
「お・ね・が・い」
私が好きな、あの作品のキャラ。
どこかそれに似た ほわほわなアニメ声のお願いに、私は抗えなかった。
「─ わかりました」




